クラスの不良は優等生 8話
すっかり日もくれて、湖は夕焼けに反射して燃え上がる太陽を湖に写すかのようなそんな光景が拡がっていた。
俺たちは暫く女性陣たちが戻るまでは釣りをしたりしていたのだが、もどってきたのでみんなでカレーを作ることになった。
「飯田〜、飯ごうで米炊いといて。」
「どうやるんだ?直輝よ。」
「あ〜、1度沸騰したらとろ火に変えて15分から20分ほどグツグツさせるんだよ。それが終わったら蓋をそのままにして蒸しといて。」
「お前!詳しいな〜!料理とか普段やるのか?なおっち!」
「母ちゃんがよくやるからねぇ、1度炊飯器が壊れた時鍋で作ったことあるんだ。それを聞かされてたから思い出しながらやってる。」
「へぇー!カレーはどうすりゃ上手くなるんだ?」
「カレーは人参、玉ねぎ、じゃがいもをしっかり火を入れるとミルポワっていう出汁になるからその味を引き出してルウは水っぽくならない程度に入れるといいよ。」
ふたりと作業をしていると、自分が料理がそこそこ詳しいことに気がつく。
母ちゃんが普段凝った料理を作るのだけれど…案外頭に入ってるものだと感心する。
「なんというか…、直輝って頼りになるよな〜なんだかんだ。」
「いや、そこはストレートに頼りになるって言ってくれよ。」
そんな雑談をしているうちにカレーが完成した。
とても香ばしくスパイシーなカレーになっている。
「これが…直輝君の手料理!」
舞衣は別の意味で感嘆をしていた。いつもは食べさせてもらう側だったからな〜どうなんだろう。
「なんか…負けた気分。でも嬉しい…ん、複雑。」
なにやらなんとも言えない顔をしていた。
料理がそこそこ出来るのは女性にとってはハードルが高いのだろうか?たしかに料理は女性がやるイメージが強いけど。
俺たちとは裏腹に彩奈はみんなとの風景を写真にとっていた。
「美味しい?彩奈!」
「うん!とっても…!思い出になりそうだから写真撮っちゃった!」
「あはは!そうだよね!本当は焼肉とかジャンバラヤとかも食べたかったな!」
「まあでも人生初キャンプなんだしここまで出来れば十分よ!」
言われてみればそうだ。
キャンプとは目の前のものに集中するのもいいが空間と時間を楽しむものだ。
そう考えると…少し不格好なこのカレーも絶品料理に感じる。
その後も俺たちはUNOをしたり、雑談をしていると…時刻は22時になっていた。
☆☆
「お休みー!」
「また明日ね!」
「おー!ゆっくり休んでな。」
俺たちは就寝の時間になるのでそれぞれのシュラフで眠りにつく。
なんというか、あっという間だったな。
「ふぁ…やばいマジで眠い。」
「お、飯田もすぐ寝ちまいそうだな…お休み。」
気がつくと、焚き火の前で座っているのは俺と龍君だけになった。
あれ、なんか急に気まずい…さっきまで何話してたっけ?
「りゅ…龍君はまだ起きてるの?」
「あ?ああ、俺基本夜型だからまだ寝る気しないな〜!じゃあちょっと2人で語ろうぜ。」
焚き火をみると、不思議と落ち着いてくる。
視覚に落ち着くように働くのは知ってはいたけど、薪の香りも心地が良い。
「…そういえばさ、お父さん…普段何してる人なの?」
「ああ、航空系の仕事してるよ。」
「へぇー!やっぱ頭がいいところだから仕事もすごい仕事してるんだね。」
「困らせてばっかだけどな。」
「いやいや、でもいいお父さんじゃん。」
「そうだな…良い父親だと思うよ。お前は父親いるのか?なおっち。」
その質問に少し考えてしまった。
俺は父親の名前すらも知らない。
母ちゃんが何故か教えてくれないのだ。
沖縄の人間だと言うのは知ってるくらいだけど、実際母親からも謎の多い人物だったみたいだけどな。
「俺の父ちゃん…居ないんだよね。どんな人かも切らない。」
「そう…なのか…。」
いつもは天地がひっくり返ってもほくそ笑んでそうな龍君は少し驚いていた。
どうしたのだろうか、片親がそんなにめずらしいのかな?
昨今離婚率の高いこの世の中にはそんなに珍しくないと思うんだけど。
「お前もなのか。」
「お前…も?」
も、という表現に少し違和感を感じた。
そういえば…龍君の母親に対する言及が一切ない。
ああ、そういうことだったのか。
「もしかして…龍君のお母さんって。」
「俺が中学の頃に亡くなったよ。すんげー優しい母ちゃんだった。いつも俺が問題を起こしたら一緒に謝りに言ってくれてさ。」
「めっちゃいいお母さんじゃん。」
きっと龍君の事を心から愛してくれていたのだろう。
「でもさ…ガンになっちまってさ…その時はもう末期だったんだ。余命宣告を俺と親父にだけ告げられてさ…母ちゃんと話すんだけどみるみるやせ細ったのを実感した。」
なんか、考えてしまうと嫌だ。
例えば母ちゃんがもしそうなったら…耐えられるだろうか。
いや、無理かもしれない。
母ちゃんがいない世界なんて…耐えられない。
「めっちゃお医者さんにも治してくれって頼んだんだけど何も出来ないと言われてさ…その時めっちゃ無力さを感じたよ。でも俺バカだからさ…それでもまた喧嘩をして、相手の不良を、殴った時に母ちゃんの訃報を聞いてさ…最後母ちゃんを看取ることもできなかったよ。」
龍君の話を聞いて、頭がからっぽになる。
大切な人を看取ることも出来なかった。
助けることも出来なかった。
なんて…無力で悔しいものなのだろうかと。
「俺さ…医者になりてえんだよ。今は不良だけどさ…こうやって苦しんでいる患者やその家族を救える医者になりたいんだ。だから医学部に行くために学校終わったら椅子に自分を縛り付けて極限まで勉強してるんだ…っておわぁ!どうした?なおっち。」
龍君の反応で俺は気がついた。
「うう…ひっく…えっぐ。」
俺は、龍君の人生に涙をしていた。
「泣いてんのかよ…俺のために。」
「なんというか…自分だったらと考えると……辛いし、それをバネに頑張ってる龍君を考えると…なんか涙が出てくるんだ。」
「んだよ、女々しいな。」
「龍君…なんか、僕は君のこと誤解してたみたいだよ。」
「でもあんがと、話ちゃんと聞いてくれて。こんな話したのなおっちだけだわ。お前の頑張ってる姿見るとさ…俺も頑張る気になるんだよな。」
「うん、また…勉強教えてよ。」
「おうよ。」
この日この瞬間、僕と龍君…いや、龍とは初めて親友になった。
彼が僕の人生を導き合う仲間になることを…まだ僕は知ることは無かった。




