酒とタバコとバレンタインデー 7話
よくある横丁の飲み屋。
そこには炭火で焼いた焼き鳥のいい香りがする。
人が多い大衆酒場もよいけれど、こういった穴場のようなところにふらっと立ち寄るのもこれはこれで乙だ。
「やーっと!締切間に合った!」
「……ふふ、あなたはいつも忙しそうね。」
「そりゃそうだよ!明日はチョコ一緒につくろーな!」
「……はいはい。」
買い出しも終わり、小説も何とか書き終わって私は開放感に溢れていた。
「あいよ、焼き鳥だぞ。」
「むほー!みてこれ、うまそう!」
最初は塩のみで味わうことにした。
ぼんじりに手羽先、他にもねぎまなどオーソドックスな組み合わせだけどやはり王道は心を引く。
「うめぇ……タンパク質最高だな。」
「……ええ、せせりも最高よ。」
焼き鳥はなんでこんなに美味いんだろう。
炭で焼いてるから風味も美味いのに、肉も程よい焼き加減で身がふっくらしている。
食えば食うほど肉汁が溢れてきて、それを焼酎で洗い流すのもこれも贅沢だ。
「酒もうめぇ!」
「……私も久しぶりに飲んだわ。1ヶ月ぶり。」
「なんでだよ!世の中酒で飲んでなんぼじゃねえか!」
「……私はあんたと違って既に従業員を抱えてるから平常運転でいなきゃ行けないのよ。」
「けっ!しみったれてるね!」
そういってぼんじりを噛みちぎる。
脂身が多いのだけど、カリッと焼いていてむしろ脂も美味しく感じる。
「……私もね、突発的に最初はレンタルキッチンから初めてまさかお店をオープンさせるとは思わなかったな。」
「え?なに?急にセンチメンタル?」
「……まあ、そんなとこよ。」
そういって、ことねぇは静かに酒を飲む。
170cm近くの高身長から優雅に飲むことねぇはまるで一輪の百合のように美しかった。
そして、それを潰すように紙タバコを吸う。
「……あんたのその無鉄砲さ、たまに羨ましく感じるわ。」
「まあね〜。」
私は既に小説家になった頃から明日はどうなるか分からないで走ってきたから、その点に関しては既に先輩のようなものである。
思えば私も売れる為に編集長にめっちゃ怒られて泣きながら書いてたな。
きっと、ことねぇは今それに悩んでる。
なんとなくだけどそんな感じがする。
「ことねぇは、どうしたい?」
「……どうって?」
「ことねぇは今の仕事は好きでやってるの?どっちなの?従業員を守りたいからやってるの?」
正直、めちゃくちゃ難しい質問だと思う。
でも、ことねぇは私はリスペクトしていた。
10年もメイド喫茶をやっていて、金もなかったのに独立して、無我夢中でやっていて悩みのレベルが上がっている。
でも、それに本人が気づいてない気がしてどうにもそれが気に食わなかった。
「……私は、あなたのようにすごくないの!好きなことで稼いでるとは到底言えない。人の生活とかもになってると思ったら気が気でないの!」
少しムキになってことねぇは強く言い返す。
しかし、私は続けた。
「ことねぇはどうなのさ!他の人なんかどうでもいいんだよ!今のあんたがどうしたいのかを聞いている!この仕事は好きでやってるの?それとも、周りがどうだからって合わせてるだけなの?」
正直、いい好きだと思った。
でもことねぇがそこブレちゃうと何者にもなれない気がしたから心を鬼にした。
すると、ことねぇは少し目頭が熱くなり少しずつ目が潤んでいる。
「わたしは、この仕事が好きで誇りを持ってるの!周りなんて関係ない!たとえ1人になってもやるのよ!」
それを聞いて、私はニヤリと笑う。
「言えんじゃん。好きならきっとことねぇも結果を出せる。」
「……さやか。」
正直、酔っていた。
でもこうしてことねぇの事をリスペクトしてるからこそ真の魂のぶつかり合いをしている。
どこか焼き鳥を焼くマスターも嬉しそうにタレの焼き鳥を焼いていた。
少しだけ、タレと炭が入り交じった香りがする。
それを感じて、私とことねぇは酒を飲む。
それはいつもよりも焼酎のアルコールがガンと頭を劈くようだった。
そう、私たちは生き方は違えど同じプロなのだ。
だからこそ、お互いが強く言い合える。
それは一種の信頼関係でもあるようだった。
「……あんたに1本取られたわ。最近ちょっと迷ってた。」
そういって、ことねぇはさらにお酒を注文する。
「今日はとことん飲もうぜ。」
「……ええ、望むところよ。」
その後も、私とことねぇとの議論は白熱した。
お互いの黒歴史をさらけ出して、お互いを認め合う。
周りから見たらつまらない酔っぱらいのだる絡みだったと思う。
でも、その時飲んだ酒の味がとても美味しく感じた。
明日も頑張れるように……全ての負い目を洗い流すかのように。




