隣のグビ姉は小説家 2話
チュンチュン……
俺は朝大体5時に起きる。
何となく気持ちがいいからだ。
そして、朝20分はランニングをしていたりする。
これがなんととも気持ちがいい、直輝にも教えたいくらいだ。
俺はランニングを終えて、自分の部屋にもどる。
「ぐがぁ〜ぐがぁ〜。」
そんな日常は笛吹さんにぶっ壊されかけていた。
「す……すげぇ寝相っぷりだよ。」
女の子ってこんなに野太いイビキかくのかと思ったけどそういえばこの人いつも酒を飲みながら小説書いてるんだった。
「笛吹さん!起きてください!」
「ふぇ〜……?蓮くんもう起きてるの?」
笛吹さんは布団から起きる。
すると、服がはだけて見えちゃいけないものまで見えそうだった。
「ちょ……服くらいちゃんと来てください!」
「あはは……私ね〜なんかズボンとか履くの嫌いでさ〜なんというか……普段あんまり服着ないんだよね。」
「もしもし、警察ですか?痴女がいま……。」
「ストーップ!ストップだよ少年!」
すると、笛吹さんが急に抱きしめて俺の通報を止める。
「ダメだ!あなたが更生するところはここじゃあない!独房だよバカヤロウ!」
「いや〜、お願い……何でもするからァ!〇〇でも××でもするからぁ!」
「朝から何言ってるんだあんたは!?」
この人に羞恥心とかあるのだろうか?
ああ……遥香さんみて癒されたくなってきた。
「とにかく!朝ごはんはベーコンエッグと味噌汁でいいですか?」
「うん〜、二日酔いだから味噌汁嬉しい〜。」
にへへと笑う笛吹さん。
いかん、まだシラフかどうかなのも怪しい。
俺と笛吹さんは朝ごはんを食べ終えると、俺は直ぐに外に出る支度をした。
「またどっか行くの〜?」
「ちょっと……お出かけに。」
「私も行く〜。」
「え。」
何故か笛吹さんが俺に同行することになった。
すごい……なんというか、年上のお姉さんというか……人懐っこい猫だなこれは。
そして、俺たちは街中をゆっくりと歩いていく。
途中で本屋さんがあった。
「あ!これ!」
笛吹さんがある本に向かっててとてとと歩いていく。
なんというか、歩いてる姿でも酒に酔ってるのか千鳥足で特徴的なのよな。
「見て〜!これ誰の本だ!」
「この本は……翼の折れた天使?」
見ると、本屋さんの人気ランキングにも入ってるという小説だった。
もうすぐ映画化!とか書いてあるけど……。
「え、まさかこの本って……。」
「えへへ〜私の子よ〜。」
嘘だ!ニートじゃないのかこの人!
なんでこんな実力があるのにこんなに金がないのだろう。
「なんでそしたらお金ないんですか?」
「ん〜酒〜、えへへへへ。」
すると、笛吹さんはくるりと本屋を周りだし幾つか本を見せてきた。
「この子もこの子も!」
「小説のこと子って表現するんですね。」
「えー!だってめっちゃ可愛く思えるんだよ!」
「そうなんすかね。」
きっと、本人なりのプロ意識なのだろう。
こんなにも文学が好きなのかと感心してしまう。
「でも、出版社バラバラなんですね。」
「あはは〜、酒飲んだまま打ち合わせしたり、投稿送れて酒飲んでたりしてて……切られることがあったりねぇ。」
「ちゃんと社会不適合者だ!」
「でもね、本は好きだよ。」
その言葉が……彼女の心そのものだった。
読んでみると荒削りだけど、人物の心情などが細かく書いてあったり、豊富なボキャブラリーに飛んでいてひとつの動作をするだけでも物事はとても深かった。
特に、この翼の折れた天使というのがいい作品だった。
能力を失って天使を追放されるのだけれど、自分は天使でも人間でもないたった一人の存在だと葛藤しつつも乗り越えて、人助けをする主人公がとても綺麗に見えた。
「……これ、買います。なんか普通に面白い。」
「えー!あざっす!」
悔しいけど、笛吹さんの物語は素晴らしかった。
酔っ払いのくせになんて繊細な言葉を使うのだろう。
それが彼女という歪なキャラクターを構成していて、俺はなんというか1つ尊敬をしてしまった。
「ちょっと……ここ寄っていこうよ。」
みると、居酒屋があった。
え、大丈夫なのかこれ。
「大丈夫だよ〜魔法のカードあるし!」
「ダメなやつだこれ!」
そして、俺たちは入店をしてツマミを注文する。
「すみません!しゅとうとあん肝!あ、ししとうも欲しいです!」
「……コーラでお願いします!」
「吉四六もお願いしま〜す!」
笛吹さんは……とにかく酒飲みだった。
食っては飲み食っては飲みの繰り返しだった。
そして……。
「ええ!姉ちゃん翼の折れた天使の作者なの?」
「そうなんですよ〜笛吹っていいまーす。」
「すごい!じゃあビールおじさんがいっぱい奢るよ!」
「えー!まじっすか!」
……知らない人と仲良くなっていた。
そうか、この人こうやって居酒屋で人と仲良くなって奢ってもらってるのか。
あかん、この人の全てが想像つかない。
「え!おじさん経営者なんですか?」
「小さな会社でね……。経営が難しくてたまにここに来るのさ。」
「へー!地獄の一丁目ですか?」
「そう!まさに地獄の一丁目さ!常に営業を誰よりもやってる。」
すると、笛吹さんは紙とペンを用意しだした。
「その話、詳しく。」
「ええ!?いやいや……小説家様に私のつまらない話だと……。」
「おじさん、私の小説で最も大事なものはリアリティだよ?そのためならざざむしだって食べるし、エベレストにだって登るよ。おじさんの話……小説で書いてみたい。」
「あはは……姉ちゃん面白いね。」
え、居酒屋なのにマジでメモ取ってるじゃん。
しかも、見た事ないくらいクールな顔をしている。
そうか……この人不規則な動きの中でこうやってリアリティのあるメモを取ったりするから小説がこんなにも売れるのかと関心をしてしまう。
人の心情や悩みとかも……こうしてやってるのかな?
俺たちはしばらくして、居酒屋を出た。
どうやらさっきのおじさんが払ってくれてるみたいだった。
「あはは〜飲んだ飲んだ!創作意欲も湧いてきた!」
「あれで湧くんですか!」
「そうだよ?」
「え、もしかして翼の折れた天使はモデルが?」
「うん、公園で一緒に酒飲んでたホームレスのおじさん。」
なんてことだろう、健気な天使が心を奪われてたのに全てが衝撃を受けた強化ガラスのように粉砕されてしまった。
「……なんか、色々裏切られた気分です。」
「でもね、人それぞれが物語を紡いだ主人公なんだよ、本を読むのと同じくらい人の話を聞くのも大事なんだ。」
確かに本質はその通りだ。
彼女はそれに素直すぎるだけなのだ。
「ねえ!今度取材に行こうよ!おじさんの地元の取材に。」
「え?」
そう、これは新しい笛吹さんの物語をつくる物語。
この後俺は小さな冒険をする。




