春と挫折と宮古島 14話
その後、落ち着いた俺たちは最も見所と呼ばれる与那覇前浜へと向かった。
そろそろ夕日が差し込んでいて、エメラルドグリーンの海が少しだけ赤く染っていた。
「ほらー!直輝、早く来なさいよ!」
「……ああ。」
何度も色んなビーチを来たのだけど、全く飽きる様子は無かった。
砂山ビーチは波が強かったり、ここの与那覇前浜ビーチは広大な砂浜の中島と島の間をのんびりと過ごせるので開放感があったりとその場所によって見える景色や表情が大きく変わる。
その様子がとても面白く、俺は自然と対話するのが大好きになっていた。
「……。」
「……。」
お互い体育座りになり向こうにある来間島をぼんやりと見つめている。
海は相変わらず遠くまで見渡していて、まるで海そのものが宝石なのではと思うほど眩い光を乱反射していた。
潮風が暖かく、波の音が心地よい。
ずっと喋ってばかりの俺たちは、お互い無言になるのも苦ではなかった。
むしろ、自然の心地良さをお互い分かちあってるような、そんな感覚だった。
「なんか、直輝とは初対面じゃないくらい楽しい。ウチらまだ知り合って2日目なのに!」
「だな。」
夢華は昨日とは比べ物にならないくらい心を開いていた。
表情は棘のような表情からまるでこの海のようにおおらかなものへと変わっていった。
きっと、これが本当の彼女なのかもしれない。
「でも、明日にはもう会えないのかな……。」
すると、夢華は俺の手の甲に手を置く。
小さくほっそりとした指から彼女の体温が伝わってきて、俺はドキッとしてしまった。
どうにも今日の夢華は色っぽく感じてしまう。
表情が妙に切なそうに、それでいてもっと一緒にいたいという姿には愛おしささえ感じてしまった。
「会えるだろ、連絡先だって交換したし。」
俺は照れ隠しで手を離そうとするも、さらに夢華は距離を縮めてくる。
気が付いたら俺たちは密着して並んで座っていた。
距離が近い……。
「ウチはもっと居たいな。直輝との時間が本当に楽しいもん。他の人はウチを腫れ物のように見るけど、直輝は夢華として見てくれるもん。」
「翔子さんとはどうなんだ?お父さんもいるんだろ?」
すると、親の話をされたくなかったのか夢華はそっぽを向いて表情が読み解けなかった。
俺もしくじったとおもったけど、そのうちにまた次の会話になる。
「ママはいつも厳しいの。ウチのことなんて見てない。パパは仕事の事しか考えてないし……学校にも家にも居場所が無い。」
きっと彼女は孤独なのだろう。今の時間が幸せに感じるほどこの旅の終わりと現実に戻されるのが怖くて仕方がないようでもあった。
「ねえ、直輝……ウチ直輝について行きたい。ここは綺麗だけど、綺麗すぎてウチが留められる所がない。連れて行ってよ。」
「お……おいおい、流石にそれは」
「ウチ、本気だよ?」
そう言うと夢華は俺の手を握り初めて目が合った。
彼女のストレートすぎる言葉がここまで強みを帯びてるなんて思いもしなかった。
でも、それには責任が伴ってしまう。
彼女が本来自分で作るべきだった人間関係や成長期間、挫折全てを奪ってしまう気がする。
でも、その正論をねじ曲げてしまうほど彼女の言葉には強みがあったのだ。
「それは……できない。」
「なんで?直輝……ウチじゃ不満?直輝だって強くないじゃん、でもウチが入ればいつでもハグしてあげるし……また楽しいとこ探して連れて行ってあげるから。」
「違うんだ。」
そう、今の俺たちは環境や目標、そしてそれぞれが住む世界がある。
それをねじ曲げたら俺たちはきっと不幸になる。
特に夢華は思春期という期間で親と摩擦してるだけだから、そこから離れるのは関係修復の機会すら奪ってしまう。
ある意味ロミオとジュリエットのようなものなのだ。
だからこそ俺は責任ある発言をしなきゃ行けない。
「ウチのこと嫌いになったの!?ハグ……気持ち悪かった?」
「違う、今はお互い自分の現実に向き合わなきゃ行けないんだ。夢華は受験とか……今の時期を自分で乗り越えなきゃ行けない。それは俺もそうなんだ……わかって欲しい。」
「わかんないよ!こんなに……こんなにウチは直輝の事が……。」
次の言葉を言いかけた時に夢華は立ち上がる。
「こんなことなら……会わなきゃよかった!!」
「そんな……。」
「帰る!もう会わないから……さよなら!!」
そう言って夢華は走ってどこかへ行ってしまった。
涙を拭きあげて、ドタドタと砂を散らしながら怒りを露わにしていた。
まるで、選択肢を間違えたギャルゲーのように、幸せな時間から一変してしまった。
エメラルドグリーンと心地よい潮風、暖かい砂浜が少しだけ寒く感じてしまう。
妙に哀愁が漂うような景色に変わってしまった。
何やってんだ。
女の子を傷つけて……泣かせてしまった。
他の人ならもっと上手くやれるのかな?
でも、これでいいんだ。
きっと夢華はもう俺と会うことなく人生を少しだけ楽しめるようになるのだから。
彼女に嫌われる事が彼女を幸せにできて1歩を踏ませるチャンスなのだから。
俺も……今の現実を受け止めて、前に進まなきゃ行けない。
「行くか。」
そう言って、俺は砂浜を立ち上がる。
美しい砂浜は街灯が少なく、逆に夜には不気味な夜が広がっていた。
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