隣のグビ姉は小説家 15話
ここは伊豆シャボテン動物公園である。
伊豆は動物園も多くあるのだけれど、ここは名前の通りサボテンと温泉に入るカピバラが特徴的な所である。
俺たちは大室山を下山したあとはこの動物公園へと足を運んでいた。
「ねえ、知ってる?れんれん!」
「はい、なんですか?」
「カピバラってどういう意味だと思う?」
「え、カピバラって意味有るんですか?」
「あるに決まってるじゃん!例えばモグラは土の竜とかフグなんて河のブタだよ!そんな感じで考えてみて!」
「なるほど……じゃあ、大きなネズミなんでどうですか?まんまですけど。」
「ぶっぶー!」
ちょっと公衆の面前のその効果音が恥ずかしくなってきた。
「じゃあ、笛吹さんはどういう意味か知ってるんですか?」
「知ってるよ。草原の覇者。」
「は?」
「いや、まじで草原の覇者だよ。」
名前負けにも程がある。
普通それはライオンとかゾウとかカバに与えられるべきだと思うんだけど。
半信半疑でGoogleで調べてみる。
「マジかよ……。」
「ね?ホントだったでしょ?」
Googleは笛吹さんと同じ答えを伝えていた。
「笛吹さん……その博識さをなんというかその……生活に活かしてみたらどうです?年金の滞納がうちに来るようになったんですけど。」
「……それは苦手だからできない。年金ってなに?よくわかんない。」
あまりに潔がよすぎる。
しかし、草原の覇者のカピバラさん達はこうも気持ちよさそうにのほほんと温泉で温まっている。
名前負けもいいところだ。
「笛吹さんみたいですね、カピバラって。」
「んー?どーゆーことー?」
「メディアで笛吹さんの名前を調べると空前絶後の天才小説家とか令和の太宰治だなんて言われてるけど……実際はこんな感じだし。」
「おい〜今お姉さんをいじったな〜?辱めて笛吹さま( 。∀ ゜)しか言えない身体にするぞ〜!」
「いや、怖いんでやめてください。そして、謎の焦点の合ってない絵文字を見せないでください。」
笛吹さん、また酔っ払って適当なこと言ってるな。
ポケットに鬼ころしの紙パック持ってるし……あの人まじでこの3日間シラフの時なかったな。
「あ、カピバラ触れるみたいですよ?」
「……なんか、れんれん私のスルースキルが上手くなってきてない?」
「え?なにがですか?」
「もーいーいー!カピバラ辱めてくる!」
「大きな声で変なこと言わないでください!みんな見てるんですから!」
☆☆
「カピバラってどこ触ってもいいんですね。どこから触ります?」
「おしりだぜ〜ぐへへへへ〜。」
笛吹さんはいつも通りである。
「ん〜、なんだ……もふもふしてるかと思ったらタワシみたい。」
「結構硬いんですね。」
「んー、基本的にどこ触っても嫌がらないのか〜おしりと……あ!お腹も気持ちよさそう!ここがいいんだ!」
おお……笛吹さん動物の扱いが上手である。
カピバラは気持ちよさそうに目を閉じていて可愛かった。
すると、もう1匹……もう1匹とカピバラが集まってきた。
「ちょ!おま……まてまて!1匹ずつきて!ぎゃー!助けて〜!」
笛吹さんはカピバラに過度に懐かれてしまった。
あ〜聞こえる。カピバラから笛吹さま( 。∀ ゜)って声が聞こえる〜。
「れんれん〜助けて〜。」
「はいはい。」
俺は、カピバラの群れから笛吹さんを救出する。
笛吹さんは……ぶるぶると震えていた。
「……笛吹さま( 。∀ ゜)。」
「……ごめん、謝るからそのくだりもうやめよ。」
笛吹さんは小動物の方が近いのかもしれない。
☆☆
ここは動物もあるのだけれど、サボテンも幾つも飾っていてそれだけでも目を奪われて楽しかった。
「そういえば、サボテン俺昔育てたことありましたよ。」
「お!?れんれんもそういうとこあるんだね!私もある〜。」
「育てられたんですか?僕は難しくて最後はからしてしまいましたよ……。」
「水の上げすぎじゃない?あと日光に当てすぎてもダメだよ。」
「そうなの!?え、サボテンって初心者向けの頑丈な植物じゃないんですか?」
「んー、結構デリケートだよ〜。過度に水を与えすぎてもダメ!ちゃんと主体性を持って行かせないと!」
そうか……それは盲点だった。
あれ、でもこの意見ちょっと違和感ある。
「笛吹さん、枯れかけてませんか?お酒で溢れかえってますよ。」
「いや〜!私からお酒とったら何も無くなるの〜!」
「いや、何かは残るでしょ!ほんと……早死しますよ。」
「動けなくなったら介護して〜。」
「え〜どうしよっかな〜。」
「じゃあ、私と添い遂げてよ〜。それならその規約が確定するじゃん。」
「え、します?いいですよ。」
「え!?」
俺は真顔で彼女の提案に乗ろうとした。
正直、笛吹さんと一緒にいるのは楽しいからそういう人生もいいかもしれないと結論づけていたので咄嗟にそう返答する。
「そ……その……えっと……。」
「なんて、冗談ですよ!でも……そういうのも悪くないって思いました。」
「ちょっと……れんれんは卑怯だよ。」
「……え?」
「なんでもなーい!」
笛吹さんはサボテンを徘徊に振り返りながらまたいつもの不敵の笑みに戻った。
「帰るか!私たちの家に!」
俺たちは、ある意味家族のようだった。
この旅を通してただの同居人ではなくなった気がする。
それもいい、彼女と僕は唯一の理解者なのだから。
「……帰り、カピバラのぬいぐるみ買っていい?」
「ダメですよ。笛吹さんいつもUFOキャッチャーでぬいぐるみ沢山持ち帰ってくるじゃないですか。より俺の部屋が溢れてしまいます。」
「わ……わぁ!わあ!」
「……突然のちいかわやめてください。ちいかわに溢れた部屋を思い出すんで。」
「片付けてくださいよ。」
「あれはわたしのちいかわランドなんだよ〜。」
「いや、床に酒と混じって巣みたいになってるだけじゃないですか!」
……最後まで俺たちはいつも通りだった。
帰ったらゆっくり眠るとしよう。




