スケベな友人が泥酔お姉さんのせいでまともになる件 8話
ここは最初の旅館の露天風呂である。
透き通った温泉でなんと俺の部屋の倍以上の広さかつ、体の半分が立っていてもお湯に浸かるほどの深い温泉だった。
普段の見なれた浴槽ではなく、岩肌がいくつも乱立しており、それらも相まって非日常感をさらに強く演出している。
俺はゆっくりと体勢を落とし、肩まで浸かる。
ちなみに言うと……俺は普段15分程度のシャワーで済ますので数ヶ月ぶりの湯船だった。
なんというか……リラックスする感じが桁違いだった。
肩まで浸かるので重力が若干軽くなるのを感じ、体が楽になる。
汗が出るので普段シャワーでは取れない疲れまで染み渡ってくる。
さらに……温泉は弱アルカリ性、老廃物のある肌の表面を溶かしてくれるので疲れと共に体が綺麗になるのを感じた。
もう慣れた温泉の匂いと、5時間にも及ぶツーリングの疲れが、この温泉に浸かることで快楽の脳内麻薬とマリアージュして意識が若干グラつくのを感じて、俺は岩肌に上り、空を見る。
空は秋晴れ、満天の星空になっていて……それを湯けむりがグラデーションを作っている幻想的な光景だった。
それを見て、ふと思う。
笛吹さんが家に押しかけてから色々あった。
旅行に行ったり、あの自分勝手な母親と決着を付けたり、他にも学校生活だって楽しくなっていた。
しかし今、俺と笛吹さんはとの関係性は一体なんと形容すれば良いだろう。
今は俺が保護者のような感じだけど、いつかはお別れが来るんじゃないか。
笛吹さんは、間違いなく天才だ。
こんな貧乏学生と暮らして窮屈ではないのかなんて……多分彼女に話したら笑われそうな不安が押しかけてくる。
俺にとって笛吹さんは間違いなく必要だった。
……………。
まあ、いいや。
考えてても仕方がない。
今はこの旅行を楽しむことに集中しよう。
その先で答えが見つかるかもしれない。
俺は、温泉を出て浴衣を着てから自室に向かった。
この旅館……男女で階層が違うため、彼女を見つけられることは出来ない。
さて、どこにいるのかと探していると彼女はすぐそこにいた。
「あ〜〜〜〜気持ちいい〜〜〜。」
彼女はマッサージチェアに腰かけ、体は温泉でのぼせたのか若干火照っており……髪が若干濡れていた。
「なんというか……笛吹さん、遠くからでも分かりますね。」
「お!れんれんじゃないか!いや〜、いいねーこれ。」
彼女は肩に振動がきて声が若干揺れていた。
「わ〜れ〜わ〜れ〜は〜うちゅ〜じんだ〜。」
「た……楽しそうでなによりっす。」
なんか、ちょっとセンチメンタルになって損した気分だった。
全くの過ぎた心配、これほど似合うシチュエーションは無いだろう。
「いや〜もう、私もババアだよ〜。」
「あれ、今いくつでしたっけ?」
「26!もうね……この前ことねえとヨガの体験教室行ったら体硬すぎてことねえにドン引きされたくらいなんだから。」
あ〜ちょっと分かるかも。
彼女は小説家だから同じ体勢の時間が長いから、いわゆる職業病なのかもしれない。
それがほぐされてるのだから……なおさら気持ちがいいんだろう。
「……そしたら、毎日お風呂入る方が効率よくないですか?多分下手にシャワーよりかはコスパも良いと思いますよ。」
「それはめんどい〜。」
この風呂キャンセル界隈め。
何故こんなにも頑なにお風呂が嫌なのだろうか。
もはや俺にとっては彼女の心理状況が読めなかった。
しばらくして、マッサージチェアは動作を止める。
彼女もしばらくこの景色に飽きたのか、衝動的に立ち上がる。
「さて!行くか〜。」
「そっすね。」
俺たちは自室に向かう。
内蔵は豪華な作りとなっていて、流石下呂温泉で1番人気の旅館だと関心してしまう。
歩く人々も年配が目立つものの上品な振る舞いで以下にも金持ちな人間の雰囲気がした。
……ちょっと場違いだったか?
そんなことを思いつつ歩くと、あっという間に自室に到着する。
まあでも、この12畳ほどのへやは広くさらに畳の匂いや開放感があり……今はこのちょっとした贅沢も楽しむ事にした。
ダメだダメだ!つまらないことに気を取られすぎてる。
「どーん!」
そんな俺とは裏腹に……笛吹さんはベッドにダイブしていた。
「……なにしてんすか?」
「あ、いやて普段新聞紙と床で寝てるから、ちょっとやって見たくなって……。」
そして、彼女は浴衣のままゴロゴロ転がって気持ちよさそうにしている。
しばらくすると、彼女のガサツに巻いた浴衣がはだけて綺麗な白い足が露呈して浴衣と下着が左右非対称に見えるほど乱れていた。
「ん?れんれん……なんで後ろみてんの?」
「い……いや、服……ちゃんと着てくださいよ。」
「え……あー、えっちだな……れんれんは。」
「理不尽だな!おい!」
こちらの様子に気がついた笛吹さんはほとんど下着の姿になっている。
普段も相当な薄着なのだが、温泉にはいってボサボサな髪はすこししっとりしていて……肌も綺麗になっている。
その様子から……この人は改めて美人なのだと痛感すると、俺は彼女を直視できなかった。
「あー!よかった、れんれん……私のことガチで女として見てない気がしたからさ。こうして意識してくれるの嬉しいな〜。」
「……うっさい。」
「やーん!照れちゃって……かわいーいー!」
ちょっとそのフレーズはおばさんっぽいのでやめて欲しい。
「えへへ……えい!」
「え、ちょ……おまっ……!?」
そんなことを思っていると……彼女は手を引っ張り、俺も彼女と共にベッドで彼女を押し倒すような体勢になってしまった。
彼女の綺麗な顔がドアップする。
さっきまでイタズラな子供のような顔をしていたのに、いざ彼女を押し倒すような体勢になると…恥ずかしそうに顔を赤らめて目を閉じている。
ベッドの上で若い男女が半裸に近い状態。
お互いの肌と肌が触れ合い……お互いの体温と心拍数が手に取るようにわかる。
俺は……本能のままに彼女を愛してしまいそうだった。
そんな時だった……。
ブー!ブー!
笛吹さんのバキバキに画面が割れたスマホが着信を鳴らす。ふと目に入ると……笛吹さんの幼なじみの神宮寺ことねさんからの電話だった。
それを見ると、2人はバッと離れてしまう。
突然のハプニングで急に距離が近くなると……お互い異性として意識して初心な反応を示していた。
「……出なくていいんですか?」
「あ、いや……その……、また後ででいいかな……なんて、今は……れんれんとの時間を大切にしたいから。」
すると、彼女は突然お腹をぐぅー!と鳴らす。
それにつられて俺も腹が鳴り出す。
「あははは!ちょっと、こんな時にお腹鳴らします?」
「だね!……とりあえず、ご飯行こっか!」
俺たちは、浴衣を整えて……食事をすることにする。
少し身体が火照り、まだ心拍数が高くなってるのを感じる。
この時、俺の笛吹さんの感情がなんなのか……はっきりとわかった気がした。
俺は……笛吹さんが好きなのかもしれない。
そう思いつつ、俺たちは部屋を出る。
もう夜は更け、辺りは暗くなっていて……廊下の独特な絨毯の匂いが、少し気を引き締めてくれる。
豪華な廊下が……この後の料理を導くように構えており、俺たちは前へ前へと進んで行った。




