遥香と秘境の吊り橋物語 13話
私は神宮寺ことね。
会席料理を食べ終え、遥香さんが酔ってしまったので直輝くん共々退場をする。
そして、私と……メイドの後輩の舞衣ちゃんと、その親友の彩奈ちゃんと3人でいた。
「……すこし、酔わせてしまった見たいですね。」
「ですね!あんなに酔ったとこ初めて見ました!」
彩奈ちゃんは実質初対面なのだが、私のつぶやきも拾ってくれる。
素顔に自信が無いとこ以外はコミュニケーション能力に長けてる気がする。
私もまだ一升瓶が3分の1残ってるのできちんと飲むことにした。普段はあんまり酒を飲まないのでもったいない気がする。
「……舞衣ちゃんはついて行かなくてよかったの?彼氏さんなんだし一緒にいたいでしょ?」
「ああ……わたしは今は大丈夫です。家族だけの時間なんですから、そこに入る無粋な真似はできません。」
「……そういうとこはドライなのね。」
「え、ちょっと!それどういうことですか!」
すると、彩奈ちゃんがそのやり取りを見てケタケタ笑っていた。どうやら観察力にも長けてるようでもあった。
「あははは!舞衣は直輝くんのこと好きすぎるの丸わかりなんだって!もう四六時中縛りつけようとしてるじゃん!」
「だって、直輝くんは私のものなんだもん。できることなら24時間365日全てのことを把握してたいのよ。」
え、サラッと怖いこと言ったわ。
私も尾崎さんのこと好きだけど……さすがにそこまでは出来ない。
「じゃあ、ここからはガールズトークと行きましょうや。ほれほれ、ねえちゃんも腹割って話してみぃ。」
「……彩奈ちゃん、急にキャラ変わったわね。」
「実は、私ちょっとことねさんのこと調べたんですけど……見てください!」
すると、彼女は前のメイド喫茶でカリスマと呼ばれていた時代の私の写真を見る。
他にもネットで「神宮寺ことね」と調べると、チェキのツーショットやライブの衣装なんかも載っていた。
「……紛れもなく私ね。」
「その界隈のスターみたいなもんじゃないですか!というか、メイドモードのことねさんは今のクールな印象と違ってキュートじゃないですか!その使い分けめっちゃ凄いですね!」
「……そ、そうかしら……?」
なんか、客以外から久しぶりに褒められたせいでちょっと恥ずかしくなる。
私って褒められ慣れてないんだよね。
「彩奈ちゃんもタレント性あるしメイドやったら売れそうね。やってみたら?」
「いや〜私も実はVTuberやってるから結構忙しいんですよね。」
「「VTuber?」」
「ああ、あんまり聞かないですよね。ほら、キャラクターに自分の声を当ててYouTuberをやるやつですよ。」
「んー、キズ〇アイとか?」
舞衣ちゃんから全く知らない名前を聞かされる。
行けない……まだ30前後なのに若者の話題についていけない。
「そー!それでね、専用のアプリで配信してたりするんですよ!ほら……。」
すると、彼女のスマホからアニメキャラのようなキャラクターの動画を見せられる。
そのキャラからは彩奈ちゃんの声が聞こえる。
どうやら、ゲーム実況と雑談とアニメキャラのモノマネでカルト的人気を集めていた。
「……すごい、アニメキャラ物真似が特に人気ね。」
「ぴーか!ぴかぴ!」
すると、某ポケットに入れるモンスターの黄色いマスコットの声も再現し出す。
「……え、すごく上手い。」
「えへへ!私アニオタなんでなんでも出来ますよ!」
これはちょっと面白いかもしれない。
私の世代のキャラも行けるのかしら?試してみましょう。
「……初音〇ク。」
「90円デ買ッタネギダシ、マアイッカ!」
すごい!電子音が混ざったようなボイスもできる!
ボーカロイド特有の音もできるみたいだ。
というか、人の声で再現出来ること自体に凄みを感じた。
「………スパ〇ファミリーのアーニャ。」
「父〜母〜!アーニャ帰還した〜!」
「すごい!ほんと……どっからその声出せるのよあんた!」
「えへへ〜企業秘密!」
どうやら、筋金入りの実力者らしい。
私も久々に大笑いしてしまった。
酒がより美味しく感じる。
飲み会で宴会芸が必要とされる理由が少しわかったかもしれない。
「……いいわね、私あなたの事が好きになってきたわ。」
すると、彩奈ちゃんは見開いて少し固まってしまう。
この子も褒められるの苦手なのかな?
「あ……あの、お気持ちは嬉しいんですけど、私性自認は女で……。」
「……そう?それにしても久しぶりに楽しくて、身体が熱くなってきたわ。」
「ええ!?いや、まだちょっと早いですよ!」
「……そうね、じゃあ今度二人で遊ばない?私の家でもいいわよ。」
「いや!段階踏みましょ!?」
どうしたのかしら?急に会話が噛み合わない気がするけど。
「彩奈!落ち着きなさい!」
「いてっ!」
ここで舞衣ちゃんが彩奈ちゃんの頭をチョップする。
「好きってlikeよ。loveじゃないで好意的に誘ってただけよ。」
「あ!そうだったんだ!てっきり……。」
「あんたね……そういう薄い本の読みすぎよ。」
私たちはふと時刻を見ると……時計は22時近くに周りレストランもそろそろ閉店に差し掛かっていた。
一升瓶も空きそうだったのでここでおいとましましょう。
暗くほんのりとオレンジ色の光が灯った廊下で私たちはゆっくり歩いた。
年下の友達を作るのは、案外楽しいものである。
知らない見解を知ることができるし、孤独な世界では知りえない感覚だった。
「ことねさん!」
「……ん?何かしら……?」
「さっきはちょっと誤解してごめんなさい、良かったら……連絡先交換しませんか?」
彩奈ちゃんはスマホを出してQRコードを差し出す。
どうやら、連絡先交換するくらいには私も好意的に感じてくれたみたいだった。
その提案を聞いて私は微笑んだ。
「……私で良ければ。」
人生とは、この吊り橋の名所のように幾つも橋が繋がって道が出来ていく。
私も天野家や舞衣ちゃんがいなければこんな素敵な子に出会うことはなかった。
久しぶりの感覚に、少し心を踊らせた大人気ない私。
明日は、どんな繋がりが待っているのだろうか。




