あの子のお母さんもAV女優!? 2話
ツクツクボーシ、ツクツクボーシ
暑さで目が覚める。
俺の家の辺りだとミンミンゼミよりもツクツクボーシの声が聞こえる。
しかし、日本人はこの虫の音を擬音にするのはとても上手いと感心しつつ、いい加減この暑さと音に対しても若干の嫌悪感を感じて目覚めの悪い朝を憂んでいた。
え?クーラー使えばいいって?
いや、クーラーつけて寝るとマジで具合悪くなるから付けないんだけど、付けないなら付けないで目覚めが悪くなってしまう。
改めて地球温暖化というのは異常事態なのだと憂んでみるが俺一人でどうこうできる問題でもないので順応せざるを得なかった。
今日も夏期講習である。
みんなとは夏休みの後半に沖縄の旅行に行こうという約束をしているのだが、それまでは各々の予定でみんな頑張っている。
龍とかも「精神と時の部屋に行ってくるわ!」とか言って勉強しているのだ。
不良のくせに医学部に行くために勉強をしている友人を持つとどうにも俺も勉強しなきゃという気持ちになる。いいライバルを持ったと思い、今日も夏期講習に向かう。
「おはよ……母ちゃん。」
「直輝おはよー!」
この人は俺の母ちゃんの天野遥香。
元売れっ子のAV女優で数年間売上トップを記録した伝説を持つ。
今日も染めているが毛先まで整った髪質と、健康的な褐色肌、子供を産んでいるとは思えないほどのプロポーションをしていて人気なのもうなずける。
「ご飯つくったよ!」
「ありがとう、今日は何かな?」
「今日はアサイーボウルとトースト!」
これまた、癖の強い物を。
母ちゃんは料理が好きなのだが、たまに方向性が近未来すぎて何言ってるか分からない時がある。
「アサイーってなに?」
「んー、確かヤシの仲間だった気がする。」
俺は、この謎の紫がかった食べ物をほうばる。
「……意外と美味い。」
「でしょ!」
母ちゃんは嬉しそうだ。
太陽のような笑顔を見せてくれ、俺もどこかそれを見て安堵する。
「今日も夏期講習?」
「うん、そろそろ進路も固めたいけどその前にある程度学力をあげたいからね!」
「偉い!さすが私の息子ね!」
母ちゃんは俺の頭を撫でてくる。
もうある程度の年齢を重ねると若干の嫌悪感が出てくるのだが、俺は産まれてこの方反抗期になったことがないので特に抗うこともなかった。
おっと……そろそろ夏期講習だ。
「なーんか、飯田くんが迎えに来ない朝って珍しいわね。」
「あいつ、今伊豆に言ってるらしいよ。」
「そうなの!?いいな〜、私たちも今度旅行行く?」
「気が向いたらね〜いってきまーす。」
「行ってらっしゃい。」
☆☆
「Good morning everybody? How are you?」
夏期講習が始まるなり英語で先生が話し始める。
俺たちは半分死んだ目で英語で答える。
「OK!sit down!みなさん!今日もbeautifulな発音でした!」
妙にビューティフルの発音がネイティブなのが鼻につく。
いや、なにも知らないと普通の授業に見えるじゃん?
でも、この状況は明らかに違った。
「それでは皆さん……日本史の勉強をはじめます。」
「ちょっと待てコラーー!!」
誰?なんなのこの先生、ちょっと癖が強すぎないか?
なんで日本史なのにネイティブに英語からやり取りするんだろう。
「What?皆さんどうしたんですか?」
「失礼ですが先生は……海外出身なのですか?英語が混ざってるんですけど。」
明らかに異常な光景に俺たちは恐れ戦いていた。
これ、モニタリングとかされたりドッキリとかじゃないよね?
「OK!アイムフローム……我孫子。」
めっちゃ千葉県民じゃねーか!
だめだ……先生の鬱陶しい英語のせいで幕末時代の坂本龍馬や西郷隆盛の話が入ってこない。
せめて世界史の話をして欲しいくらいである。
今日も隣は上原さんが座っているのだがどうだろう……。
上原さんを見る。
「……(プシュー)。」
いかん、情報量が多くてフリーズしてやがる。
珍しく今日の夏期講習は頭に入ってこなかった。
☆☆
「上原さーん。」
「……。」
上原さんは、独特な授業で疲れ果てて机に突っ伏していた。
あとで苦情を入れておこう。
「瑞希さーん。」
「……。」
「おやつ。」
「(ばっ!)、おはよう天野くん。」
……こいつ本当に犬なのかもしれない。
なんでおやつって単語は聞こえるんだろう。
彼女にパピコをを渡すともしゃもしゃと食べていて、やはりこいつはチワワなんだなと思い知る。
「さっきの先生やばかったよなー。」
「ほんと……お金払ってるのに損した気分。」
「まあ、お金出すのは親なんだけど……それでもあれは酷かったな。」
「というわけで私に復習をお願いします!先生!」
「はいはい……。」
俺たちはいつもの喫茶店で日本史の復習をする。
上原さんはやはりめちゃくちゃ勉強が苦手で
縄文時代から江戸時代までの時系列がバラバラだったのでそこから教えてみた。
「縄文弥生古墳!飛鳥奈良平安!」
「そう!こういうのは一気にリズムに乗って覚えると五感を使って覚えられるからいいぞ!」
「ほんとだ!わかる!書ける!」
彼女は1歩成長をしていて俺も喜ぶが少し冷静になる。
「……ちょっとトーン落とそう。俺たちめっちゃアホみたいだから。」
「……ごめん。でも、直輝くんの教え方分かりやすくて私は好きだよ。」
「ほう、それはありがとう。そして急に下の名前呼びになったな。」
「その代わり!私のことは瑞希って呼んで!」
「……なんで?」
どうして急に名前呼びにこだわるのだろう。
自分の名前好きだからかな?
「……苗字嫌いなんだ。」
「え?なんで?」
「細かいことは気にしない気にしない!」
彼女は誤魔化す。
なにか理由があるみたいだけど触れて欲しくはなさそうだった。
一先ず、俺たちは日本史の簡単な要点だけを覚えてそこから関連付けしやすいものを肉付けをすると、彼女の正答率は大幅に上昇をした。
気がついたら俺たちは3時間も勉強をしていた。
「ふぅー!まさかこんなに分かりやすいとは!
おかげで勉強になったよ!ありがとう!」
「こちらこそ、教えると逆に頭に入ってきて勉強になったからありがとう。」
「お金は私がだすね!」
一見不当に見えるがこれはそういう契約だ。
そうすることでお互いウィンウィンの関係を気づいている。
「……じゃあ、また明日ね。」
「おーよー。気をつけて帰れよ〜。」
夏限りの少し変わった日常は楽しかった。
いつもとは違う人間関係も面白いな。
……俺もちょっとアイツにもっと勉強教えられるように頑張るか!
俺は少し涼しくなった夜道で汗から温度が持っていかれるお腹が冷える感じがした。
夜道は少し明るくひぐらしの鳴き声も聞こえてくるて……。
さて、帰るとしますか。




