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僕のお母さんは△▽女優  作者: kyonkyon
第18章 松本みなみの婚活日記
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松本みなみの婚活日記 12話

私は残りの仕事を終えて、今まで遅れ気味の仕事もちゃんとこなして、少し強めにエンターのボタンを押した。


「おわったーー!!」


定時ちょい過ぎくらいに満足いくくらいまで仕事を終えるとなんか気持ちがいい。

なんというか、腹の奥に貯めてたエネルギーを一気に解放する感覚がある。


いつもなら、ここでマッチングアプリとかで会ったりはするけど……。


「今日はとにかく体を労わろう。」


私はとにかく疲れていた。

昨日も夜遅くまで外にいたし、頭もぶっちゃけ痛かった。

そろそろビールの飲みすぎで尿酸値とか引っかかりそうだし、今日は休肝日にしよう。


「あれ、先生珍しいね……。」

「あら、天野くん!あなたも今帰り?」

「まあ、そんなとこですね。会計書類もやっておきましたよ!確認と承認お願いします。」

「さすが!次期議長はやることが違う!」

「……まあ、会計が決まり次第引き継ぎますけどね。」


最近仲良くしてくれる生徒会会計の天野直輝くんだった。いつものように高校生とは思えない落ち着きぶりで仕事をこなしてくれる。


「あれから婚活どうです?」

「全然!もうね〜マルチの勧誘受けたり、2時間待たされてドタキャンされたり……合コンで惨敗してホストで散財しちゃったりよ。」

「だ……大丈夫ですか?」


いかん、ちょっと言いすぎた。

流石の天野くんもドン引きしている。


「うん、私も色々経験して強くなったみたい。」

「確かに、先生でも辛いことがあっても前進んでるんですね。俺も前向かなきゃな〜。」

「え、天野くんはまだやりたいこととかないの?」

「それが……全然です。」


意外だった。

高校生にしてはストイックな印象受けたし、やりたい事とか決まってるのかなとか思った。


「じゃあ、あなたがやりたいことを決めるか、私が先に結婚できるかの競走ね。」

「なんすか、その不毛な競走は。」


天野くんが冷静なツッコミを入れる。

私はスルーをして書類に目を通したが不備は1つも見つからなかった。


「逆に……なんで松本先生は先生になろうとしたんですか?」

「んー、なんでだろうね。」

「いや、質問を質問で返さないでくださいよ。」

「冗談よ。」


ふと……なんで教師になったかと心に問いかけるけど、思えばほんの些細なきっかけだった。


「私ね、昔3年くらい好きな人がいたの!」

「一途だったんですね。」

「その人ね、顔はかっこいいし優しいんだけど勉強が苦手だったんだよね。でもノートの端に、覚えられない英単語を書いて眉を寄せる顔が、たまらなく好きだった。」


そう、私は天野君くらいの歳に好きな人がいた。

その彼の事を思い出す。


「だから……ずっと勉強見てあげてたんだ。」

「へぇ〜、乙女なところあるんですね!」

「いや、乙女なんですけど!」

「……すみません。」


最近、ちょっとツッコミがキツい気がした。

なんか吉良さんとかに殺すわよとか言いがちよね、私。


「それでね〜、教えてるうちにその男の子が可愛いなって思い出して……そこからは教えてる日々だったかな。それで、卒業間近で彼に告白したの。」


その時の感情が、強くフラッシュバックする。


少し寒さが残る中、残雪が道の脇にあり、桜吹雪が舞いちった中振り絞った勇気の気持ちと、その後の強い衝撃が脳天を貫くような、その後の脱力感で重力が一気に重くなるような感覚だった気がする。


「そしたら……彼女いたの。それも、私の親友と付き合ってね。」

「え……。」

「私の3年間なんだったんだろうと思ったけど、私に残ってるのは人に何かを教える楽しさだけが残ってた。だからこそ、私はこの経験をバネに教師になったんだった。」


自分がなぜここにいるのかを思い出した、自然と笑ってしまった。

逆に、あのトラウマを笑い飛ばせるくらいにはなったのだ。


「……3年も、俺には想像できないですよ。不登校だった俺には知りえない感情です。」


逆に天野くんは、自分の無力感とか経験の差に少し劣等感を感じてるようだった。

そうか、彼は小中で孤立やいじめを経験している。

それに比べたら自分は家にいるだけなんて思ってるかもしれない。


「だったら、選択肢を増やすためにも勉強した方が良いかもね。本当にやりたいことが見つかった時、可能性を見出してくれるのが勉強よ。学歴社会は終わったとか言われるけど、結局今も学歴はステータスなんだから。」

「なんか、ちょっとやる気出ました!家帰ったら俺も勉強します!」


この17歳の若者はグッと拳を握ってガッツポーズを見せる。

その様子が、あの時勉強を教えていた彼をフラッシュバックして複雑な気持ちだったけど、私は職務を全うする事を優先した。


「頑張ってね。」

「先生こそ、いい相手……見つけてください!」


そういって私たちはその場を後にする。


帰りの列車の途中、私はあの時好きだった彼のインスタを眺める。

親友と新婚旅行の写真や、結婚式、子供とのさり気ない楽しい日常風景を見ていた。

かつての私なら、見るだけで嫉妬に狂い酒に逃げていたけど今は妙にクスリと笑ってしまう。


私は勇気を振り絞るのとかつてのトラウマに結構を着けるように、久しぶりに彼にコメントを残すことにした。


「素敵な家族写真だね、そしてめっちゃ遅れたけど結婚おめでとう。」


電車はガタンゴトンと音を鳴らし、電車内は疲れきった人で溢れかえっていた。

そんな中、1駅進んだところで返信が来ていたことに気がつく。


返信が来ている文字を見た瞬間、心臓が変な音を立てた。

十年前の私なら、開けずに家まで持ち帰っていたかもしれない。


恐る恐る開いてみると、意外な言葉だった。


「高校の時は本当にありがとう。みなみがいたから今こうして仕事を出来て家族を支えてることが出来てる。みなみも幸せを掴んだら俺にも教えてくれよ、親友!!」



そんな、ちょっと無神経もいいところだけどまた妙にクスリと笑える内容で私は人ごみの中、静かに本音を呟いた。今も昔も変わらない、彼への思いを静かに。


「…………ばーか。」


そんな呟きを周りはイヤホンと騒音で気がつく人は誰一人いなかった。

最後まで見ていただきありがとうございます。

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