隣のグビ姉は小説家 9話
ここは堂ヶ島。
伊豆の有名なスポット……三四郎島と島があり、たまに潮の満ち干きにより、島と陸が繋がるトンボロという現象が有名な島である。
俺たちは、事前にその潮が引くところを待って、食堂で海鮮を堪能していた。
「うめええええーーー!」
そして、ガツガツと食べる笛吹さんは刺身を味わって喜んでいた。
笛吹さんは普段は食料に飢えているので本当に美味しそうに食べている。
子どもみたいで可愛らしいと言えば可愛らしいのだが……。
「ふ……笛吹さん、そんなにガツガツ食べなくても……まわりが……みてます。」
「んう?ふぁいほうふふぁいほうふ(大丈夫大丈夫!)」
「喋るか食べるかのどっちかにしなさい!」
笛吹さんはお行儀が悪い。
しかも箸の持ち方も歪なのでなにかと周りから注目されてる感じがしてとても恥ずかしかった。
そして、彼女は片手にまたお酒をもっている。
「ほんっと…お酒好きなんですね。いつから飲んでるんですか?」
「ん?小説書いて……デビューするちょっと前!」
「ってことは……酒飲んでから売れたんですか?」
「なんかね〜シラフだと文章が難し過ぎるんだって!
編集長にしか理解されなかったけど、それでもやめた方がいいって言われた!」
「よし、こんど48時間かけて酒抜きしましょう。」
「殺す気かよ〜、れんれんって結構Sだよね。」
Sかどうかは置いておいてシラフの笛吹さんがどうなのか見てみたい。
え、みてみたいよね??
「それにしても、何でトンボロなんて表現なんでしょうね?どっかの国の言葉なんですかね?」
「なんだ!れんれんそんなのも知らないのか?かぁ〜!これだから若者は!」
「いや、7個しか離れてないですって。」
あれ?でも7個ってことは俺が小一の頃に笛吹さん中二位の年齢と考えると……そこそこ離れてるのか。
彼女は続ける。
「トンボロはね〜イタリアの言葉なんだよ!」
「そうなの!?」
「そうだよ〜ググってみそ〜。」
「マジだ!すげえ、笛吹さんって無駄に博識ですよね。」
「無駄ってなによ!無駄って!」
「今のところ知的なところ見たことないんですよね〜。」
「それって!あなたの感想ですよね!」
笛吹さんが突然ふざけ始める。
それ、どこのニコ○コ動画の創業者の論破王ですかね?
すると突然、周りの人達が席を離れた。
トンボロ現象が始まりかけていた。
先程まで海だったところが徐々に浅くなっていき、陸続きになっていく。
その満ち干きを人々はゆっくりと眺めていた。
「おお!これがトンボロ!神秘的ですね〜!直輝が太鼓判押すわけだ。ね!笛吹……さ……?」
笛吹さんは俺の隣にはいなかった……あれ、どこいったんだ?
さっきまで俺の横に居たはずなのに?
「わああああーーー!」
すると、大声を出して海に靴を履いたまま突っ込んでいく笛吹さんが海にいた。
「おおい!笛吹さん!?なにして……まだ潮引いてないですよ!?」
「あはははは!れんれん〜めっちゃ気持ちいいよ!」
「ちょっと!?何してるんですか!マジで!」
「あはは〜おーにさんこーちらー!」
笛吹さんを俺は海で追いかける。
これは恥ずかしい……周りも微笑ましいカップルと見てるのだろうけど、危なっかしくて仕方がない。
「あはは〜うお!?」
「危ない!」
俺は……ふと、転びそうになる笛吹さんを抱きとめる。
いかん、手を掴めばいいのに抱きしめてしまった!!
暫く制止する。
俺の心拍数は上がっていった。
「もう、はしゃぎすぎないでくださいよ。」
「……ごめん。」
俺たちはゆっくりと離れていって気まずい空気が流れて言った。やばい、ちょっと怒りすぎたかな?
そんな俺を尻目に急に潮水が顔にかかってきた。
「あ!ちょっと!何するんすか!」
「えへへ〜湿気た顔してんじゃねえよ!」
「やったな〜。」
「きゃ〜!あはは!」
俺たちは道が開く前に突き進んではしゃいでる姿は一見道化に見えるけど、これが俺たちのスタイルだった。
そう、今日も俺たちは変わらない。
「れんれん!後ろ見て!」
彼女は後ろを指さす。
気がついたら潮は引けていて、道ができていた。
それが昼の陽光が乱反射していて、幻想的な風景になっていった。
「……なんか、自然ってすごいっすね。どんな悩みもちっぽけに感じるというか。」
「お!?その感覚!いいねいいね〜。」
彼女は突然ペンを取りだし。
左腕に文字を書出した。、
「……何してるんすか?」
「メモ!」
驚いた……彼女にとってキャンパスは常識に捕われることは無いみたいだ。
よくみると、彼女の左腕に色んなものが書いてある。
共同体?他者との分離?
あまりに抽象的な単語が並びすぎていて理解はできなかった。
「……流石笛吹さんです。」
「あ!ちょっと馬鹿にしたでしょ……。」
「いえ……その……独特すぎて理解が追いつかなかっただけで……。」
「海に落とすぞー!」
「ちょ、ホントやめてください!ただでさえ靴びしょびしょなんですから!」
俺たちのトンボロは終始騒がしいものになっていた。
でも、なんだろう……この時間が楽しい。
いつの間にか、俺はこの旅を楽しんでいた。
何も考えず、写真を取らず……でもこの感動を心に刻んでいた。
そうか、これが彼女の言うものなんだな。
楽しい旅はまだまだ続く。




