私の過去はAV女優 1話
私は天野遥香、現在32歳のシングルマザーである。
私は特異な過去を持っている。
そう、AVというものに出演する……いわゆるAV女優の経歴をもっていた。
「母ちゃん!なんでマリのコスプレをしてるんだよ!綾波かアスカのコスプレじゃなくてマリってところがなんかリアルでキツイって!」
「何言ってんのよ、新劇場版の真のヒロインじゃない。」
「いや、そうだけれども!」
そして、今目の前で私に声を荒らげているのは最愛の息子……直輝である。
もう16歳になり、背丈も私よりも大きくなって何処か背中も大きくなっていく……画面とにらめっこしてた事もあったけど、最近は前を向くようになったどんな時でも自慢の息子である。
「もういい!寝るよ!」
「あ、晩御飯キッチンにあるから部屋で食べても大丈夫だからね!」
「ありがとう!」
このようにカリカリしても律儀にお礼を言える辺り、とてもよく出来た息子だと感心する。
ちなみに息子はカレーが好きなので今日はカレーを作ってあげた。
息子はブツブツ言いながらカレーを盛り付けると、自分の部屋に篭もり出した。
その様子も、何処か愛おしい。
「そういえば……私があの子を産んだ時はもうあれぐらいの歳だったな。」
これは、私のAVと子育てに葛藤をし続けた過去の物語。
☆☆
「遥香〜!起きなさい!」
私の故郷は沖縄のとある場所にあった。
私は両親は少しキツくも明るい……そんな家庭だった。
「朝ごはん出来てるわよ〜!ほら、サーターアンダギー。」
私の母親は……少しズレていた。
何故かサーターアンダギーが好きという理由で朝食に並べるのだ。
こんな生活をしたら糖分過多になってしまう。
それにしても、とても暑い。
沖縄はいわゆる常夏の世界である。
外に出るだけで汗が出てくるのでメイクはそこまで濃くすることさえ厳しかった。
お風呂の為に銭湯にいったら汗びっしょりで帰って来るくらい暑い。
しかし、生まれつきこの土地にいると体がそのような状況でも自然と捉えているのだ。
私は、いつも友達がいた。
翔子や、愛深、
どれもかけがえのない友達である。
学校に着くと、いつもその3人だった。
「遥香〜!どうしたの、ぼうっとして〜。」
翔子がふと私に問いかける。
私は暑いのか、それとも将来やりたいことシートの事で悩んでるのかわからないけど、ぼんやりと2人の話を聞き流してたみたいだった。
「ごめん……何の話だっけ?」
「もう!全然話聞いてないんだから……愛深が最近彼氏出来たんだって!」
「あ、そうなの?愛深おめでと〜!」
そうだった、女子高生なので恋バナに花を咲かせていたのだった。
私は話に集中する。
「相手はあの……伊織くんだってさ!」
「伊織くん?」
確か、隣のクラスの髪を上げた低い声の勉強と運動ができるナイスガイだった。
いつもクラスの中心にいるので人気があるのも伺える。
「遥香は気になる人とかいないの?」
「うーん、私家厳しいし……水泳の選手コース行ってるから、難しいかも。」
「あ、そっか〜!今年も大会でるんだっけ?」
「一応ね。」
翔子も愛深も、ずっと彼氏がいる恋愛が好きな子たちだが……私はどちらかと言うと無頓着だった。
すると、翔子が顔を寄せて……静かに喋り出す。
「ねえ、もしかして……遥香処女?」
「なっ!?何言ってんのよ!翔子!」
「あはは〜、あれ……図星?」
「さすがに怒るわよ!」
「ご……ごめんごめん!遥香!」
翔子はいい子なのだが……たまにこうして悪気なく相手のプライバシーを侵害してしまう。
私もあまりにも踏み込んだ質問に面食らいカッとなってしまった。
2人は、既に同級生たちと経験をしているので……性に奔放なのである。
もちろん、私はそんなことしたら親にブチ切れられるの確定なのでそんな事はしない。
私は、少し頭を冷やそうとした。
「どこ行くの?遥香!」
「ちょっと、屋上で頭冷やしてくる。」
ガランっと音を立て私は屋上に駆け出して言った。
「遥香って気が強いとこがなければモテるのに……。」
「いや、あの子実はファンめちゃくちゃ多いわよ。」
「まあ、スタイルいいもんね……おっぱいGカップあるよね。」
☆☆
「あー!なんなのよ、もう!」
どうしてみんなそんな話が好きなのだろうか、性行為をするのがそんなに素晴らしいことなのだろうか。
そんなことはない、学生の本文は勉強だしきっとそうじゃない生き方もあるはずなのである。
しかし、屋上は海が見えるし……今日は晴れてるのでそんな気分も徐々に落ち着いていった。
「……やっぱりこの景色が好き。誰もいなくて、海を眺められるもの。」
私は海が好きだ。見てるだけで……自分がちっぽけに感じる。そして、あの議論の小ささにも思い知らされるようだった。
私は、少しずつ気分が良くなって言った。
「君、せっかく寝てるんだから……音を立てないで欲しいな。」
しかし、先約がいた。
非常用のハシゴの上の所から……少年がこちらを睨みつける。
「ごめんなさい……あれ、あなたあまり見ない顔ね。」
「良く不登校をするんだ、なんかこの学校が合わなくてね。価値観も合わないからここでよく昼寝してるんだ。授業中も。」
「バカじゃないの?」
「ははっ、バカかもしれない。」
少年は私のトゲのある言葉をいなしていく。
その様子も、何処か不快感さえ覚えてしまった。
「あなた、名前は?」
「僕?僕はね……直人、工藤直人って言うんだ。」
私はこの時は単なる変人とばかりおもっていた彼が、運命を大きく変える存在になるとは……思いもしなかった。




