あの子のお母さんもAV女優!? 1話
ミンミンミン……
夏に聞きなれたセミの音が聞こえる。
これは……ミンミンと鳴くからミンミンゼミとはよく言ったものだと感心しつつ、夏という季節が本格的に日本に上陸してきたことを改めて感じる。
気温は30度はとうに超えており、出口のないサウナにいるような暑さにうんざりとしていた。
既にワイシャツも背中の当たりが濡れているのを感じる。
俺は天野直輝、AV女優の母親をもつごく一般的な少年である。
母親の過去を知ってから少しでも頑張ってみようと思って最近は勉強を頑張っており、友達の協力もあって成績はだいぶ良くなっていた。
そして、俺は夏休みという学生に与えられたパラダイスを謳歌……というわけでもなく、高二のこの季節から勉強を進めてないといけないので大学の進学レースのために頑張っていた。
ちなみに僕の友達は頭がいいやつばかりなのだけれど、みんなそれなりに予定があるみたいだ。
飯田蓮という親友は、今は伊豆に行っていて他の友人たちも各々の予定に勤しんでいた。
こんなに頑張っている夏休みも人生で初めてである。
今まではゲーム三昧で、最後に夏休みの宿題の答えだけ移してさっと提出していたな。
夏休みにコツコツ問題を解いた試しがない。
しかし、今回は違った。
勉強が分かるようになったので一気に天才医学部志望の虎ノ門龍いう不良と初日に終わらせてしまったので、俺はさらに成績をあげるように夏期講習を入れまくっていたのだ。
これも母親のAV時代の稼ぎで活かしてもらってるのでありがたい。
いつか恩返ししなきゃいけないな。
ちなみに夏期講習に行き始めて、はや5日となる。
普段知りえない他校の人なんかが来ていたりするので、少し人見知りをしてしまうのだが、1人だけ毎日顔を合わせ咳が近い子がいた。
「う……この問題は……あれ?」
彼女は上原瑞希、隣街の女子高の女の子らしく服装は少し上品な感じだった。
そして、身長は小柄でスレンダーな体型をしており同い年にしてはやや幼めな印象を受けた。
そして、ひとつ気づいたことがある。
「……わからない。無理無理無理無理カタツムリ。」
この子、明らかにこの夏期講習についていけてない。
やる気はあるのだけれどどうにも容量が悪いタイプだ。
俺は席が近い事が多いのもあるがなんかほっとけなかった。
きっと、医学部志望の不良の虎ノ門龍が俺に勉強を教えてくれた時もこんな感じだったのかなと思う。
「……上原さん、この問題はここをかえたらどうかな?」
「え……?あ……わかった。」
うん、地頭はいいからヒントを与えれば正解には着くタイプである。
このように最近の俺は彼女に適度に助け舟を出していた。
キーンコーンカーンコーン……
「はい!本日の夏期講習は終わりです!」
講師の先生からまずは1年生の復習などをさせてもらい、俺は充実感に溢れていた。
去年倒せなかった敵をらくらく倒せる小さな成功体験がとても嬉しく感じた。
「……うう。」
対して彼女は、生涯を終えるミンミンゼミのように机の上で突っ伏して力尽きていた。
あだ名はセミ子と読んだ方がよいのか……?
じゃない!彼女を起こしてあげないといけないな!
「上原さん、大丈夫?」
「うん……天野くんだっけ?いつも助けてくれてありがとう。」
セミ子……もとい上原さんは少し涙目だった。
どうして彼女はそんなに勉強にこだわるのだろうか?
あまり勉強が好きそうにも見えないんだけどな。
「良かったら、カフェでも行かない?暑くてアイスコーヒーでも飲みたくてさ。」
「うん!行く〜!」
彼女はセミというか……チワワという方が印象が近いのかもしれない。
普段は警戒心が強いのだけれど、懐くとしっぽを振っているのがわかる。
彼女はよく食べるのでこうして餌付けもする反応もみていて心が和むのだ。
☆☆
俺たちはカフェについて注文を選んでいた。
俺は軽めにサンドイッチとアイスコーヒーを選ぶ。
それに対して彼女は……。
「すみません!ハンバーグとミートソーススパゲティとサンドイッチお願いします!」
恐るべきほどの大食いだった。
今は彼女として一緒にいる佐倉舞衣と同じかそれ以上に食べる大食いなので俺は圧倒されてしまう。
「……よく食べるね。上原さん。」
「ほりゃあほうでほ!おいひいほん!(そりゃあそうでしょ!おいしいもん!)」
「……食べるか、喋るかのどっちかにしようか。」
彼女はものすごい勢いで食べていて、みるみるうちに山のような量の食べ物が無くなっていく。
そんな150cmもない小さな体のどこに入って行くのだろうと少し驚く。
「それにしても……上原さんもさ、すげー勉強頑張ってんじゃん。なんかちょっと前の俺を思い出してほっとけないよ。」
「え、そうなの?天野くんいつも問題解くの早いよね?」
「ああ、なんか無駄に勉強できる友達が良く面倒見てくれるようになってね〜おかげで底辺から少しはマシになったよ。」
こうして見ると本当に友人の助けとはこうも人を変えてくれるので友人を軽視していた自分を殴りたいくらいだ。
「いいな〜私の学校女子校だからさ、なんかネチネチしてて居心地が悪いというか……気持ち悪いんだよね。」
「あ〜、女社会だとそうだよね。上品なイメージとかあるけど。」
「いや?机の上で仰向けで寝てる子とかいるよ。」
「……動物園?」
「女はね、張り合う男がいると身なりに気をつけるけど居ないと男子校以上の野蛮さを見せるんだよ。」
それは、ある業界で怒られる見解なのでは無いかとおもいつつ、ひとつの事実なのだと思う。
「ねえ、天野くん?私と契約を結ばない?」
唐突に彼女が妙に提案口調で話す。
嫌な予感がするんだけど。
「……どんな契約?」
「勉強教えてください!なんでもしますから!」
「……ほう、ではまず四つん這いになって……ゲフンゲフン!」
急に何でもしますって言わないで欲しい。
ネットではそこからゲスい展開になりやすいから。
昨日Xで流れた漫画にそういうのあったからつい口走ってしまった。
「……なに?」
「ごめん、なんでもない。」
「わかったよ、じゃあ夏期講習が終わった午後に勉強教えてあげるよ。」
「わーい!ありがとう〜!食事代はその代わり出すからね!」
彼女はお金持ちなのだろうか?
意外と髪質もよかったりするし、育ちはわからないけどお金かけてる感じもする。
俺は夏限定で友達ができた。
まあ、この暇な夏休みにはちょうどいいのかもしれない。
夏は始まったばかりでこのコンクリートの砂漠である都会はどこまでも陽光を反射して熱を持ち陽炎を作り出していた。
さて、どんな夏休みになることやら。




