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僕のお母さんは△▽女優  作者: kyonkyon
第17章 遥香と秘境の吊り橋物語
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遥香と秘境の吊り橋物語 17話

道はどんどん険しくなっていく、

先程の寸又峡を彷彿とするような狭い道が点在し、そんな道が数十km続いている。


妙にトンネルの頻度が多くなるのを見て、そろそろトンネルを使わないと行けない道が増えてきたのかと自然の険しさをさらに知ることとなる。


ほんと、中部地方は自然という巨大な障壁が多くRPGで越えられない山があるのだけど、まさにこういう山を指すのだとつくづく感じてしまう。


「……ここは。」

「あ、ことねさん起きた!おはようございます!」


どうやら井川大橋を超えてから多少時間が経っていたこともありことねさんは何事も無かったかのように目が覚める。

少し頭が痛むのか、こめかみの部分を抑えていた。


「二日酔い大丈夫ですか?酷い顔してましたよね。」

「……そうですね、まるでダムの放水の如く吐き出してしまいそうでした。」

「もう〜!なんかちょっとずるいですよ。」


舞衣ちゃんが少しだけ頬を膨らませて顔をしかめる。


「今回の旅行でリバースしたの私だけじゃないですか!ことねさんもこちら側にいらしてくれば良かったのに!」


ああ、すごくどうでもいいことにこだわってたみたい。


「……ふふ、淑女たるもの吐くのはご法度ですよ。」

「あー!なんかそのドヤ顔ムカつきます!いいんですか?昨日酔っ払っておじさんにハグ…。」

「やめとこ!舞衣!?あれは何も無かった!真実に到達することは決してない!」


想定より暴走してたみたいだ。

おじさん…ハグ……?

いけないいけない!彼女の美麗なイメージを損なってしまう。


「……え、ちょっと!私何してたんですか?」

「んー……長くなるんですけどね。」


☆☆


私は佐倉舞衣。

直輝くんの彼女である。


これは、昨晩の夜の出来事だった。


「……さて、レストランも閉まるしいきますか。」

「はい!」

「いや〜楽しい時間だったね、舞衣!」

「確かに!ガールズトークって適度にやってみるもんですね!ことねさん、そろそろ部屋に戻りますか!」


しかし、ことねさんはその時から異変が起きていた。


ことねさんは売店に直行したら500mlの缶を6缶購入し出した。そして、1缶空けては一気飲みして飲み干してしまう。

あまりの突発さに私たちは目が点になる。


「あ……あの、ことねさん?さすがにこれ以上は……。」

「うるへぇ!これが飲まずにはいられるかってんだァ!」


あまりの豹変さと凄みに私たちは恐れおののくことしか出来なかった。

普段のお淑やかに話すことねさんはどこにもいなく、まるでヤクザのような荒々しい喋り方に変わっていった。


「私はなぁ……たまに思うんだよ。」

「は…はい…。」

「メイドしてたらもうアラサーでさぁ……ババアもババアよ!こんな私をいつかはあきらさんに捨てられないかと……不安で……不安でさ。」


いけない、というか……あきらさんって誰?


「あの〜あきらさん?って人が彼氏さんなんですか?そんな気にしすぎじゃ……。」

「うるせえ!黙ってろぉ!小娘!」

「ひぃ!」


なんかめっちゃ怒られた。というか、酒を飲んでから発言にすごみを感じる…。

周りの通行人も少しだけ距離を置いてるのが目に見えてる。


「私はなぁ……もっと甘えたいだけなんだよ……でもさ、自分で作ったイメージで固められて、どうすればいいか分からないんだよ……。」


どうしよう、そんな事を思って仕事してるの?可愛いなこの人。


「あはは、姉ちゃん酔ってるね。大丈夫?」


すると、通行人の中に少し酔ったおじさんが話しかけてきた。この時飛んで火にいる夏の虫という言葉がこれでもかとピッタリなシチュエーションに私は絶句させられた。


「おっさん!ハグさせろ!」

「……え、大丈夫?」

「大丈夫です!普段は、普段はまともなんですから!」

「と……とにかく、水飲みなよ。ほら……。」

「うおおおおぉ!」


今度は泣き上戸である。どうしよう、私もいつか酔っ払ったらこんな感じになってしまうのかな?

お酒とは恐ろしいし、これを愛する現代社会の闇の深さをより際立たせた気がした。


「私……怖いんだよ、気がついたら30手前で、職も安定しないまま、自分が何がしたいのか生きてきたんだよ。そんな中……彼と交際関係を結んだけど、あれから手も繋いだりもしなくて……飽きられたんじゃないかとか、やっぱ年増の女じゃ見向きもされないのかとか……。」


どうやら、恋愛を始めて進展しなくて不安になったようだった。

彼女は普段はクールだし、きっと心の奥底に幾つも溜まっていたものがあったんだろう。


「あはは、姉ちゃん……ぶちまけるね。」

「うるせえ、おっさん……今日はとことん飲むから付き合えよ!」

「いや……遠慮しておくよ、私も家族で旅行に来てるし、運転手が居なくなってしまう。」


逆に声をかけたおじさんは家庭も持って見事に父親をしていた。めちゃくちゃ充実してるじゃん!逆に火に油を注ぐことにならないかと胃が痛くなりそうだった。


「その不安は彼に伝えたのか?」

「……言ってない。」

「はっはっは!若いな!私も時折妻とそういう話になるけど、キチンと話し合いの場を設けなさい。」

「話し合い?」

「そうだ、程々に愛しなさい。長続きするには適度な距離も大事だ……焦らずとも彼は大事にしてくれてるよ。」


すると、おじさんは少し間を置いた。

きっと大事な本質を知ってるからだった。


「彼は急いでいない、それって……君を尊重してるからだと思うぞ?男ってそういうもんなんだ。」


私たちは、知らない世界を見知らぬおじさんに本質を叩き込まれて痛感してしまった。

要は男と女で距離感が違う、それだけのシンプルな話なのだ。


このおじさん、見た目は全然かっこよくないけど中身がかっこよすぎて私たち小娘3人では全く話にならなかった。

これが…既婚者の余裕だと言うのか。

若い女性が不倫に走る気持ちが不覚にも理解してしまいそうになった。


「パパー!どこ行ってたの!」

「ああ、いちか!すまんすまん……。」


突然、小学生くらいの女の子がおじさんの前に走る。

どうやらこのおじさんの娘のようだった。


「ママ怒ってたよー!すぐどこかへ行ってしまうって!」

「そうか?いかんいかん……じゃあこれからパパは説教タイムだな……はは。」


そう言っておじさん達は去ろうとする。

誰も止める権利はなくて言葉は出なかった。


「そうだ、お嬢さんたちにいい事を教えてあげるよ。適度に男は尻に敷いておけよー、いい男の育て方はそこからがスタートだ。」


そう言って娘に連れられ少し脂の乗っただらしない体のおじさんは居なくなり私たちは取り残されてしばらく唖然としていた。


そして、ことねさんが立ち上がり自室へと向かった。


「……ごめんなさい、迷惑をかけたわ……戻りましょ。」

「「はい!」」


☆☆


そんな事があったのだ。

でも、謎の彼氏あきらさんという事とか、ことねさんの本音とかあんまり言うのも可哀想だった。


「ごめんなさい、あの時間の記憶は一切なくて…。」

「ですよね!!私もあの晩は見なかったことにするんで水に流しましょ!」


すると、ことねさんは難しい顔で顎に手を置いてから少しだけハッとしていた。


「……ああ、でも一つだけなにか覚えてたわ。」

「え!?」

「適度に男は尻に敷いておけよー、いい男の育て方はそこからがスタートだ。……って言葉を誰かに貰った気がする。」


良かった、1番いいとこだけ覚えていた。


何度もトンネルをぬけては景色は明るくなったり真っ暗になったりする。

まるでモノクロの映画のように激しく目を酷使していて、道は険しくドンドン進んでいく。


あの晩は……何も無かった。

私と彩奈だけの、忘れた記憶として胸に刻んでおこう。



でも、私もいつか家庭を持つ日が来るのかな。

それが直輝くんとかとしれないし、違う人なのかもしれない。


「直輝くん!」

「え、どうしたの?舞衣……?」

「来週デートしましょ!飛びっきり楽しいの!」

「いや突然だな……。」

「絶対空けてよね!予定入れちゃダメだよ!」

「……はいはい。」


でも、私は直輝くんが良い。

それだけ私は彼が好きなのだから。


それまでは、とことん彼を尻に敷くとしよう。

最後まで読んでいただきありがとうございました。

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