僕の幼なじみはドS少女 5話
俺は夜の公園に駆け寄る。
突然の事だった。
何故か石川さんから、「あの公園に来て」というラインが来た。
何事かと思い俺は急いで追憶のままにその公園を目指す。
そう、俺たちはよく公園にいた。
帰り道が一緒で…捕まる度に神社のある公園でベンチに並ぶように腰掛けては話していたのだ。
そして、あのベンチに着くと3年前と変わらず彼女が少し俯いて完全に夜が更けた神社と一体化して不気味なオーラを放っていた。
「おいおい…急に呼び出して……石川さん?」
彼女はいつものように元気がない。
今回も、彼女なりのからかいかと思ったがそうでは無いみたい。
「…………。」
どうしたのだろう、いつもの饒舌な彼女がどこにもいない。
聞こえるのは俺の声とベンチがきしむ音……そして木々が揺れる音だけだった。
「……大丈夫?」
返事は無い。
屍なのかなと思ったけど彼女は無心に一点を見つめていて、どうにも喋る気力すらないみたいだった。
「ここ、懐かしいね。」
やっと、彼女がしゃべり出した。
いつもの甘く高い声ではなく、少し掠れた…弱々しい声。
「ね!懐かしい。あの頃…石川さん男子に告白とかされててさ〜、そんな人が緑化委員で一緒になって……そんで一緒に帰ることもあって、ちょっと戸惑ったりとか……え?」
すると、石川さんが俺の肩に力なく身を寄せる。
無気力に、無心に。
それに対して驚くのと同時に風がざわつき、カラスが声を上げて飛び去る。
彼女の美しい黒髪をよく見ると、少し部分的にうねっていて少し印象が違って見えた。
「う…うう…。」
彼女は、俺の肩にすすり泣いてその声は誰にも聞かれることは無い。
俺は……彼女が泣き止むまでは何も言わず静かに彼女の泣き声を聞いていた。
少しだけ、肩が彼女の涙で濡れて冷たくなるのを感じる。
いつもの完璧な彼女は……どこにもいなかった。
きっと何か嫌なことがあったのかもしれない。
それを、ただひたすら俺に一緒にいて欲しいだけなのかもしれない。
彼女の少し低めの体温が、余計に俺の体温をひんやりとさせる。
やがて、彼女の泣き声は落ち着いた。
「ごめん……かっこ悪いとこ見せちゃった。」
「ううん、むしろ素直にさらけ出して君は勇気があると思うよ。」
泣いたあとは、人は精神的に落ち着くらしい。
いわゆるカタルシスである。
「私……もうダメかもしれない。」
そんな彼女から出た本音は明らかなSOSサインであった。いつもの俺をいじって楽しそうにしてる彼女とは違う…弱々しい彼女に俺は心底怒りを感じていた。
「君を……こんなにしたやつは……だれだ。」
「今の、彼氏。」
俺は正直こんな彼女を見たくはなかった。
確かに彼女は変わっている。
今でも苦手意識が本能的にあるのを感じる。
でも、彼女には……笑っていて欲しかった。
俺は、彼女の笑った顔が心底好きだったから。
「でも…もう大丈夫だから。これは私の問題だからさ……気にしないで。」
そう言って、彼女は立ち上がろうとする。
でも、何故かここで止めなきゃ行けない気がした。
彼女は、明らかにもう限界だったから。
そんな時、また彼女のスマホが着信を鳴らす。
二人で見るとそれはふみやという人物からの着信だった。
それを見るだけで彼女の手は震えていた。
本能的にわかった。
そうか……こいつが。
俺は彼女のスマホを応答のボタンを押すと耳をつんざくような声が聞こえた。
「てめぇ!今どこにいるんだよ!!いい加減にしろ!」
威圧するような荒々しい声に少し怖気付くけど、俺は勇気を振りしぼる。
「いい加減なのは……お前だバカやろぉぉぉぉ!!」
精一杯の声を相手にぶつける。
しばらく相手もびっくりしたのか沈黙した。
「あ?誰だお前?」
「石川さ……愛さんの新彼氏だ!お前の彼女は寝とったぞ!」
「はあ?何言ってんの、虚言乙だな。」
「うるせえよ!なんだ、お前不在着信ばっかかけて!自分に自信ねえのかよ!本当は相手にされてないの形になってんじゃねえか!」
速攻で相手の揚げ足をとって罵倒すると、相手は少し癇に障ると感じたのか少し不機嫌そうになる。
「おい、変われ…あいつはどこだ。」
「ね…ねえ天野くん…それくらいに。」
流石にやばいと思ったのか…愛さんは少しだけ俺を制止しようとする。でも、俺は彼女をこんな風にした男を許せなかった。
「今俺はお前と話してんだよ!逃げるな臆病!チー牛!なんJ民!女々しさ満載!男のメンヘラは気持ちわりいだけだぞ!」
「お前……いい加減にしろよ。」
「かかってこいや!俺は天野直輝だ!ふみやだか知らんけどかかってこいよ。怖いのかよ、俺が!」
精一杯の宣戦布告をすると……彼はさらに声を荒らげた。
「いいよ、もうあんな女はいい……天野直輝だっけ、絶対見つけてぶっ殺してやるよ。」
「OK!受けて立つよ、モラハラチー牛野郎!」
そう言って、乱暴に電話を切ってこのふみやという男をブロックする。
しばらく、公園は沈黙した。少し冷静になって赤面する。
「ごめん、バカ丸出しだったね。」
「あははは!天野くん……君ほんと面白い!」
彼女は、なんか凄く笑っていた。
どうやら、彼を罵倒する姿がどうにも気持ちが良かったみたいだった。
「石川さん…それでさ。」
「愛でいいよ、さっき彼にもそう言ってたじゃない。」
「……愛さん。こいつも何するか分からないから……、安全な所で匿わせてくれないか?必ず、君を助けてみせるから。」
「全く……相変わらず馬鹿なんだから。なんJ民とかチー牛とか……あの人に分からないワード並べてるから、何言ってるんだこいつ?って思われたよ。」
「え、ひでぇ……ここで馬鹿呼ばわりする!?」
さっきまで不気味な暗がりの神社は、いつの間にか照明が付いていて、さっきより不思議と明るく感じた。
「じゃあ、私を助けてみて。」
そう言って、彼女はまた涙を流す。
それは悲し泣きでも、悔し泣きでもなく……嬉し泣きの涙のようだった。




