俺の彼女が重すぎる件について 1話
宮古島の1件から、数日が経った。
大きな非日常を経験するとこのような日常の小さな幸せと言うのはとても心地よく感じる。
「それじゃあ、今日のホームルームは終わりです!気をつけてお帰りくださいね!」
「はーい!」
そして、今日も無事に1日が終わる。
「なあ、今日帰りカラオケよらね?」
「すまん!バイトだわ!」
「んだよ、じゃあ女呼んどくわ。」
クラスメイトたちは将来はもう決まってるのか遊ぶ人や、俺のようにここからが受験の時間と努力するものもいる。
俺も勉強しなきゃな。
そんな時、誰かが俺の肩を強く掴んだ。
ミシリ……と強い握力で骨と肉が歪みそうな気がした。
「直輝くん♡一緒に帰ろ?」
「ま……舞衣。」
俺の彼女の舞衣が、今日は妙に圧が強かった。
どうしよう、なんか怒らせちゃったかもしれない。
「わかった。たまには一緒に帰るか……え?」
俺が立ち上がると舞衣は俺の手を掴み満面の笑みをこちらに向けていた。
可愛いんだけど、どうして手を離そうとすると強い力で捕まえようとするんだろう?
「な……なあ、舞衣どうした?なんか怒ってない?」
「えー?怒ってないよ〜?」
目が笑ってないんだよな。
最近確かに受験やらで時間作れなかったのを怒ってるのだろうか?
「い……いや、あの……さっきから繋いでる手がミシミシと言ってるんだけど、いた……まじで痛い。」
「直輝さー、最近忙しいはずだったのにどうして宮古島に行ってたのかな?」
「あれ……言ったっけ?いだだだだ!!!」
どうしてだろう、突然行くことになって知る術も特になかったはずなのに。
「GPSが何故か宮古島になってた時はびっくりしたよ。なんで彼女の私誘われてないの?」
「いや!ちがうんだ!あれは母ちゃんが突然行くってなったわけで……。」
「だから、しばらく直輝くんを物理的に監視することにしました。」
「ええ……。」
こうなってしまったら舞衣はもう聞かない。
俺は彼女の意志を尊重すると共に一人の時間を諦めることにした。
「わかったよ。じゃあ今日はデートってことで。」
「いや、直輝くん受験でしょ!?勉強頑張りなさいよ!」
「どっち!?俺は時間をどう使えばいいんだ!?」
どうやら彼女なりに時間は使って欲しいけど受験は頑張って欲しいらしい。
それどっちも取るの難しくないか?
「だから考えたのよ。私が満たされて直輝くんが勉強に集中する方法を……!」
「まじで?どうするの?」
「任せてね……!」
こうして、舞衣の奇策は間もなくして試行されるのであった。
この後とんでもない展開になるとは知らずに。
☆☆
「あの……舞衣?」
「なに?直輝くん。」
俺たちは一緒にいた。
舞衣はとてもご満悦な顔をしている。
そして、俺も勉強を済ませている。
見事に目的は達成していたけど、これには問題があった。
「その、楽しい?俺が勉強してるのをもう2時間も無言で見てるだけだけど。」
「え、幸せだよ?」
そう、俺はひたすら自宅で勉強してるのを監視されていた。
それ以外は何もしない、無言のまま見つめる様子が怖かった。
「どうー??画期的でしょ、束縛作戦。」
「いや!逆に怖いよ!」
「あ、そうだよね……ごめん。」
舞衣は何かを察する。
良かった、理解して貰えたようで。
「ずっと座ってばかりだと悶々としてくるよね?たまになら私を使ってもいいからね?むしろ積極的に来て欲しいんだけど……はぁはぁ。」
「だめだ、こいつ早く何とかしないと。」
どうやら舞衣はスキンシップ不足で壊れてるようだった。
コンコン……
「どうぞ。」
突然ドアノックが聞こえたので答えると母ちゃんが入ってきた。
「はいるよー、あ!やってるやってる!」
「母ちゃん、舞衣が今日はこの部屋にずっといるらしいんだけど……。」
「え?いいんじゃない?」
「良くねえよ!不健全じゃん!」
そうだった、俺の部屋にGPSとかついてるのは一部母ちゃんが絡んでるんだった。
くそ!俺の味方はいないってわけか。
「遥香さん、酷いですよ。宮古島わたしも行きたかったですけど!」
そして、今彼女にとって最大の不満を母ちゃんにぶつける舞衣。どんだけ行きたかったんだよ。
「いやー、ごめん!突然地元の友達と行くことになってね!」
「あ、そうなんですね。」
「でも私友達に飲まされすぎてずっと寝込んでたな〜。2日目なんてずっとホテルで寝込んでたのよ!やっと今日体調が全快したかんじ。」
俺を置いてけぼりに2人は会話が弾む。
相変わらずこの2人が並ぶとキャラが濃すぎて俺が空気になりそうだった。
「え?直輝くんは動き回ってましたよね?GPSで活発に砂浜とかいってましたし。」
「いや!どんだけ監視してるんだよ!怖えよ!」
「ああ、直輝ね〜地元の友達の娘さんと宮古島を周って……あ。」
そして、うちの母親が余計な地雷を踏み抜いてしまった。
今は舞衣が気が経ってるのに……なにしてんの母ちゃん!
「へー、直輝くん……女の子と行ってきたんだ。」
「ち……ちがうって、友達!普通に仲良くなっただけなんだ!」
そう、あいつは妹みたいな友達でそんな異性として意識するようなイベントなんて……。
そう、広大な海で太陽に照らされる常夏の世界。
いかがわしいものなんてなく、夢華に抱きしめられたり……空港ではキスをされて……。
「ねえ、直輝くん?なんで目をそらすの?」
「い……いや、なんでもないっす。」
俺はアイコンタクトで母ちゃんに余計なことを話すなと合図を送る。
すると、母ちゃんは1回首を傾げるとぽんと手を叩いて話を続けた。
「いやぁ〜可愛い子だったわね!夢華ちゃん!」
「ちがう!そうじゃないんだ!」
「へー可愛かったんだ。本当に何もしてないよね?」
「マジで!本当に何もしてない!だから関節技決めようとするのやめてくれ!」
気がついたら手首を逆の方向に捻られて俺は完全に舞衣にホールドされる。
ああ……短い人生だったよ。
そんな時、スマホの通知がピロンと鳴る。
ちょっと嫌な予感がしたので気が付かないふりをするが、それも徒労に終わっていた。
「出して。」
「はい……。」
すると、夢華からLINEがきていた。
しかも写真が付いていて、二人で買った合格祈願のお守りの写真を送り付けてきた。
「……遥香さん?今日はお泊まりさせて頂きますね。」
「ちょ……!母ちゃん!止めてくれ!」
「………遥香さん?いいですよね?」
「ど……どうぞ。」
すると、母ちゃんは震えながら回れ右をして振り返らず逃げていった。
「おいいいい!待て!母ちゃん、それはないぞ!」
「直輝くんは……何度も分からせないといけないみたいね。」
「あ……あの、お手柔らかに。」
「もう今日は絶対に逃がさないからね?」
こうして、俺は舞衣に捕まり暗闇の中へと消えていった。そして、朦朧とする意識の中もう少し誠実にいかないと痛い目を見るというのを本能で理解した……そんな夜だった。
そして、俺はこの時はまだ彼女にわからされる日々の序章に過ぎないことを、まだ知らなかった。




