僕のクラスメイトは托卵女子 9話
「おはよう。」
ザワザワ……。
クラスが大いにざわつく、そりゃあそうである。
クラスの異端である佐倉……もとい舞衣さんと俺が同じ時間に遅刻して登校している、こんなに不自然なことはない。
恐らく全員が大きく勘違いをしているのだが、それを弁明する気にもならなかった。
そして、一人の男がこちらへ駆けつける……飯田だ。
汗を流し明らかに同様と困惑をしていた。
「なあ!本当に何があったんだよ……もしかしてお前ら……ヤッたのか?」
「そんなことはしてないよ、佐倉さん昨日は体調を崩しちゃったし家には誰もいなかったから看病してたんだ。」
「あ、そうなの?」
嘘は言ってない、むしろ表現としてはこちらの方が僕としてのニュアンスは近いのである。
あの日僕らはなにもしていない。ただ過去を語ったり……パニック状態のさく……舞衣さんの看病をしていたのだ。
「お前の目を見りゃあ大体の表情は読み取れるんだけど……嘘は言ってないな。まあいいや、ごめんな……大変そうだったのに一緒にいてやれなくて。」
疑いはしたがこれも友人としてごく普通の行動である。飯田は本当に良い奴だった。きっと僕らが過ちを犯していたとしてもきっと受け入れてくれたのだろう。俺は心から彼を信頼しているのだ。
「いやいや、昨日は飯田も忙しかったんだろ?」
「あ、そうそう!なんかな〜最近不登校だったヤツらがトラブル起こしたら大変なことになってたんだよ。」
「大変なこと?」
「ああ、アイツらどこで手に入れたのかわからないけど薬に手を出していてな。それで家でもしていてお金が無いからってことで怪しいバイトもしてたんだよ。」
「まじかよ、いわゆる闇バイトみたいなやつかな?」
「まあ、その通りだ。あいつらそれで年配の家に入ってはものを盗んだり暴力をしていたところを捕まっちまったみたいだ。」
ものすごい話である。フィクションであればありそうな話だけれどこうして身近な人間がそういったものに加担しているなんて恐ろしいものである。
「ねえ、なんで彼らはそういったものに手を出してしまうんだろうね。」
「あれだろ、金がなかったりすると人って恐ろしいほどIQがさがってしまうもんだ。」
言われてみれば過激な犯罪をするものはあっさり掴まっていたりする。昔女児殺害事件なんかもあったが診察券とタバコを置いていったらしいし。
「まあいいや、お互い大変だったな。おつかれさん!」
こうして俺たちは無事に午後の授業を受けれることになった。
ひとまず、母ちゃんにもこの件を簡単に話しておくとしよう。
☆☆
「天野、ちょっといいか。」
帰ろうとした時に諏訪先生が俺の足を止めた。
思い当たる節はいくつかある。
母ちゃんのAVの件で遅刻したこと、そして今日の遅刻の件もそうである。
俺は……生徒指導室に連れていかれ、緊張感のある雰囲気に飲まれそうだった。
諏訪先生は目は優しいのだが、彼は体を鍛えてあるので圧を感じる。さて、同弁明しようかと思う前に先生は話を進めた。
「最近、学校を無断で遅刻してる事がしばしばあるのだが……何かあったのか?悩みとか?」
どうやら話は詰めたりとかそういう感じでは無さそうだ。諏訪先生は50近くの人間であるので、きっとこれまでもそのようなトラブルにも直面していたのか心配と冷静が合わさったような表情をしていた。
「すみません、飯田に伝えれば何とかなると思ってましたけど、先生にも一報お伝えするべきでした。」
「まあ、そうだね。社会人になったらそれは通用はしない。でも君はまだ未成年の10代だ、沢山間違えればいいと思うよ。」
俺は大人の対応(ネットやアニメで知った程度の社交辞令)をしたのだが、先生はよりどっしりと構えた受け答えをしていたので面食らってしまった。
そう、子どもとしてきちんと向き合うのでこの先生には小手先は通用しなかった。
「今月の2度の遅刻ですよね。」
「そうだな、天野は最近勉強を真面目にするようになったがどうしても遅刻というのは君の未来を考えてもあまり良くはないんだよね。」
未来、というものは恐らく大学の内申点だったり、奨学金の審査などのことを言っているのだが、俺にはまだ具体的な目標がなかったので抽象的なままで終わってしまった。
「1つ目は家族トラブルで家出をして、2つ目は佐倉さんの疾患の看病をしていました。」
「そうなのか、佐倉の件に関しては事前に本人から聞いていた。適応障害の発作が出てたのか?」
「はい、明らかにパニックに近いような症状が出てました。」
「そうか……。」
諏訪先生は深く頷くと納得したかのように胸を撫で下ろし、表情が明るくなった。
「天野は少し内向的な傾向にあるが、きちんと学級委員の仕事もきちんとやってくれているから期待はしている。佐倉は人間関係のトラブルが多いと聞くからな、きちんと彼女をフォローして貰えないか。」
意外だった、不純異性交友とかその辺の疑いをかけられるのかとヒヤヒヤしていたが諏訪先生は全てを見透かしたかのようにどっしりと構えていた。
運動のをしているので脳筋昭和なイメージがあったが理性的な面が垣間見えたので、この先生は信頼しても良いと思った。
「分かりました。頑張ります。」
「よし、じゃあ今回の無断欠勤は不問にしておくから、限られた青春を楽しみなさい。先生からはそれだけだ。」
俺は、先生に挨拶をすると生徒指導室を出た。
もう18時になっていたので景色は夕焼けで橙色にビルが染まっていた。
さて、なんか今日は疲れたな。
珍しく1人での帰路に着いた俺はゆっくりと歩き出した。




