表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
僕のお母さんは△▽女優  作者: kyonkyon
第21章 直輝と決意とクリスマスイブ

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

307/436

直輝と決意とクリスマスイブ 13話

12月24日、俺は決断をした。

今日この日、愛さんは日本を出ることになる。

もし、15時に行けば彼女を引き止めることができる。


でも、俺は1日何もない中ずっと勉強をしながら考えていた。

俺は彼女に対する思いが好意なのか、それともただの劣情か分からなかったけど、もし彼女を止めたら全ての歯車が回らなくなってしまう。


それは、俺の人生そのものであり、彼女の人生を指すことになる。

彼女は本当は覚悟はできている。

短期的には孤独になるかもしれないけど、彼女なら乗り越えられて別の幸せを掴めるのだ。


だから、俺の処置としてはこうだ。


「お久ー!なおっち、クリスマスなのに精が出るな!今日はとことん勉強すっから……覚悟しろよ!」

「ああ、頼む。」


俺は切って一人きりだと彼女を迎えに行ってしまう。今大好きなこの時間を、裏切ることにもなってしまう。

だから、友人である龍の力を借りることにした。

彼ならきっと約束の時間を過ぎるまでシゴいてくれるだろう。


俺たちは早速勉強を始める。

とりあえず、1番偏差値の低い医学部の模試を解くことにした。


この間まで龍に指摘されてたところは復習を繰り返したため大幅に改善されていた。


「違う違う!直輝くん、この関数はこうして……。」


時折、愛さんの幻影が俺の問題を指導する。

図書館での彼女との勉強時間もどうやら確実に活きていた。

俺は妙に……ザワついていた。

心拍数は上がり、足の裏が汗ばんでくる。

呼吸だって浅くなってるんだ。


やっぱりまだ彼女を捨てきれていない自分がいた。


「……なおっち、お前なんかここ数日で変わったな。」

「そうか?」

「なんというか、目が据わってる。この間はまだまだ受け身だったのに……勉強したんだな。」

「ああ……。」


一通りの模試が解き終わり、採点をする。

なんとか苦手科目はクリアした。

まだまだ、合格ラインには及ばないけど、確実に点数は上がっている。

いいんだ、どれだけしんどくてもやるって決めたんだ。


「でも、なんか今日のお前変だぞ?無理やり勉強に集中しようと必死だ。」

「何がだよ。」

「……なんかあるなら話した方がいいぞ?お前ほんとこういうの下手なんだからさ。」

「いや、いい!とにかく俺を勉強で拘束してくれ!そうしないと……どうにかなりそうなんだ。」


しかし、龍は不敵な笑みを浮かべて参考書を閉じた。

そして、俺の胸にグイッと人差し指を差し込む。


「いーや、お前は確実に進歩している。無理やり詰め込んでも意味が無い、勉強は予習と復習の繰り返しだからな。……それに、無理に固めた決意なんて固めた砂みたいにちょっとした波で崩れちまうぜ。」


さすが龍、どうやら全てお見通しだったようだ。

俺は……つい彼に話してしまった。

愛さんの事、彼女と過ごした時間の事、そして……今日が約束の日であること。


「あはははは!おもしれー!お前……本当に退屈しねえな!」

「笑い事じゃねえよ!」

「すまん!まさかここ数日でそんな切迫する状況になるとは思わねえじゃん!」


龍は否定はしなかった。

静かに聞いて、笑っている。

どうやら倫理観よりも面白さが勝っているのか、それとも話してくれた事自体が嬉しかったのかは、今の俺には分からなかった。


「つーかさ、あと2時間でその子行っちまうな!いいのか?お前の覚悟はわかった、でもよ……今彼女に会わなかったら後悔するのはお前だぜ?」

「いや、このまま勉強を続けよう。」

「うるせえよ!!お前ほんと頑固だな〜、行け!ちゃんと決別を果たしてからまた勉強しようぜ。今のお前に教えることは何もない!」


俺は、どうやら決意はまだまだぬるめのようだった。

やっぱり、本心では彼女にキチンとお別れを言いたいみたいだった。


「すまん、すぐ行くわ。」

「おーよ!行ってこい!」


龍に背中を押されて俺は……家を出る。

駅まで走って行く。

時折人混みがあるけど、その中でもとにかく走った。


走りすぎて、乳酸が足に溜まるのを感じる。

息が上がり、体が汗ばんでいる。

でも、それが幸をそうしたのか彼女の出航の時間にはじゅうぶん間に合う。


俺は……乗り換えを最短時間で終わらせ続け、やっとのこと成田空港へとたどり着く。

この前の修学旅行のお陰で土地勘はある程度着いたから、彼女の待ち合わせ場所にあっさりと着けそうだった。


時刻は……既に15時を少し過ぎていた。

彼女の姿は……なかった。


「え……。」


俺は、その場で膝を着いてしまう。

ロサンゼルス行きの飛行機は、既にフライト済みだった。

俺の……馬鹿野郎。

結局自分の弱さにいつも甘えてばかりだ。

やっと分かり合えた彼女に……最後の最後に悲しませる真似をしてしまった。


疲れが急に押し寄せて……少し、目頭が熱くなる。

もう……会えないのか。

すると、突然目の前が真っ暗になる。


「だーれだ!」


しかし、それは比喩表現ではなく……誰かのいたずらによるものだった。


「……愛さん?」

「やっぱり来てくれた。」


彼女は、荷物を持ってそこに立っていた。

嬉しそうに、それでいて少し切なそうな……なんとも言えない表情で。


「もう!遅刻なんだけど〜。」

「……なんで、もうロサンゼルス行きは行っちゃったのに!!」

「いや〜、私の両親が検問に引っかかりまくって間に合わなかった!スマホの充電器とかダメなんだね!」

「……そりゃあそうだよ。」


ちょっと間抜けな理由で肩透かしを食らってしまう。

どうやら、ちょっとした奇跡が起きてたみたいだった。


「てか、直輝くん汗すごくない?どんだけ私に会いたかったのよ!」

「……会いたかったよ。」


二人で沈黙が流れる。

あと、どれくらいの時間が残されてるのだろう。

時間って残されてると考えるととても過ぎ去るのが早いものだ。

もっと話したい、もっと色んなことを分かち合えばよかったなと後悔が背中を重くする。


突然彼女は立ち上がり、俺に向き合う。

その緊張感で約束の時間は今なんだと確信した。


「直輝くん、私……改めてあなたのことが好きです。直輝くんが、選んでくれたら私……残ります。」

「……………。」


言葉がつっかえる。

やっぱり彼女は可愛かった。

透き通るような白い肌、絹のような艶やかな髪、そして……童顔ながら奥ゆかしいミステリアスな雰囲気の表情、全てが今は恋しかった。


だからこそ、次の言葉が重かった。

でも、そんな俺を彼女は頷きながら見ていた。

それに背中を押されて、決断をする。


「ごめん!!……やっぱり俺は、医者になる夢を貫きたいから……君と一緒になれない。」


俺は頭を下げた。

その言葉を言った瞬間、世界の情報が分からなくなるほど気が動転していた。

でも、良かった。これで良かったんだ。

彼女はどんな顔をしているんだろう……、静かに彼女の表情を見ようと思ったら、彼女は強く俺を抱きしめていた。


やっぱり彼女は暖かくて、優しかった。


「うん!わかってた…………ありがとう……ありがとう。」


彼女は、泣いていた。

彼女自身も……覚悟を出来ていたみたいだった。

俺も静かに頬を涙が伝うのを感じた。



「直輝くんの選んだ道……大変だよ?もう逃げたりしない?」

「しない……やりきる。」

「うんうん……偉い偉い。」


そう言って、彼女は俺から離れる。

甘いバニラの匂いが髪と相まって少しだけ心がとろけるようだった。


「私も、夢ができた。アメリカでさ……心理学学ぼうかな、なんて思ってる。」

「うん。」

「それでさ、ビッグな女になって……直輝くんがあの時振らなきゃ良かったって後悔させるくらいいい女になるんだ。」

「あはは……今でも後悔しそうだよ。」

「ありがとう、私……アメリカで頑張るね。」

「ああ!俺も……頑張る。」


そう言って、俺たちは別れのハイタッチをする。

空港の夕焼けの空で交わしたハイタッチは……きっと一生忘れないだろう。


「バイバイ!直輝くん!」


彼女は、どこか嬉しそうだった。

その表情には……一遍の悔いなしと言わんばかりの決意と勇気に溢れたものがあった。


☆☆


空港を後にする。


俺は……笑っていたけど、急に緊張が解けると泣いてしまった。

そうか、俺の彼女への思いは……紛れもなく行為だった。


好きの対義語は無関心とはよく言ったものだ。

彼女への苦手という感情はある意味……彼女への好意であった。

俺たちは、初恋を切なく終わらせてしまった。


「俺……彼女が好きだったんだな。」


彼女に見せないところで俺は泣いた。

しばらく体育座りで膝を抱えながら静かにすすり泣く。


いいんだ、これが俺の選んだ道なんだ。

もうカッコつけなくていい、俺は今の自分を真摯に受け取って素直に泣き続けた。


「うわああああああ!……うう、あああああ!」


男泣きってこんな感じなのかなと抑えてた感情を爆発させていた。

時折、それを人が見るのだが都会はこんな人が出るなんて日常茶飯事……気に留める人はただの1人さえいなかった。


いや、ただの1人とは語弊だったのかも知れない。


「……直輝くん?」


誰かが俺に声をかけた。

俺は、ふとその方向に視線を向ける。


「……舞衣?」


そう、それは……今の俺の彼女である舞衣だった。

なぜ彼女がそこにいるのか理解できず頭がフリーズしてしまう。


「どうして……。」

「愛ちゃんに……ここに来てって言われたの!でも……その後は連絡がつかなかったから、急いで来たの!」


どうやら、愛さんの差し金のようだった。

きっと、俺が日常を選ぶことを知っていて、それでいて舞衣に俺の心を支えてもらうように仕掛けたのかもしれない。


彼女としては……不思議ではなかった。


「……なんか久しぶりだね!」

「すまん、きちんと彼氏やれなくて。」


なんか、妙に懐かしかった。

愛さんとはまた違った安心感に溢れている。

なんというか、舞衣はずっと俺の支えになってくれてたんだなと思ってしまった。


「いいのよ!私も……修学旅行で失踪してからの直輝くんが弱っていたのに……何もしてあげれなかったな。」

「俺さ……、ちょっと弱って……愛さんに甘えていた。浮気してた。」

「うん、知ってるよ。」

「知ってるの!?」


ちょっとそれは意外である。

冷や汗が全身を滴るのを感じた。

よく報道される芸能人が浮気するのってきっとこんな気持ちなのかなとか思ってしまう。


「愛ちゃん、直輝くんの事好きだったし……アメリカに行く話されてたからアタックするかなとは思ってたよ。そっか……今日だったか。」

「ごめんなさい、本当に。」

「いいの!キチンと決断してるから。」


すると、舞衣は俺の手の甲に手を重ねて身体をくっつけてきた。

舞衣はローズベースの香りがしていて、凛とした雰囲気を感じる。


「じゃあ……今日はクリスマスイブなんだし、とことん一緒にいてくれたら許してあげる!それでどう?」

「舞衣……ありがとう。」


駅に行くとクリスマスソングが流れている。

彩りが赤と緑、そして白のカラーリングがいかにもクリスマスってかんじだった。


そんな道を俺たちは手を繋いで歩いていた。


「舞衣……俺さ、医者になりたいんだ。」

「やっと夢……見つけたんだね!」

「ああ、修学旅行のときの事なんだけど……。」

「うんうん。」


俺は今の彼女の舞衣に等身大の自分を話す。

それを信じてくれたかどうかは分からないけど、彼女は全てをゆっくり聞いてくれた。


俺とと愛さんは……別の方向へと進み出す。

クリスマスは……まるでその様子を祝福するかのように、ベルを鳴らし続けた。


☆☆


「やった!なんとか偏差値65は突破した!!」


季節は春になる。

あれから俺は猛勉強して……最低偏差値65を無事突破した。

模試の判定はBと書いてあって、なんとか食らいついていた。


それもこれも……きっとクリスマスのあの日があったからかもしれない。俺はやる気が出たのでまた図書館へと向かっていった。


母ちゃんにも挨拶は言わず、相変わらず家を飛び出している。


「直輝ー!なんか石川さんって人から手紙来てるわよ?……ありゃ、もう居ない。」


母ちゃんの声は、届かなかった。

右手にはひとつの手紙を持っている。

それは、彼女からのメッセージだった。


直輝くんへ


久しぶりです。

お元気ですか?私はロサンゼルスの高校に編入して楽しくやっています。

最初は言葉が伝わらなかったけど……向こうの人達も私に手を差し伸べてくれて、今はとても幸せにやっています。


あの時、背中を押してくれてありがとう。

直輝くんとの数日があるから私は今日まで頑張って来れました。

大学も心理学を学べるところを受けようと思います。


身体には気をつけてください。

直輝くんが医者になることを……心から祈ってます。


石川 愛。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ