私の過去はAV女優 5話
それからというもの……私はみるみるお腹が大きくなっていった。
「ねえ、遥香……どうしたのよ。」
「なにがよ。」
「あなた、最近お腹大きくなってない?」
「まあね……。」
私の素っ気ない態度が母親の心を逆撫でしてしまった。母親から私に対してほほに平手打ちをされる。
「え……。」
「あなた、妊娠してるでしょ!なんで言ってくれないのよ!学校は?勉強は?大学に行くのよね?」
母親から問い詰めのラッシュが朝から続く……。
あー、うんざりだ。
私は……何故こんな母親の言うことを聞き続けてしまったのだろう。
まるで籠の中の鳥だ。
「もう行く。」
「ちょっと……待ちなさい……遥香……遥香!」
父は奔放主義だし……母親は過保護、どうにも直人君と話したあの日から、今までいた環境に疑問を抱いてばかりだった。
私は、人生初の反抗期だった。
それでいて……それがお母さんに示した最後の態度だったと知らずに。
今日も直人君の元へと行ったが……珍しく彼はいなかった。
静かな、朝だった。
何事も淡々とした日常が過ぎていった。
いつものように授業を受けて……、いつものように購買のパンを食べて、本当にいつも通りの日常だった。
しかし、そんな日常は突如終焉を告げる。
グララ……と地面が大きく揺れた。
いわゆる、自身というものでおる。
「え?……嘘でしょ……!」
私は揺れが収まるまで物陰に隠れる。
しかし、震度は5以上はあるのか……建物が捻れるように揺れては……幾つかの家が崩れてしまった。
これはヤバイと思い、私はハザードマップを思い出す。
そういえば聞いたことがある。
地震で恐ろしいのは……次に津波が来るとの事である。
私は……とにかく高台へと逃げていった
お腹が痛い……、もう私のお腹は7ヶ月程となっているため体調も悪い感じがする。
「はあ……はあ……。」
とにかく、頭の中は真っ白だった。
しかし、津波など本当に来るのかは疑問だったが後ろを振り向いた瞬間……青ざめた。
波が……大きい。
少し高い位置に居ても波が船やら車を押し寄せて来ているのが目に見えた。
多分だが、私も飲まれてしまうだろう。
わたしは……もう少しで飲まれそうな感じがした。
でも……この子を守らなくてはならないと必死だった。
後ろを振り向く……もう波がすぐそこまで迫っている。
私は、家の石垣から屋根をを目指すことにした。
しかし、怯えてるのか、体が重いのかどうにも私は登れることが出来なかった。
「やだ……やだ……。」
死ぬ。本当に死んでしまう。
水を見るだけで私は流されたら、きっと死んでしまうと分かった。
目尻に涙があふれる。こんなことって……なんでいつも私だけと呪ってしまう。
私は……死を受けいれた、その時だった。
「大丈夫かい?遥香!」
突如、私の体は持ち上がり……石垣の上に押し出される。
「直……人……くん?」
そう、愛すべき彼は咄嗟に私を助けてくれたのだ。
すぐそこには、瓦礫を巻き込んだ波がある。
「え、ちょ……。」
「すまない、最後まで……守ってあげれなかった。」
波が、彼を巻き込む。
彼の姿を見たのは……それが最後だった。
「ああああああああぁぁぁ!!」
私は……絶叫をしてしまった。
どうして、なんで彼が……嘘だ嘘だ嘘だ!
きっと、悪い夢だ……そう願うばかりだった。
「大丈夫か!お嬢ちゃん!」
その声に反応して石垣の家主が私に駆けつける。
私を屋根に連れてってくれている。
「離して!彼が!まだ彼が波に!」
「馬鹿野郎!まずは自分の身をかんがえろ!」
「ああああああああぁぁぁ!」
私は、この命の恩人に無理やり彼と離され私は……しばらく放心状態だった。
津波は……丸1日、私の故郷を文字通り水の泡にしてしまった。
「お嬢ちゃん……大丈夫か。」
命の恩人は40位の男性で、筋骨隆々の体型をしていた。
「ありがとう……ございます。」
私は、命の恩人からココアを渡されてそれを飲み干した。
「まだお嬢ちゃん……高校生か。」
「はい。」
「そうか、しかも妊娠しているな。」
「そうです。」
本来はもっと喋れるのに簡単な受け答えしかできない。
私には、現状を受けいることはできなかった。
「お嬢ちゃん……丈夫な長靴をあげるから、きちんと家族などの安否も確認した方がいいかもしれない。
避難所が学校らしいからな……行ってみなさい。」
私は、彼の言われた通り学校に向かった。
すると、いつもの学校は人で賑わっていた。
「遥香!」
私を呼ぶ声が聞こえる……よく見知った顔だった。
「翔子……あれ、愛深は?」
「死んだよ、私の目の前で……。」
う……う……と彼女は何かを鮮明に思い出しすすり泣いてしまった。
「そっか。」
私は、きっと何も感じられなくなったのかもしれない。
それに対して……翔子は面食らってしまい顔がしかめてしまった。
「なによ!悲しくないの?なんでそんな平気そうなのよ!」
彼女は次々と怒号が飛び交うのだが、半分何言ってるのかさえ、判別もつかなかったので怒号が終わるタイミングを待っていた。
「ごめんね、翔子。」
私は……無機質だが精一杯の言葉を彼女に送ることしかできなかった。
後に知った。
母親は、地震により瓦礫の下敷きになりもがくまま波に飲まれたそうで苦しそうな死体となって発見されたこと。
そして、父も行方不明になってしまったこと。
私には、親の保険金が振り込まれたのだが、最早絶望の縁にいた。
もちろん、直人君ももうこの世界には居ない。
産まれてくるこの子に対してもこんな世界……見せる訳には行かないとさえ思っていた。
私は、屋上に来ていた。
何度も彼と空を見て、何度も身体を重ね……愛し合ったあの屋上で。
死のう、とにかく死のうと思っていて私は1歩歩けば死ねる位置まで到着をしていた。
この世界は……残酷すぎる。
しかし、私はふと、紙切れを目にする。
いつぞやの……彼から借りた「老人と海」だった。
私は……自然に愛されなかった。
もう、何も残っていない。
いや、違う。
この子がいる、直輝がいる……産まれてくる子に罪は無い。
私がすべき事は、この愛しい命を奪うことでは無い。
守るのだ、なにがあっても……どんな手を使っても。
死にたい、ちがう。
生きたい、生きていたい。
この子と共に生きていたい。
そう思ったら……また私は泣き出してしまった。
「うわあああああああああああぁぁぁ!」
私は、自分を殺すのをやめて、思いっきり泣いた。
泣いて……泣き叫んだ。
そして、泣き止んだ。
そして、自分に言い聞かせるように……独り言を言う。、
「……私は生きる。」




