雪と温泉とウィンタースポーツ 3話
夜の高速道路は静かだった。
気がついたら私たちは3時間ほど運転をしていて、そろそろ長野県の諏訪湖をぬけていよいよ長野県の真ん中まで来ていた。
流石にちょっと運転してたら疲れが出てきたかもしれない。
「遥香さん、大丈夫ですか?これコーヒーです。」
「飯田くんありがとう。寝なくて大丈夫?」
流石に朝3時おきの人もいてみんなは車の中で眠っていた。
それにつられて私も少しだけを疲れを感じたのか飯田くんだけは隣で起きててくれた。
「全然!俺は元気なんで大丈夫ですよ!」
しかし、明るく振舞ってるけど少しだけ取り繕ってるようにも見えた。
いつもの天真爛漫な飯田くんでは無い妙な違和感が際立つ。
「……飯田くん、もしかして悩みがある?」
「ええ!?どうしたんすか急に。俺は悩みが無いのが悩みと言われる男ですよ。」
「いや、何となく元気がないと言うか……何かあったのかなって。」
図星なのか飯田くんは否定せずに黙ってしまう。
いけない、年上のおばさんが調子乗りすぎたかな。
「んー、遥香さんになら伝えてもいいかな。みんな寝てるし。」
「あはは、あるんかい!」
「いや〜笛吹さんとこの前喧嘩しちゃって、彼女家出中なんですよね。」
「ええ!?あの子飯田くん居なかったら住む家なくない!?」
「まあ、そこはことねさんが今泊めてくれてるんで大丈夫なんですけど……なんとなく楽しそうでそっちの方があってるのかなとか思うんすよね。」
彼なりに悩んでいたみたいだった。
高速道路はしばらく平地が続き景色が開けていたが少しずつ山の中を進んでいくようなルートになっていく。
その中で私は彼に対する言葉を考えていた。
「どうして、飯田くんは合ってると思うの?」
「んー、彼女……いつもベストセラーに乗っているすげー小説家なんですよ。普段はほぼホームレスみたいな生活してんのに。」
「あはは、言い過ぎじゃないところが彼女の怖いところね。」
笛吹さんとはたまに飲みに行くけど、やはり店主にツケ払いとかで怒られてるし、出禁の店だってある。
でも、たまにファンの人と会うと真っ先にサイン求められるところもあってそれが飯田くんには重荷になってるのかもしれない。
「彼女、ことねさんみたいなきちんとした人と一緒にいた方が幸せなのかなって。あんなボロアパートに留まる人じゃないのかなとか、最近そんな事ばかり考えてます。」
「……笛吹さんは、それでいいって?」
「いや、れんれんに会いたいって電話して来てるで本人は今の生活がいいみたいです。」
なんだ、こいつらめちゃくちゃ夫婦じゃねえか。
早く結婚すればいいのに。
飯田くんは恐らく自分の気持ちを言語化していない。
愛に近い感情なのに彼は同居と表現してるせいで今のモヤモヤの正体に気づいてないみたいだった。
でも、これを一言で正解を言うのは彼のためにならないかもしれない。
「俺は……どうすればいいんすかね。」
「んー、そうね。逆に飯田くんはどうしたいの?彼女との生活に不満があるならそっちに進むべきだし、でもそうじゃないならどっしりと待ってればいいんじゃないかな?」
「待つ?」
「私もさ、直輝にAV女優の事実を知られた時……直輝に凄く嫌な思いさせて、親を名乗るの辞めようかなって思ったんだよね。」
「すんません……俺が気づいたばかりに。」
「いやいや!別に……ってうぉあ!?」
高速道路が工事で1車線が規制されるので減速したら後ろから車が無理やり追い越してきて減速を余儀なくされた。
「……もう!危ないな。」
「いやほんとっすね。」
「あ、何の話してたっけ?」
「えっと、直輝にAV女優がバレた時の話です。」
そうだった。
いけない、歳をとると妙に物忘れが激しくなってくる。
まだ32歳なのに恐ろしいものだ。
「別に飯田くんは悪くないわよ。あの一件以降直輝は前向きになって今や医学部目指すほど成長したんだから人生のスパイスになったわ。」
「それなら良かった。少し負い目を感じてたんで。」
「えー!それ気にするタイプ?」
「いやしますって!」
そう言ってみんなが寝てる中、ようやく山を抜けていく。
朝日がようやく見えてきて、私たちは少し眩しくも清々しい気分だった。
「まあでも、たまに喧嘩しても本当に信頼してたら帰ってくるものよ。直輝だってめっちゃ家出してるし!」
「あはは、あいつの今後の課題ですね。分かりました、俺彼女を信じて待ってみようと思います。」
「いいじゃない。飯田くんは笛吹さん……好き?」
「あ、……なな、何言ってんすか!?やめてくださいよ!」
いや反応分かりやす過ぎるでしょ。
めっちゃ大好きじゃない。
一応確認でジャブをかましたけどどうやらクリーンヒットだったみたい。
「ごめん、冗談!」
「もう〜困った人だ……。あ、飯山豊田インターってとこで降りるらしいっすよ。」
「ありがとう!いつも君は頼りになるね。」
「こちらこそ、いつも直輝共々良くしてもらってありがとうございます。……っえ?」
飯田くんが辺りを見て驚愕する。
高速道路を降りると辺り一面雪が積もっていて、雪もかなり降っていた。
車道は道が空いてるけど、歩道は1m以上積もっていて私も見た事ない程の量に驚いていた。
「うわー!絶好のスキー日和ですね!」
「そうね、でも少しだけお腹空いちゃったかも。」
「確かに、朝7時ですからね。」
「じゃあ、次のコンビニで降りてひと休憩するか!」
「はい!」
そう言って、私はローソンの前で車を止める。
駐車場周りは重機で雪かきされたあとがあり、山のような雪山が少しだけ泥を蓄えて積み上がっている。
普段とは全く違う白銀の世界で私は大きく伸びをして一息入れた。
甘くて苦いコーヒーの香りを嗅いで、一口飲みながら。




