私の過去はAV女優 2話
私は最初はこの工藤直人君は、ただの変な人としか認識してなかった。
私はやな事がある度に屋上に行くのだがその日をキッカケに彼と会うことが増えて行く。
「やあ。」
「また……あなたここでサボっているのね。」
私は、私の大事な聖域を邪魔する彼に嫌悪感さえ抱いていた。1人になりたいのに……決まって彼は空を見ている。
「空を見て……何をしているの?」
私は空も海も好きなのだが……ずっとは見ていられない。たまに見て、心がスッキリしたら現実と向き合うのだ。
そうやって振り子のようにたのしい気持ちを行き来するからこそ私は人生は楽しいのだが……彼にはそういったものはなくずっと眺めているだけだった。
「僕は、空を見て自分と対話をしているんだ。」
「対話?どうしてなの?」
「僕はね、読書が好きで色んなものを知っているんだ……その結果1番分からないのは自分だって気がついたんだ。」
彼の横を見ると、何やらみたことがない本を読んでいた。彼はどうやらこの景色を見ては自問自答と読書をしていたらしい。
「何読んでるの?」
「ヘミングウェイの老人と海っていう作品さ。」
「うえ〜なんかつまらなさそう。」
「そんなことはないさ、きちんとしたベストセラーだよ。」
彼は本当に変わっている。私にとっては親の言うことを聞いて努力をするのが正義だったので我が道をゆく彼は私にとっては悪のようにも、魔物のようにも思えた。
パサッと、何やら本が飛んできたので私はそれをキャッチする。
「ちょっと……投げないでよ。ベストセラーなんでしょ。」
「君に宿題だ。」
「はあ!?」
「本を読んでみるといい、きっと君は……世界が持って広いってことに気がついていない。この本はきっと君の運命を変えられるんだよ。」
そう言って……彼はまた屋上で横になった。
「……もういいわ、そろそろ予鈴だし。」
「そうか、頑張りすぎない程度に行ってきな。」
「うっさいわね!ほんと!」
私はついカッとなってしまう。
なんなのよなんなのよなんなのよ!
同じ事を3回も唱えてることも忘れて私はズンズンと廊下を歩く。
そして、私はまた授業を受けた。
☆☆
今日は期末試験である。
私は、とにかく親からはエリートであるように言われているので常に勉強と水泳三昧の毎日である。
成績も、学年トップにならなくては行けない。
私には夢があった、医者になりたいと言う夢である。
天野家は医者の家系であるため偏差値は最低62以上は行かないといけないのだが……どうにも勉強は苦痛でしか無かった。
「お前ら〜成績順位貼っておくから見るようにな〜、成績上位のものを模範として学習に励めよ〜。」
先生からやる気の無い声が教室に響き渡った。
今回私の点数は90点以上とっていたので間違いなく上位にいたのだろう。
私は、今回の努力の結果を見るために掲示板を見に行った。
天野遥香 470点 4位
このような結果が書いてある。
私は、こんなに頑張ったのに1番になれてない事実に絶望していた。こんなに頑張ったのに……どうしてだろうか。周りから見たら贅沢な悩みだけど、とにかく1番になれてない事実というのが私を蝕んでいた。
そして、1番は誰かと思って上を見たら……私は驚愕してしまった。
工藤直人 500点 1位
「はああああ!?なんであいつ1位なのよ!」
私は、ショックのあまり声を上げてしまった。
なんであんな空ばかり見てる男に努力で負けてしまったのか……あまりにも腑に落ちなかった。
急いで屋上に行くのだが、その日は彼を見ることはできなかった。
☆☆
また、ある日の屋上である。
私は……とにかく疲れていた。
あいつに負けていたという事実から、私は努力をしたのだが……そうすると、余計に体が苦しくなり勉強がますます嫌いになる感覚があったので、また屋上に言ったのだ。
「やあ、今日も来たんだね。」
彼は今日も空を見つめている。
なぜ同じことをしてるのかと疑問だが、そんなことはどうでもよかった。
「あなた……なんで授業に出ないのにあんなに勉強出来るのよ。」
彼ははてなと首を傾げて不思議そうにおもっていた。
「もしかして、テストの点数の事かい?」
「そうに決まってるじゃない!私は全てをかけて勉強したのに……なんであなたに勝てないのよ!」
悔しかった、私の全てを否定されてるかのようで涙が出てきてしまう。
私の無力さと彼の素晴らしさへの嫉妬などの感情がぐちゃぐちゃになっていった。
「……そういえば、僕の宿題はできたのかい?」
「なに……いって……。」
私はハッとした。
そう、彼に渡された「老人と海」の事だとその時に初めて思った。
ただの本だと思ったのに、どうしてそんなところにヒントがあるのだろうか。
「君は、今の生き方が楽しいの?」
私は答えられなかった。
楽しくはなかったから、言い返すことは出来なかった。
「君にとっての勉強は努力に過ぎない、僕にとっての勉強は楽しさそのものなんだよ。努力してるものは楽しさに勝てることはできない……この言葉くらいわかるだろう?」
「わかんない、なによそれ。」
「古典の孔子の名言さ、僕はこの学校でいちばん勉強が大好きなんだよ……でもね、先生の言われた通りにやると僕は勉強ができないんだ。なぜだか分かるかい?」
彼の言葉は、少し私にリンクするものがあった。
私は言われた通り、敷かれたレールしか走ってなかったのだが、何処か満たされない感覚があった。
つまり、
「やらされてるから。」
「正解!きみの人生は自分で漕いでいかなきゃきみにとっての正解は、いつまで経ってもこないんだよ。」
確かに……彼の言うとおりだった。
私は、今の自分を維持する為だけに固執した毎日だった。
それに気づかされた私は、その時ばかりは泣いてしまった。
彼は、笑顔のまま私を見つめていた。
まるで、これから私が私なりの人生を走っていくのを見据えたような落ち着きのある笑顔で。




