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僕のお母さんは△▽女優  作者: kyonkyon
第23章 AV女優でも母親でもない私

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AV女優でも母親でもない私 7話

宮田さんの出産から3日後が経った。


帝王切開をしてしばらく彼女の負担などを見ていたけど、回復傾向にあった。


「はい!今日の検診は終わりです!特に問題なさそうですよ。」

「良かった〜!」


そう言って宮田さんはほっと胸を撫で下ろす。

幼さと不安が残っていた出産前とは違って、少し大人になったようなそんな感じがした。


「先生、良かったらこの子抱っこしてあげてください!生命の恩人なんですから!」


そう言われて、赤ちゃんを抱っこする。


「おぎゃー!おぎゃー!」

「あ…あれ?さっきまで寝てたのに……すみません!」

「いいのよ。多分あんまり抱っこ上手くないのかも。」


でも、少しだけ感じた生命の重みがどうしても愛おしくなる。

子どもがいる時ってこんな感じなのかな。

なんて、そんなifを感じてしまう。


「旦那も……あれから無理して有給とか取ってまで一緒にいてくれたんですよね。」

「いい事じゃない。」

「私……素敵な家族に包まれて本当に幸せです。これからちゃんとお母さんになるんだなって。なんか不安な気持ちが吹っ切れました。」

「そう……それならよかった。」


私は、立上り宮田さんの部屋から出ようとすると、彼女は少し大きく声を上げた。


「あの!本当に……ありがとうございました!」

「ええ、お大事に!」


やっぱり、ちょっと羨ましかった。

私には無いものを彼女は全て持っている。

私の選択、責任とは言えど……どうしてこうも変わってしまったのだろう。


そんな汚い感情が湧いてきて、どうにも彼女に顔向けができなくなった。



「あーまの先生!」

「山崎ちゃん。」

「あれから、例の彼とはどうなんです?確か答え出すの明日ですよね。」

「……忘れてた。」

「うおおい!?全く……やっぱ先生ドライすぎます〜!」


そう言って、彼女は私にツンツンと指を指す。

私はクスリと笑ってしまった。


確かに、私は宮田さんのように当たり前の幸せは無いのかもしれない。

でも、今の私には人の命を助ける仕事をしている。

それには胸を張ってるし、今の私にもこうして縁がまわってきているんだ。


前に……進むべきなのかもしれない。

例の彼は、もしかしたら私の人生最後の恋をさせてくれたのかもしれない。


「私、今回の話……前向きに考えようと思う。」

「え……。」


そういうと、山崎ちゃんはまるで自分のことかのように喜んだ。

それだけ、彼女は私のことを1人の友人として案じてくれていたと思うと心が暖かくなった。


「きゃー!ついにあの天野先生が!」

「ちょっと……やめてよ。」


久々の日勤終わりの夕陽は空と海と大地を赤く染め上げて、まるで暖かく私のこれからを祝福するようだった。


仕事終わりはやっぱりこの瞬間が1番好きかもしれない。

そう思った時だった。


ふと、子どもが横断歩道を渡ってる姿が見えた。

にも関わらず、車が法定速度を超えて走っていて気づかないようだった。


「あれ……やばいかも。」

「え、ちょ……天野先生!!!」


明らかに交通事故の前兆だった。

私は自分のリスクを考えず子どもを捕まえて道路に飛び跳ねてしまう。


ゴッ……と鈍い音だけが辺りに響き渡った。

子どもは歩道でもがくのだが、私はひどく頭を打ったようだった。


「天野先生!!!だれか、救急車よんで!!」


あれ……、身体が動かない。

頭が妙に暖かいと感じたのは自分の鮮血が頭を覆っていたからだ。

子どもはひどく怯えた姿で私を見つめていた。


山崎ちゃんの高い声だけが鳴り響く。

何を言ってるのかは分からなかった。


あ……そっか、私……今から死ぬんだ。

呼吸ができなくなり、夕陽は沈みきって徐々に夜になっていく。

血液が足りなってるのか、視力が酷く落ちて身体が寒くなってくるのを感じる。


あと少しだったのに、私はやっとこの時に答えを見つけた。

私が欲しかったのは、家族の何気ない幸せだった。

直輝を堕ろして……20年も人生を遠回りしてしまった。


自分の責任で選んだ道なのに、私は後悔してしまった。

私の人生は一体なんだったんだろう。


もう、誰の声も分からなくなっていた。

誰かが手を握ってくれていたのだけは感じていたが、それが山崎ちゃんなのか、それともあの子供なのかは知る由もなかった。


……………。


気がついたら、寒いとか感覚とか全てを感じない。

私の中では過去の記憶が巡り巡っていた。

これが所謂走馬灯なのかもしれない。


それだけでも私の生命の現状を把握できた。

でも……もし願いが叶うならば、救いがあるならば、あの頃の私に勇気があれば、もっと違う人生を歩めたかもしれない。


「私は、あの子の母親になりたかった。」


今なら、どんなことも覚悟できるのかもしれない。

でも、私には時間は残されてなかった。


あの世なのかこの世なのか分からない空間で、私は苦しんでいた。


「お疲れ様、遥香。」


え……。


ふと、誰かが声をかける。

20年前に聞いた、懐かしく優しい声だった。


「直…人……くん。」

「随分、大人になったね。もう一回りも二回りもお姉さんだ。」


私は、彼に泣きついてしまった。

もうおばさんだと言うのに、惨めに泣き散らしてしまった。


「ごめんなさい……ごめんなさい……私、何も出来なかった!あなたとの絆も、捨ててしまった!!」

「ううん……こっちも1人にさせてごめん。」


直人くんは暖かかった。

あの彼とは違って、これが本当の愛だとすぐさま理解した。


「静かに見ていたよ、君は母親になる手助けをしたり、子供を庇ったりともう十分すぎるほど人に尽くした。」


私は、彼の優しすぎる言葉に泣き散らしてしまった。


「でも、君は自分を無下にしすぎた。」

「いいの……あなたと居れるなら、それだけで!」


最後に彼と会えたのだ。

成仏してもいい、人はいつかは死ぬ。

たとえ空想でも、自分はそれに縋ることしかなくて、もう立ち上がる気力すらもなかった。


「……まだ早い。」

「え?」


しかし、直人くんは少し悲しそうな顔をしていた。

まるで私が死ぬ事を心から拒んでようだった。


「君に本当に成し遂げるべきことが、まだ出来てないんだよ。」

「なに……いってるの。もういい、これで終わらせてよ!あなたが居れば、それでいいのだから!」

「ううん……君はやり直すべきなんだ。」


そう言って、彼は私とまるで違うエスカレーターに乗ったかのようにすれ違い離れていく。


「君は本当は母親になりたいんだ。それが、いまから奇跡を起こす。」


そう言って、私は光に……彼は闇に進んでいくと、彼はもう見えなくなっていた。


そして、光の方向に直人くんに似た若い男の子を見た。

私は決心して、その男の子の方向に進んでいくと光に包まれた。


そこに進むと景色はまたさらにおかしくなる。

走馬灯のような記憶と、それをいくつものビジョンが早送りになっていて、違う歴史を歩んでるようだった。


その度に、35の白衣を着た私はかすれて消えていった。


☆☆


「うわぁ!?」


私は、悲鳴をあげると一つの一軒家に居ることに気がつく。

沖縄とはまた違う、蒸し暑さのないところだった。


いや、私はここを知っている。

ここは東京、私の家だった。


「はぁ……はぁ……。」


妙に体が汗ばみ、息が荒かった。

それを冬の寒さがヒヤリと心地よく私の心を癒してくれていた。


「どうした!?母ちゃん!」


さっきの男の子……じゃない、直輝がふてぶてしく私に話しかけた。

私は、咄嗟に彼を抱きしめて妙にここらが落ち着く感覚があった。


「ちょ、なんだよ急に!近いよ!」

「……ちょっと、怖い夢を見ていた。」

「へー、どんな?」

「覚えてない。」

「なんだそりゃあ。」


とても、長い夢を見ていた。

夢と言うにはあまりにも残酷で、それでいて今の私にはかけ離れていた。


だからこそ、今が妙に恋しく……大切にしなきゃって思えて仕方がなかった。


「……落ち着いたか?」

「うん。」


私は、水を飲んで直人くんの遺影に向かって両手を合わせた。


あれから色々あった。

直輝を産んで、東京になって、AV女優にもなった。

それからは、直輝と向き合って楽しい人達に囲まれている。


今の天野遥香は母親としてはまだまだ未熟だけど幸せそのものだった。


「直人くん……今の私はちゃんと母親してるかな。」


遺影からは当たり前だけどそんな返答はこない。

だって、彼はもう居ないのだから。

しかし、突然。


ポンッと誰かに背中を押されたような気がした。

でもやはり、そこには何もない。


AV女優で母親な私は、胸を張って歩いている。

もう一度夢の続きをみよう。

次の夢は、きっといい夢。

でもその前に……夕飯を食べて腹を満たしてから、ゆっくり考えたいと思った。


「直輝ー!ごめん、晩御飯作るの忘れてた!」

「え!?マジで?めっちゃ腹減ったんだけど!」

「今日だけ!今日だけカップ麺でもいい?」

「いいよー、あ……でもカレー味は俺のもんな。」

「はいはい!」


冬の東京は、冷たく無機質に私たちを冷やしていく。

でも私の心は妙に満たされて暖かかった。


なぜなら私は今、とても幸せなのだから。


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