クラスの不良は優等生 9話
俺は夢を見ていた。
過去の夢だった。
俺の名は虎ノ門龍。学校では浮いている存在だ。
「申し訳ございませんでした!」
「全く!いつも息子さんには困らせられますよ。」
中学の記憶だ。
そういえばいつもこんな感じで呼び出されてたな。
そして、母ちゃんは必死に謝って…俺はなんで怒られてるのかすら理解してなくて、そんな事ばかりだった。
「母ちゃん…俺には怒らねえの?」
「大丈夫よ!少しでも何か分かればいいのだから。」
「そっか…でもすまん、なんかバカにされたから殴っちまった。」
「そう…龍は手が出やすいから少し抑えたほうがいいわよ。だって手が出たら負けになるんだから。」
「なんで?だってアイツら殴ったら泣いて謝ってきたよ。そしたら俺の勝ちじゃね?」
「もう〜龍……まあいいわ、今日は晩御飯にしましょ。」
馬鹿だった…本当にあの頃の俺はどうかしていた。
こんなことばかりして…母ちゃんを困らせてばかりだった。
「龍?将来の夢とかある?」
「将来だァ〜?んー、今が良ければいいんだよな。まあ…ホストでもやるかな。」
「なんでやりたいの?」
こんな生産性もないバカな話をしても、母ちゃんは俺の奥を見据えてるようでいつも真剣に話してくれた。
俺は心底ウザってえとおもっていた。
ある論文では幼少であれば親と一緒にいると認知能力が上がりやすいと聞くが、中高生になると自主性を重んじるため親と一緒にいるメリットは少ない、いわゆる反抗期だということをこのウザったい感情が教えてくれた。
「うるせえな、つか…中学なんてやりたい事なんか無いのが普通なんだよ!いいかクソアマ…未成年は方向性を夢見るもんだ…覚えとけ!」
「クソアマは言い過ぎよ…でも心のどこかでは前を向いてるようで何よりだわ。」
「うっせえよ!」
俺の母ちゃんは本当にうるさかった。
だけど、俺が最初から頭が良かったのは母ちゃんの教育が良かったんだなとしみじみ思う。
だが、俺はそんな環境が窮屈でなかった。
「ちょっと!どこいくの?」
「あ?散歩。」
「もう21時じゃないの…。」
「まあ、朝には帰るよ。」
俺は夜一人で出歩くと基本は喧嘩をする。
もしくはなんぱもしていた。
「よお、姉ちゃん!何してんの?」
「え、いや担当とアフター行くから待ってんの。」
「どれくらい待ってんの?」
「1時間半。」
「かぁ〜!失礼な男だなぁまじで。」
「ちょっと!担当のこと悪く言わないでよ!」
俺は人間観察が得意なのでこういう幸が薄そうなやつに声をかける。
だいたい成功するのだ。
「あ?率直な感想言ってんだろうが…俺だったらお前みたいな女大事にして待たせないんだけどなー!」
「え?」
「お前ネイルめっちゃいいじゃん!服もさ…ブランドを揃えて…化粧なマットな感じ…結構いいの使ってるだろ。お前はさ…こんなに気合い入れてんのに放置されて…本当は悔しいだろ。」
「…。」
図星である。
恐らくコイツは風俗嬢か何かをやっていてきっと無理してホストに通ってるんだ。
ナンパっていうのはそこまで汲み取った上で話さないと話にならないのだ。
「まあ別にさ…これ以上は何も言わないよ。なあ、でももし何かあるなら聞いてやるから少し飲みいったり遊ばね?」
「ちょっとだけなら…。」
その後はもうお察しの通りだ。
「もう!あんなクソホスト絶対行かない!」
「おー、いいぞー!もっとお前を大事にしてくれる人に時間と金を使え!」
「ありがとう…龍君に会えてよかった。私龍君の事が好きかも。」
「いや、俺も結構酷いぞ?早いって。」
「ねぇ〜、もう少し一緒にいよ?」
「ええ〜ちょっと面倒くさくなってきたな。」
この女と朝まで遊んで…それでその後ホストとトラブったけど一方的にボコボコにしてやった気がする。
俺のトラブルはそんなことばかりだった。
学校というレールに生きるよりも…このようにサバンナに生きる動物のような本能を燻るストリートスマートを用いた行き方が大好きだった。
次の日も警察や教師の世話になった。
☆☆
「すみませんでした!」
「これで何度目ですか!なんでホストボコボコにしてるんですか。」
「わかんねえ、道歩いてたら女出来て、気がついたらホストが道で伸びてた。」
「意味がわかりません!舐めてるのか私のことを!」
「でもさ〜先公よ、俺は悪質な借金負わせるクソホストから女を守ったんだぜ?彼女からしたら白馬の王子様じゃねえか。」
「いや、校則的にはアウトなんだよ!」
俺はまた…そんな屁理屈をいって教師を怒らせて説教が1時間伸びた。あーあ、教師って社会でたことない学生の延長だから社会知らねえんだな。
☆☆
「…。」
「あれ、どうした?母ちゃん…今日みたいな説教無いんだな。」
「…(バタン)。」
「え、母ちゃん?」
その晩…母ちゃんは倒れた。
理由は不明だった。俺のせい?んな事ないよな?
そして、間もなく救急車に運ばれた。
その後検査をして、親父と一緒に医者との話があった。
「子宮頸がんの末期ですね。余命はあと1年無いかと。」
…は?
え、母ちゃん死ぬの?
「どういうことだよ!テメェちゃんと見たのかよ!」
「龍。」
「父ちゃんもなんか言ってやれよ!このクソヤブ医者が!すぐ死ぬとか言ってんじゃねえよ!倫理観ねえのか!」
「龍!!」
「きっと…知らず知らずのうちに進行してしまったんですね。体のあちこちにも転移しています。お気持ちは分かりますが…もうお母さんは長くありません。」
今思うと凄く理性的な医者だった。
でもそれが俺の気持ちを逆撫でしていた。
その晩…俺は初めて泣き散らかした。
母ちゃんの顔をそれからまともに見ることが出来なかった。
「母ちゃん…大丈夫か?」
「うん、なんとか。最近は問題起こしてないの?」
「いや、そんな場合じゃねえだろ。優先順位があるんだよ俺には!」
「うふふ、龍は本当はすごくいい子なの…母さん知ってるからね。」
「うっせぇ!ババア!」
俺はお見舞いに行っても反抗期だった。
でもあと限られた数でしかこの病室で母ちゃんを見ることが出来ないのかと現実を呪ってしまう。
しかし、残りの数ヶ月は母ちゃんとの時間は穏やかだった。
たまにあの時ナンパしたエリカとたまにデート行くくらいになって、俺の日常は穏やかになって言った。
しかし、悲劇の日はある日突然起こった。
母ちゃんは…みるみる痩せてあと少しだと悟った俺は学校が終わったら、直ぐに病院に行くことにした。
「みつけたぞ!あの時のクソガキ!」
「あ?誰だっけ?」
「エリカの担当ホストだよ!」
「あ〜…おう。」
「舐めてるなてめぇ!」
あの時のホストが沢山のおっさんを連れてきた。
シュールとしか思ってなくさっさと通り過ぎようとしたら…急に襲いかかってきた。
男が俺の頬を殴る。
「なんだてめぇ、急に襲ってくるとか闇バイトかよ。」
「そうだよ、てめぇを絞めるために呼んだんだよ。」
「上等だ、このクソ野郎。」
俺は1時間掛けてじっくりと全員病院送りにしてやった。
あ、違うか…病院行かなきゃ行けないんだった。
その時…ひとつの電話がなった。
「はい、虎ノ門です。」
「虎ノ門茜さんの息子さんですか?」
「そうですよ、なんかありました?」
「お母さんが亡くなられました。」
「あ?」
☆☆
俺はふるふると震えながら病棟に行くと、白い布を顔に被せた母ちゃんがいた。
「母ちゃん?」
「…。」
RPGでよく返事がない、ただな屍のようだという表現があるのだが…俺にとってはその表現は今は最悪の状況となっていた。
「母ちゃん!起きろよ!馬鹿!」
「ちょっと…落ち着いてください!」
「俺!またホストボコボコにしたんだ!先公や警察とまた話さなきゃ行けねえ!母ちゃん!起きてくれよ!」
「虎ノ門さん!」
例の医者に止められる。
俺は母ちゃんが眠る病室で騒いでいた。
「離せ!ヤブ医者!母ちゃんが死ぬはずないんだよ!」
「気持ちは分かる。でも、受け入れなきゃ行けない。」
「うるせえ…うるせえんだよ…う…うわあああ!」
俺は泣き崩れた。
父ちゃんは…仕事の会議で顔を出すことすら出来なかった。
母ちゃんを…1人で逝かせちまった。
だから…俺は気に入らないヤブ医者と2人きりになるしか無かった。
「せめて…最後くらい一緒に居てあげたかった。」
「最後…お母さんは幸せそうだったよ。」
「はあ!?バカ言ってんじゃねえ!」
「君の母さんは…君を最後まで誇りに思っていた。
気が強くて…優しくて、博識で…心がないと思ったけど毎日私のことを心配してて、こんな素敵な息子を産んだから私は堂々と天国に行けると言っていた。」
何を言っているのか分からないが…俺はまた泣き崩れた。
人生でこんなに泣いた日は初めてだった。
「君は…お母さんは救えなかった私が憎いか?済まなかった、私も助けたくて仕方がなかった。でも少しでも君との時間を担保できるように様々な延命措置はしたんだよ。」
「うう…うう…。」
ヤブ医者は…俺の肩をポンと叩いた。
「後悔はしない方がいい。たとえ最後が看取れなくても…君がお母さんに捧げたこの数ヶ月は、宝物のような数ヶ月だった。君は患者に寄り添うことが出来る。」
俺は…誠実な医者に…自分の決意を告げることにした。
「先生…俺医者になりてえ。」
「そうか。」
素敵な医者は…嬉しそうに頷いた。
「先生よりも死ぬ気で勉強をして…こんな思いするクソガキを減らしてやりてえ。俺は…人の命を救う医者になりたいんだ。」
「あはは…君は最後まで生意気だな。でも…いい、そうでなくちゃ医者って生まれてこないもんだ。険しい道になると思うが…困ったらいつでも相談しなさい。」
「ありがとうございます。」
俺は…母ちゃんが死んだ日から、必死に勉強をした。
最初は勉強に集中できないからうんこも我慢して椅子に縛り付けて勉強してたっけ。
1日に16時間勉強していったら…俺は中学で学年トップになり続けた。
でも…そんな俺は不良仲間はいるが理解してくれないし、普通の人にはきらわれていた。
「おはようー龍君。」
このヘタレを除いてな。俺はテントの中で目が覚めていて、そういえばキャンプ2日目だということに気がつく。
「なんか、随分うなされてたね。」
「まあな。」
コイツは本当にフラットに接してくれている。
何考えてるか分からないけど、いいやつだ。
「龍君。キャンプ誘ってくれてありがとうね。」
「ん?おう。こちらこそあんがとな!」
俺は…まだ色んなことに悩み葛藤する毎日を歩んでいる。
でも、こうして仲間に知り合えたことはかけがえのない事だ。
さーて、今日も一日を全力で過ごそうとするか。




