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僕のお母さんは△▽女優  作者: kyonkyon
第5章 隣のグビ姉は小説家
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隣のグビ姉は小説家 8話

チュンチュン…


朝に雀の鳴き声が聞こえる。

過去に朝チュンと言う造語があったのだが、意味深に表現するこの言葉の意味をたった今理解した。


俺の横には笛吹さんがいる。

そして、あまりにも無防備に眠っていた。


「んー…んー。」


普段寝てるところは見てるのだがこんなに近くで見るのは初めてである。

そして、妙に体温の低い笛吹さんの温度が妙に心地よく感じた。

あれかな、酒とタバコで血管でも詰まってるんじゃね?というツッコミも今は無粋である。


表情をみると無防備な子どもそのものだった。

よく見ると本当に可愛い。

黙っていればきっと男はほっとくことは無いのだろう。


不意に、ぷるんとした唇を見て少しドキッとしてしまった。彼女はこの油断のある感じが妙に心を引きつけるから普段のドライな自分の対応に驚いてしまう。

考えれば考えるほど心拍数が上がるのを感じた…おちつけ、落ち着くんだ俺。


「…れんれん、おはよ。」

「うおっ!?」


びっくりした。

彼女は起きていたのだ。辞めてくれ、本当に心臓に悪いから。


「れんれん…すごくドキドキしてるね。」

「…笛吹さんのせいですよ。」

「でもね…、幸せな時間だったよ!」

「そ…それは。」


確かに俺も幸せじゃなかったかと言うと嘘である。

人との接触は心を安心させると聞くがそういったものもあるのかもしれない。


「へー……勃った?」

「やめてください!!」


起きると、彼女は相変わらずだった。

俺も変わらずである。

多分、距離感が分からなくなった俺に対しての彼女なりの気遣いなのだろう。


「昨晩は、お楽しみでしたね!」

「やめてください、起きますよ。コーヒー沸かしますから。」


俺は急いで離れてコーヒーを二人分淹れる。

とにかく、今はカフェインでも入れて状況の把握がマストである。

今日どこに行くか、とかね。


「笛吹さーん!コーヒー飲みます?」

「あ〜れんれん〜大丈夫〜!私にはこれがあるから〜。」


彼女は紙パックのお酒を飲んで朝イチから酔っ払ってしまった。


「あ!おいおい…早いですよ。」

「えへへ〜迎え酒〜、それからのiQOSを吸うと…あーー!ほんっと幸せ〜えへへ〜。」


昨晩の腕の中の少女はあっという間に酒タバコのジャンキーへと変貌していった。

おかげで俺の息子もいつも通りに落ち着いてくれた。


「もう…スイッチ入りすぎですよ。アルコール抜けてる日なんてあるんですか?」

「…アルコールの抜けきった私はね…トップシークレットなのだよワトソン君。」

「唐突なシャーロック・ホームズやめてください。」

「なんらよ〜もう〜これが飲んでいられるか〜、追加!」

「待って!ほんと死にますよマジで!」

「紙パックの酒はワンコインで酔える…。」

「アル中の末期の方の考えを持ってやがる!この20代!」


なんだろう…普通はさ、男女が一夜をすごしたらコーヒー、朝チュンなどの爽やかだけど少し気まずい雰囲気があるもんだと思ったけど俺たちはそうはいかないみたいだった。


「そろそろ行きますよ。まだ行くところ沢山あるんですから!」

「…詰め込むんだね、れんれんって。」

「え!?」


「例えば…ここにグラスがありマース!」

「…そうですね。」

「じゃあ、ここに大きくて綺麗なロックグラスを入れます!」

「入りましたね。」

「このグラスは満タン?」

「いえ、隙間が沢山あります。」

「じゃあ…次に小さな氷を入れマース!」

「…入りましたね。」

「このグラスは満タン?」

「満タンじゃないんですか?」


すると、彼女はニヤニヤといやらしい笑顔を浮かべた。

まるでなぞなぞを親が間違えた所を煽りたくなる子どものように。


「ぶっぶー!実は…酒がこんなに入りまーす!」

「いや!飲みたいだけじゃねえか!まだ残ってたんですか、ウイスキー!」


彼女は酒豪なのでこんな量のウイスキーも飲めるんだろうけど…飲むための下りを作るとはなんて策士なのだ。


「…話は終わってないよ、れんれん。」

「まだあるんですか!?酒はもう飲まないでください!」

「私がこの下りで何を言いたいかわかる?」

「んー、工夫しだいでいくらでも時間を詰めれるとか?」


グラスにできるだけ氷を入れたりしてるんだからそうなんじゃないだろうか?わからない、俺は頭がいい訳でもない…平均な男なのだから。


「ぶっぶー!」

「笛吹さん、精神年齢低いって周りから言われません?」


さっきから遊んでるでしょこの人。


「このグラスはね〜、れんれんの時間そのもの!」

「ほう。」

「例えばさ、このグラスに今からおっきい氷は入ると思う?」

「入らないでしょうね。」

「そういうことよ!」

「いや、どういうことよ!」


彼女は時々主語とか言葉とか頭のネジとかが外れてる時あるから読み取れない。きっと彼女特有の感性というか、特性なのだろう。


「いーい?大きな氷はれんれんの大事なこと!小さい氷はどうでもいいこと!最初に大事なことをれんれんというグラスにいれないとどうでもいいことに囚われちゃうのよ!」


そして、彼女は一呼吸おいた。


「この旅の本質は目的地に着くことじゃなくて旅そのものを感じて行くのが目的なんだよ。目的地はあくまで手段!れんれんは今は手段に拘りすぎると思うな〜。もっと私と楽しも!」

「あはは…確かに。」


俺は彼女の執筆を手伝おうと思ってたけど、いつの間にかジオスポットを巡るとか楽しむ事を忘れていたのかも知らない。

やっぱり、彼女は天才だ。

小説家たるもの…過程を楽しんで感性を刺激されなけばならないのかもしれない。


「楽しみましょう、目的のない…自分探しの旅にします!」

「それでよろしい!」


俺たちは、ホテルを出てバイクを走らせる。

この旅は笛吹さんの旅でもあるけど、俺の自分探しの旅にでもしよう。


とにかくバイクを走らせる。南へ…南へ…。


「う…アルコールが…足りねぇ…。」

「いや、どんだけ飲まなきゃ気が済まないんだよこのグビ姉がぁぁぁぁ!!」


俺たちの旅は、まだまだ続く。

東から来る陽光と潮風を浴びながら。

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