俺の彼女が重すぎる件について 3話
「はあ……これからどうなる事やら。」
俺は学校の屋上で一人缶コーヒーを飲んで黄昏ていた。
こうなった原因は自分にあるというものの、一人の時間というのが欲しくなるものだ。
「あれ?直輝こんなとこで何してんの?」
「ああ、飯田か。」
こいつは飯田蓮、俺の親友だ。
スポーティーなショートヘアーに爽やかな様子のイケメンなのだが、どうしようもない下ネタ好きのスケベなやつだった。
「ああ……落ち着くよ。」
「あ?何がだ?」
「飯田のように汚れきった人間を見ると、落ち着くんだ。」
「よーし!1回表に出ろよ。」
こんな感じに割と素で話せるのも彼のいいところだと思う。母ちゃんとはまた違ったアットホーム感がある。
「でも、珍しいな。なんか嫌なことでもあったんか?」
こうやって憎まれ口を叩いても彼はなにかの意図を察してくれる。
本当に良い奴だと思う。
「……舞衣と共同生活することになった。」
「まじ!?同棲ってことか!?」
「まあそんなとこ、ちょっと怒らせちゃったから罰として学校以外はずっと一緒になることになった。」
何言ってんだろう俺。
そう思いつつも飯田は「お前ららしいな」と続けた。
「なんで佐倉は怒ってんの?」
「ああ……黙って母ちゃん宮古島に行ってきたのと、そこで知り合った女の子と仲良くなったのが行けなかったみたい。」
「あ〜そりゃあ佐倉怒るかもな。」
飯田は適度な距離感で接してくれる。
いつも叱咤激励が多い龍が剛だとすると、飯田はこうやってなんとなく話を聞いてくれるから柔である。
「舞衣の事は……ぶっちゃけ好きだ。朝淹れるコーヒーは美味しかったし、俺の部屋を綺麗にしてくれたりとても献身的なんだけど、一人の時間がなくなって正直疲れる。」
「まあな、佐倉は激重だからな。大丈夫か?盗聴器とか着いてないか?」
飯田は俺の体をボディーチェックする。
い……いや、そんなハズないよな?
「まあでも……あれだ、お前らは不器用すぎるんだよ。お似合いもいいところだ。」
「不器……用……?」
咄嗟に顔がムッとする。
多分無意識にディスられたと勘違いしてるだけだとおもうけど。
「そりゃあそうだろ、距離感のバグった佐倉と感情表現が苦手なお前……お似合いだと思うぞ。」
「ぐぬぬ……何も言い返せん。」
「でもな?確かに今お前さんは受験で手一杯だと思う。でも、人生は歳を取れば取るほどそんなことばっかなんだよ。」
飯田は遠い目をする。
そういえば、こいつの家庭はとても複雑な家庭をしていた。
親父さんが若くして死去して、母親は浮気癖などがあって半分絶縁状態に近い。
そして、その中で今こいつは女性と共同生活をしていた。
今の状況を置き換えると、こいつは遥かに先輩だ。
「飯田は……まだ笛吹さんと暮らしてるのか?」
「ああ、あの人小説以外はてんでダメでさ。気がついたら何日も風呂入らないし、空き缶まみれになるし、新聞紙布団代わりに寝てたりめちゃくちゃだよ。」
「俺ならノイローゼになりそうだ。」
飯田はさらに遠い目をする。
こいつ、本当に良い奴すぎて搾取されてないか心配になってしまう。
「でも……楽しいんだ。たまに家族がいない孤独をあの人は誰よりも理解してくれる。それに一人の時間なんていくらでも作れるしな。」
「え?」
「直輝、人生何もかもが理想になるなんて叶わない。その中でどう自分が工夫できるかだと思うぞ。ひとまず勉強も彼氏も頑張ってみろ。」
そう言うと、飯田は俺の元を去る。
ひとり屋上に残されて俺は缶コーヒーを飲み干すと昼休みが終わりの予鈴が鳴っていた。
「……さて、俺も行くか。」
☆☆
「はいっ、じゃあ今日の授業はここまでだ。気をつけて帰れよ。」
授業が終わり、一気にその場の緊張がほぐれる気がした。
受験生になると先生たちの授業も若干ピリつくような感じがして2年生の頃とは比べ物にならないほどのストレスが乗っかる。
さて、勉強も彼氏も頑張る……か。
俺は飯田のアドバイスを実行することにした。
「なあ……舞衣。」
「あ!直輝くんもう帰る?準備するね。」
「ああ……いやその、良かったら……これからデートしないか?」
「……え?」
すると、舞衣は目をぱちくりさせて嬉しそうにしていた。両手で口を抑えてしばらく静止すると俺に問いかける。
「……いいの?」
「ああ、もう少し彼氏として頑張ることにしたから。それにリフレッシュした後に勉強すればいいし。」
すると、舞衣は嬉しそうにカバンを整理してから立ち上がる。
そして、俺の手を引いて嬉しそうに駆け出して行った。
「ねえ、私パンケーキ食べたい!実はずっと行きたかったところがあるんだ!」
「そ……そうか。いいぞ、今日はとことん付き合うから。」
「わー!直輝くんから誘ってくれるなんて……凄く嬉しい!あと……ゲームセンターでクレーンゲームとかもやってみたくて。」
「あはは、うん……やってみよ。」
最近義務感のあった交際だったけど、新しい光が差し込むようだった。
少しだけこの時間が楽しく、晴れやかになるようだった。そうか、俺が変わるだけでこんなに景色は変わるのだと思い知らされた。
春も少しずつ終わりに近づき、太陽の光は少しだけ暑く感じて、緑が鮮やかになっている。
今日の東京は昨日の雨のせいか少しだけ雨の匂いがした。




