僕の役割は文化祭実行委員 7話
※100日チャレンジ87日目
その後……おれの日常は文化祭に1点集中でひたすら作業に没頭していた。
朝起きては一日のタイムテーブルをつくる作業をして、時にはオープニングムービーをつくったりもした。
各クラスに行ってはみんなに踊ってもらってそれを切り抜いたりなど……会長と俺のコンビネーションはとても良かった。
でも、会長との時間はギクシャクしていた……かもしれない。
俺はパソコン作業も慣れてきて一通りの仕事をこなしている。
「会長。」
「な……なんだい!天野くん!」
このように明らかに会長が挙動不審だった。
まあ……俺たちは行為こそしてないものの若気の至りで一夜を共にした。そんでもって人間関係を崩しているので気にしているのだろう。
まあ、最初の1週間こそ辛かったけど、俺は早乙女の後押してとにかく目の前のことに没頭をしていた。
「あの……こちらの書類のチェックと……あとこのファイルはどこにありましたっけ?」
「あ……ああ、それは共通ファイルの中にあるぞ!ほら……名前書いてあるだろ?」
「あ、ほんとだ!ありがとうございます!」
再びお互い無言になる。
状況はあんまり芳しくはないけど、俺はとにかく事務作業が向いているようだった。
人と話しをしたりするのも楽しいし、できないと思ってたことがやってみると意外とできたりもするのだ。
将来、こんな感じで企画系のサラリーマンをやってもいいのかもしれない。
実際、俺は会長より少し遅い程度のスピードで作業を終わらしていた。
しばらくして、俺たちは作業を終えて伸びをする。
「くう〜、つっかれた〜。」
「お疲れ様。こんな夜遅くまですまないな。」
「いえいえ、会長の教えの賜物です。」
「な!?なにを……全く、君は罪なヤツだな。」
「うわぁーひでぇ。」
人っていうのは一緒にいる時間が長いと不思議と打ち解けて来るもんだ。
俺は会長との一件はほとんど許していた。
実際、教え方も分かりやすいし勉強になる。
「……天野くん、今日もご飯どうだい?」
「いいですけど、ラブホはNGっすよ。」
「ああ、約束しよう。あれから君には罪悪感しかなおよ。」
俺たちは上着を着て生徒会室を出る。
そういえば、もう鈴虫の声も聞こえなくなってきて、上着が必要になってきたのだなと感じる。
夜のビル街は案外風が冷たく感じた。
そして、俺たちは例の中華屋さんでまたあの時と同じようなメニューを食べる。
「……あれから、例の彼女さんとは?」
「あれからずっと無視されてますね。」
「そうか……すまない、本当に……。」
「ああ、いや!大丈夫ですよ!今は誤解を解くために時間をかけて行こうと思ってますので。」
「…………君は強いな。私も君のようなメンタルがあればこんなにめんどくさいやつにならなかったのに。」
会長は、普段はめちゃくちゃ強い。
イケメンで女の子から黄色い声援を受けてるし、生徒会での仕事で書類作成やスピーチ、先生や部活とのやり取りなど全てにおいてハイスペックだ。
だけど、2人の時は少し自信のなさげな女の子だった。
この自己肯定感の低さは何か原因でもあるのだろうか?
「会長、もしかして最近嫌なこととかありましたか?」
すると、会長は目を見開いて静止する。
そして、下に俯いてからはは……と乾いた笑いを始めた。
「君には全てお見通しというわけか。」
「いえ、多分そこまでは分かってないです。」
会長、俺のことをエスパーだと思っていらっしゃる?
まだ出会って一週間なので全部は分かるわけないだろう。
会長は、続けた。
「前に……副会長と議長が付き合って生徒会を放棄した話を覚えているか?」
「あ〜、そんなのありましたね。」
「私は……議長とは幼なじみだった。」
「……ほう。」
「ずっと好きだったんだ。私が彼を守って……いつもありがとうって笑ってくれてな、そうする度に私は彼に振り向いてもらうために沢山のことをして今の私になったのだ。」
なるほど、確かに会長は面倒見が良い。
こうやって人に与える事で彼女は自分の価値をあげることに必死だったのだろう。
「そしたら……だな、もう一人仲良かった副会長と駆け落ちをしてしまってな。生徒会の仕事をしない日も増えて、ついには2人とも学校にすら来なくなってしまったのだ。」
「つまり、会長は負けヒロインというこ」
「いいんだぞ、私を負けヒロイン認定したら君を襲って勝ちヒロインになっても。」
「……すみません。」
ちょっと言い方を間違えて怒らせてしまったようだ。
二人でしばらく無言になる。
俺たちは普段自分から喋らない性格のせいか適度に無言の時間があった。
「私はな、何のために生まれてきたのか分からない。」
「いや、何を言ってんすか。神は二物を与えないって言葉を見事に無視してるじゃないですか。」
「あはは、君は冗談が本当に上手い。」
いや、美形でモテて仕事が出来て、家が金持ちの人が何言ってるんだろう。
「でもな……親の期待に応えても、習い事や勉強、生徒会などをこなしても本当の私を見て褒めてくれる人が居ないんだよ。だからこそ、彼が必要だったのに……。」
会長は涙目だった。
きっと、みんなは彼女を完璧王子としか見てないのだろう。
憧れは理解から最も遠い感情なのだから。
「本当は、普通の女の子でいたかった。誰かに愛されたかった。それだけなんだ。」
やっと、俺は彼女を理解した。
きっと、様々なプレッシャーと孤独感を抱えて、それを俺が理解してくれそうだと思ったからなのだ。
そこはどこか今の俺にも少し似ているところがあった。
「なんでなんだよ〜。私の……なにがいけないんだ。」
「なんででしょうね。」
「……やっぱり、鼻が高すぎるのか?」
「……え?」
「いや、私の顔は美形の黄金比なのだが、少しだけ鼻が0.1mmだけ黄金比より高いのだ。」
どうしよう、何言ってるか分からない。
「だーっ!会長、多分そんなものは関係ないと思います!」
「そう……なのか?」
「それよりも、例えば今の人間関係を大事にしたりとか、気になった人にアプローチをするとかの行動した方がいいですよ。会長は……行動力はあるのに恋愛面は受け身すぎるんです!」
「た……確かにそうかもしれない。」
会長は話しててたまに思うけど、この人……ド天然だ。
神は二物を与えないという言葉は、意外と的を得るようでもあった。
「あははは!意外と……私はアホなのかもしれないな!」
「会長は……アホですよ。」
「もっと言ってくれ!」
「アホ会長!」
「はぁ……はぁ……もっと。」
いや、なにかに目覚めとるがな。
どうしよう、この人罵られると喜ぶタイプだ。
ほっとくと手をつけられない。
「まあでも……とにかく文化祭が終わるまでは俺たち二人三脚でいましょう。今の俺には会長が必要ですし、会長も必要かもしれません。それが終わったら、自分の課題に向き合いましょう。これは協定です!」
すると、会長は俺を1点に見て静かに……そして嬉しそうに頷いた。
「ああ、これからも……頼む。」
「ええ、こちらこそ。」
問題は解決していない。
だけど、会長をキチンと理解したら少しだけ肩の荷がおりた。
文化祭まであと2週間……これが終わったら、俺も舞衣と向き合うとしよう。
それまで、あと少しだけ目の前のことに集中していきたい。
そう思って啜ったラーメンは少しだけ伸びておるけど、疲れた体に元気を与えるようでもあった。




