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僕のお母さんは△▽女優  作者: kyonkyon
第5章 隣のグビ姉は小説家
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隣のグビ姉は小説家 11話

俺こと、飯田蓮はもしかしたら不幸な人生だったのかもしれない。


俺は物心着いた時は順風満帆だった。

両親がデキ婚という所以外は、最初はあまりに普通だったことを覚えている。


俺は、今は水泳だが最初は野球部だった。

父親が野球が好きだったから、その影響もあった。

とにかく小学校が終わったらキャッチボールして……そんなことばかりだったかも知れない。


しばらくして、両親は美容院を創業をする。

朝から晩まで働いていた。

今思うと、制服の10万円でさえかなりの出費なので俺の父親は本当によく頑張っていたと思う。


「こんにちは〜!」

「飯田さん!また来ちゃいましたよ〜!」

「ありがとうございます!今日はどうします?」

「そうですね〜じゃあ、パーマとヘッドスパと……。」


親父はとにかくストイックだった。

でも、それを見せないほどに親父はフランクな話し方をしていて、お客さんはどんどん親父にリピートして言った。


しかし、問題もあった。


「いや〜!俺ね〜こういうブランドが好きで〜!」

「そ……そうなんですね……。」

「田口さん、お客さんに自分語りしすぎだよ……!」


なかなか親父は経営を頑張っていたのだが、従業員に恵まれなかったと思う。

親父は育てるのだが、お客さんを作る事よりも自分語りする奴とかいて、結構頭を焼いていた。


もう一つ問題があった。


「お前さ!なんでブランド物買っちゃうの!?言ったよね!?蓮の中学の制服とか野球のグローブとかで貯めてんのに、なんで散財するんだよ!」


俺の母親は、浪費家だった。

ブランドが好きでこうして生活費や教育費からはお金をくすねていた。

俺は、そんな母親を見て見ぬふりをしていた。

時折母親は親父の美容院の手伝いをしていたが、基本は家事は母親がすることになっていた。


だからこそ親父は家族の為に身を粉にする勢いで、必死に働いていた。それ故に知らなかった……母親の裏でやっていたことに対して。


今でもアルバムを見返すとわかる。

俺は服がいつもボロボロだった。

そして、母親はルイヴィトンのバッグなどをつけていた。

俺は母親が周りからお下がりをもらっていて……その服を着ていて、浮いた生活費や服などは全部……!母親の浪費へと消えていったのだ。


それを親父が見て何度も叱責をするから……俺の家庭はとても居心地が悪かった。

それでも、俺は行き先の分からない不安が強かったので漫画を見て現実逃避することしか出来なかった。


そして、悲劇は始まる。

ある晩のことだった。地元の祭りに家族と友達で行っていた時にの事だった。


「ねえ、蓮?そろそろ帰らない?」

「なんで?まだ早いじゃん!俺友達と遊びたいからもーちょいいるわ。」

「そう?それならいいんだけど。」


親父は祭りの日でも働く、でも途中で祭りに顔を出しに行くのだ。

それが、終わりの始まりだった。


「蓮〜、迎え来たぞ!」

「ありがとう〜!親父ー!」


親父は、とにかくできる限り俺にも関わってくれていた。

地元の祭りは家から3キロほどのところにあるので迎えに来てくれるあたり、親父は優しかったと思う。

しかし、その時だった。


「あれ?あいつ……。」

「母ちゃん……だよね……?」


母親は……知らない男と一緒にいた。

家にいる以上に楽しそうに。

俺たちはそんな一部始終をみてしまったのだ。

しかも、俺が所属してる少年野球チームの友達の親だった。


「なあ、あれどういうこと?」

「……わかんない。」


結果は、クロだった。

母親はブランドと……男に囲まれないと気が済まないやつでこうして家族を裏切っていたのだ。


俺たちの家庭は疑惑に染ってしまう。


「お前……いい加減にしろよ!」

「ひい!」

「お前さ!なんで蓮を見てやれねえの!何してるの!」

「ごめんなさい……ごめんなさい。」


親父は、正直疲れていた。

経営、仕事、家庭、全てを一身に背負っていて行き場の無いストレスに苛まれていたのだろう。

それでも、それ以外のところでは親父は決して弱みを見せなかった。


仕事の時は、相変わらずフランクだった。


「飯田さん〜!また来ちゃいました〜!もう、この前の髪型でめちゃくちゃ褒められて〜!」

「え〜!めっちゃうれしい!あざっす!」

「友達にも飯田さんのこと話したら……来たいって言ってましたよ。」

「えー!そうなんすか!最近、ほんと大きくなって……皆様のおかげです。」


家庭が壊れる代わりに……親父の経営はどんどん成功して言った。

本当に、すごい父親で父親というかもはや尊敬する社長だと思った。


それと反比例するように……母親は過ちを繰り返して言った。

ある日、母親は近くのアパートに別居した。

どうやら、離婚をすることになりそうだった。

俺は、成り行きで母親のアパートに行くことになる。


「ねえ、私の家に来る理由ってさ……WiiUがあるからでしょ。」

「それ以外ある?」

「ねえ!ちょっとこれからの事を考えた方がいいんじゃないかな?」


その日は、母親の姉が来ていた。

姉はその娘とペットのチワワを連れていた。

彼女はまともな人だった。

19で子どもを産んでからは……そこから夫のために尽くしていた。

だからこそ、危険な思考をもつ母親のストッパーになっていたのだが……もう泊まることは無かった。


「こんにちは〜!」

「……誰なの?」

「え!加藤くん!」

「あんた……まさか。」


別居した理由は簡単だった。

男を連れ込むため……それだけだった。

俺は、今思うと小6という若さにして英断を下したと思う。


ガサゴソ……。


「あれ、蓮どっか行くの?」

「うん、親父のところ。もう帰らないから。」


俺は、その日をもって母親と決別をした。

もう無理だと思ったのだ。


俺は、1kmもしない距離の我が家に服とWiiUをもって帰ったのだ。


「あれ?蓮どうしたの?」

「ああ、今日から親父の所にいるから。もう、あの母親の元にはかえらない。」

「へ〜そうなん。」


親父はその時の反応はめちゃくちゃあっさりだった。

いつも通り、野球から帰ってきたあとみたいに接してくれた。


しかし、その晩だった。

親父は婆ちゃんに電話をかけていた。

俺は、その様子を聞いてしまった。


「お袋……蓮が……帰ってきてくれた。ひぐっ……俺、アイツのために頑張るよ。必死にさ……これまで以上に。」


俺は、それからどんな時でも親父について行こうと思った。

残りの数年間も親父は何時いかなる時もストイックであり続けた。しかし、ストイック過ぎたのだ。


「飯田さん〜!また来ちゃいました!それにしても……また内装綺麗にしたんですね!」

「お!また来てくれたんだ……ありが……と……う。」


バタン


「飯田さん!?」

「きゃあああ!救急車!救急車よんで!」


その一部始終を……俺は見ることも出来たなかった。

その日、俺は最後の野球の試合をした。


ピッチャーで……最後にカーブを投げた時に気がついた。

俺は、その日肩を中学生という若さで壊してしまった。

親父に報告しようとしたが電話に出ないので帰ったら、親父はクモ膜下出血ですでにいなかった。


尊敬していたのに、もっと言葉をかけるべきだった。

あまりにショックが強すぎて……俺は感情がフリーズしていた。


俺は、身寄りがなかった。


最終手段である、あのにっくき母親に電話するしか無かった。


「……母ちゃん、親父……死んだんだ。」

「蓮、あなたもう扶養じゃないから……。」

「はぁ!?ざけんなよ!」

「強く生きるのよ。」


……俺は中学生にして最大のピンチを迎えていた。

もうおしまいだ、誰にも心を開くことは無いだろうと思った。

幸せとはなんだろう、俺が何をした。

何が俺を奪ったんだ。


でも、母親と暮らすのは少し癪だった。

母親はあれから3回以上男を変えていたのでそれを家庭にするよりかは……幾分ましだったかもしれない。


「あ〜ら〜、なんかお兄ちゃん……両親に捨てられて絶望してる顔してるね。」

「はぁ!?何言ってるんだよ……あんたに何がわかるんだ。」

「君は……自由になった。この状況を……君は解放されたと認識した顔をしているよ。」

「そんな事……!」

「私は、笛吹さやか!お隣さんよ!」


☆☆


気がついたら、俺はそんな過去を1時間を程……海を眺めてしゃべっていた。


「……。」


笛吹さんは何も言わない。

ただ聞いているだけだった。


「俺、もし神がいるのなら許せないです。こんな、永遠の夜のような仕打ちをして……。それでも俺は笑うことしか出来ないんですよ。」


俺は、景色が暗くなるにつれ、ヒートアップをしていた。

こんな人生、あっていいはずがない。

俺は全てを奪われたのだ。


「れんれん……聞いて。」


初めて、笛吹さんが喋った。


「なんか、れんれんは明るく振る舞うほど、時折全てを見据えたような悲しい顔をするから、私は不思議だった。」

「そうですね。」

「でもね、れんれんは1人じゃないんだよ。

裏切られて、失って……それはもう言葉で表せるものじゃない。だからこそ言いたいの!」


彼女は、一呼吸置く。


「私はね、物心ついた頃から、施設育ちだった。

親の顔も声も知らないで1人だった。それに私はポンコツだからさ……社会も私を爪弾きにするから、死ぬことも覚悟していた。でもね、私はいま!ここにいる。あなたと一緒にここで波風を聞いて、同じ土地で同じ時間を生きている。私は、君の言う永遠の夜を終わらせたんだよ。一人の力じゃない、天使のおっさんとか、編集長、れんれんだって私の夜を空明けてくれている。」


彼女は堂々としていた。

俺に全て向き合うような姿勢で。


「止まない雨はないし、冬がずっとある訳でもない、明けない夜だって存在しないんだよ!れんれん……私は、あなたの味方でいるよ。私と一緒に……夜を終わらせよう。だって、私とあなたは……夜の住人だから、そろそろ日を見てもいいでしょ。」


いつもの酒で目が据わった笛吹さんはいなかった。

俺は、久しぶりに泣いた。

誰にも話せない過去を告げて、俺は泣き崩れた。

そんな俺を、静かに笛吹さんは抱きしめる。


まるで、それは形は違えど……1つの家族のようだった。

闇夜の中で黒船は去る。

まるで、俺たちの夜明けが近い事を示唆するようだった。

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