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僕のお母さんは△▽女優  作者: kyonkyon
第17章 遥香と秘境の吊り橋物語
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遥香と秘境の吊り橋物語 4話

静岡サービスエリアに降りてから、私たちは一息ついては少し自由行動をとっていた。

直輝、舞衣ちゃん、彩奈ちゃんの高校生組はソフトクリームを食べに行って、私とことねさんは二人でいた。


「……すみません、遥香さんタバコ吸わないのに喫煙所まで付き合わせちゃって。」

「いいんですよ!私全然気にしないから!」


とは言いつつも、彼女のセブンスターを見て彼女の愛煙家具合が伺える。

でも、ことねさん背がすらっとしてるし切れ長の目と白金の髪が相まってかっこよく見えるのよね。


「ことねさんは、一日に何本吸うの?」

「……んー、2箱ですかね。」


あれ、桁が違う。本で聞いたのに箱で返ってきちゃった。


「……実は私彼氏が出来たんですよね。」

「ええ!?そうなんですか!」

「……まだ舞衣ちゃんには秘密にして欲しいんですけど。」


意外である。

確かにことねさんはメイド喫茶の時はお客さんを集めるカリスマ性はあるけど……それが返って男性には近寄り難いとも聞いたことあったから、私としては普通に女性として生活してるのが嬉しかった。


「相手は聞かない方がいい感じ?」

「ああ、尾崎さんです。お店のシェフの。」


あ、そこはサラッと言うのね。


「えー!尾崎さんですか、寡黙な方ですけど筋肉質だしたまに見せる優しそうな雰囲気とかいいですよね。」

「………ええ、まあ。(ぽっ)」


いや、分かりやすいわねこの人。

まあでも分かるな〜。好きな人の話になるとそうなる。

私も懐かしき16年前はこんな感じだったのかも。


「……この間富山で宿泊デートもしてきました。運転してる姿もかっこよかったし、さり気なく優しく気を使ってくれるところとか最高でした。」

「えー!それはギャップあってカッコイイですね!」


ことねさんが普段のクールな仮面と違って少し頬を赤らめて口角が上がりニヤついてるのがわかる。

かわいいな、この人。


「……そういえば遥香さんは恋人とか作らないんですか?お綺麗ですし、勿体ないですよ。」

「んー、私はもういいかな。私は母親でありたいかも。亡くなったあの人にも直輝にも申し訳ないし。」

「……離婚じゃなかったんですか?」


ことねさんが驚いている。

ああ、たしかにこうして話すことなかったかもね。


「ああ、まだ直輝には言わないで欲しいんだけど私沖縄出身でさ、高校生の時に直輝を妊娠した時に南海トラフ地震が起きたのよ。」

「え、あの地震結構被害やばかったじゃないですか?」

「うん、身内もみんな死んじゃって……旦那に当たる人も私を助けてそのまま濁流と一緒に逝ってしまったの。」


あの頃は悲しかったけど、もう今は違う。

時間が気持ちを整理してくれたのか、はじめてその旨を人に話したけど私の気持ちは怖いくらいにフラットだった。


「……そっか。」


ことねさんはみなまでは聞かない。

静かにタバコを吸ってはしっかりと味をかみ締めつつ沈黙になる。

きっと、彼女なりの言葉を考えてるのだろう。

冷静な彼女だ、お互いをさらけだした時こそ考えるものなのかもしれない。


「ああ、ごめんごめん!暗くさせるつもりは無かったんだけど……!」

「……なんというか、すごいですね。私は里親に助けられては甘えて心地の良かったメイドを10年近くもさせてもらってたから。」

「いやいや、私も直輝を守るためにAV女優になったからね!そりゃあもう世間体なんて知ったもんじゃなかったわよ!」


………結構重いな、この話。

私も次の言葉が思いつかなくなってしまった。

こんなにもさらけ出してると、下手な言葉で傷付けかねない。


「ねえことねさん、タバコ1本貰っていい?」

「……いいですけど、ドギツイですよ?」

「あはは、でも今口寂しいし……体験として。」

「……分かりました。」


もうタバコなんて10年以上も前だ。

多分港区のラウンジとかしてた時以来かもしれない。

私は彼女に火をつけてもらい煙を吸うと、舌と喉を劈くような苦味と渋みが入り交じったような煙が入ってきて、私はむせ返ってしまった。


「げほっ…げほっ……!」

「……ほら言わんこっちゃない。」

「あー!すごいわねことねさん!でもちょっとわかった!」

「……何がでしょう。」


おおっと、いけないいけない……私はいつも主語がないと直輝に指摘されるけどまたそれが出てしまった。


「私の経験もことねさんの経験も、形はどうであれ貴重な経験よ!なんか、お互い腹を割って話して楽しかったけど……この先は宿で晩酌で話しましょ?私、あなたとは良い友達でいられる気がするから!」

「……友達。」


すると、彼女は珍しくあははは!と声を上げて笑い出す。

ことねさん、そんな感じで笑うんだと私もびっくりしてしまった。


「……ふふ、すみません。遥香さん本当に私にとっては未知なタイプでなんか話して楽しかったです。それに、なんか面と向かって友達って言ってくれたの……嬉しかったです。こんな私でよければ、ぜひお願いします。」


この日この瞬間、静岡のサービスエリアの喫煙所にて私たちは友達になった。

仕事でしか見てなかった彼女の面とは違う面を見ることができたので、旅行って本当に良いものだと実感した。


「あ、いたいた……母ちゃん、みんなソフトクリーム食べ終わってもう車にいるぜ。」

「あ、直輝。」

「……行きますか、遥香さん。」

「ええ!」

「お!?母ちゃんからタバコの臭いがする…?」


私たちはセブンスターの香りを帯びてこの爽やかなサービスエリアを歩いていく。

晴天の静岡サービスエリアは車がびっしりと並んでいて幾多の車がそれぞれの色を反射して、カラフルな景色と雲ひとつない晴天が合わさって再出発には最高のコンディションだった。



しかし、そんな私たちの活きのいい表情は……これから絶望に変わることを私たちはまだ知る由もなかった。

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