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僕のお母さんは△▽女優  作者: kyonkyon
第2章 僕のクラスメイトは托卵女子
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僕のクラスメイトは托卵女子 7話

私、佐倉舞衣さくらまいは東京生まれ東京育ちの普通の女子だった。

私の人生は、いつから間違えたのだろう。

いつから、歪んで見えてしまう世界になってしまったのだろうかと思い返すと、色んな要因があるように思えた。


私の家族は不動産により財を成していた幸せな家庭だった。美味しいものを食べて、綺麗な景色を見て、父さんと母さんと手を繋いで歩いてかえる……そんな小さな幸せが私にとってかけがえの無いものだった。


「お母さん!みてみて、すごく綺麗な貝殻みつけた!」

「まあ、とても綺麗な色ね〜!舞衣は綺麗なものが好きなのね!」

「うん!」


家族で旅行に行くことも多かった。

1番最後の幸せな思い出は、そんな他愛もない会話であった。

ある日のことだ、母親は父親との口論が増えた。

物心がついて間もない私にとっては、理解をすることも出来なかった。


ただ、父親が母親に対して怒り出し暴力を振っていたのは覚えている。今だからこそわかる、母親は……私が産まれる前から父親を裏切っていたのだ。母親は別の男と浮気をしていた。おそらく父親にも原因があったのだがその現実逃避のために浮気をしていたのだ。


両親の仲が険悪してから、母親はまるで最初からいなかったかのように居なくなっていた。

私は母親の姿を鮮明に覚えられなくなっていた。


しかし、それでもまだ私は幸せだった。

父親が私を愛してくれていたのだ。

欲しいものは買ってくれたし、父親と一緒に野球観戦も言ったこともあった。


「お父さん……この服は?」

「舞衣はお姫様だからな〜、父さんがフリルのついたかわいいものを選んでやったぞ!」

「ありがとう!お父さん大好き!」


誕生日にはブランドの服もくれた。私がロリータファッションが好きなのは……父親がくれた服が何よりのきっかけだった。今でも私はそのロリータの服が好きでそれ以外のオシャレをすることはあまりなかった。


私にとっては母さんが居なくても、父さんが居てくれればそれだけで幸せだった。小さな幸せかもしれないけど、私にとってはそれだけで満たされていた毎日だった。


しかし、ある日……小さなきっかけだった。

ほんの小さなきっかけであった。

私はある日自転車での衝突で怪我をしてしまったことがあった。

私は血を流しすぎたのだ。

その時も、父親は私の為に救急車を呼びそばにいてくれた。


「お願いです!娘を助けてください!」

「出血が酷いですね……お父さん、輸血は出来ますか?」

「出来ると思いますが、検査はしたことはないですので検査をお願いします。」


しかし、その怪我での血液検査がとんでもない事実を孕んでいることが判明してしまった。


「娘はAB型?そんなばかな!私はA型で母親もA型だったんです!そんなことがある訳……!」


そう、私は家族にあるはずのない血液型をしていることから違和感の始まりだった。


父親は私を疑い出した……こっそり精密検査をした所、やはり黒だった。

私は……母親と、母親の浮気相手の子どもだった。


それから、私の人生は狂いだした。


「お父さんただいまー!」

「……。」

「……お父さん?」


父親の顔は酷く青ざめており、私を無視するようになった。いままでどんなことがあっても最愛かつ無条件の信頼を寄せてた父親が……無視をするようになった。


「ねえ、なんでお父さん私を無視するの?どうして?」

「……もう、僕は君を娘と思うことが出来ない。」


最後に私に言った言葉はそれが最後だったと思う。

私は、父親に無視をされるようになり……酷く孤独感に襲われた。


しかし、私はまだ父親を愛していたし信じてもいた。

だからこそ私は試したのだ。


私は、父親のツボを試しに割ってみた。

私のことを見て欲しかったのだ、父親は絶望をした顔をしていた。


「その、ごめんなさい……お父さん。」

「……。」


父親は、喋らなかった。

しかし……お父さんは私の顔を冷たく見ると頬に衝撃が走った。私は……かつてのお母さんのように暴力を振るわれていた。


私には癒しがなかった。奇抜な私には周りからは異端の化け物のような扱いを受けた。

たまに男の子に告白をされるけど、私には理解ができず断ると人が変わったように私を敵視するようになった。女子もその様子を見てから目が冷たくなり、私の教科書には「死ね」「ブス」などの汚い文字が日増しに増えていった。わたしは、教科書を変えることも出来ないので勉強は出来るので知識は蓄積したけど、その度に罵声も浴びせられるようだった。


少しずつ私の世界が歪んでいくのを強く感じた。

ただの線がまっすぐ見えないほどに私の心と視界は歪んで行った。


私はある日呼吸が安定しなくなり、病院に行くとひとつの診断を受けた。

適応障害、私は良くは知らなかったけどストレスによる病気らしい。私は適度に薬を飲まないと行けない体になってしまった。きっと前世かどこかで悪いことをしてしまったのだろうと、私は人のせいにできることさえできなかった。


「採血しますね!佐倉さん。」

「はい。」


しかし、そんな私に笑顔を向ける看護士がいた。

名前は伊東さんという20代の女性だった。笑顔が素敵で私の様子や気持ち……身体の健康状態までしっかりと見てくれた。

きっと業務でそうやるように決まってるのだろうけど、私はそれが初めて人として見てくれてるように感じた。


「伊東さん、私……なんのために生きてるんだろう。」

「大丈夫?お父さん一度もお見舞いに来てくれないし、寂しいよね。」

「みんなが敵に見えるの。」

「大丈夫よ!私だっていつも看護長さんに虐められてるもの!挨拶しても無視されるんだから!」

「え!看護士でもそうなの?病院なのに?患者さんの命を預かってるのに?」

「そうよ、世の中はそんな綺麗なことばかりじゃない。いつだって理不尽という川を泳がされるのが社会なんだから。」


……。

その言葉、私には刺さってばかりだった。

私は理不尽ばかりだった。親も学校も運命もすべて理不尽という川の魚でしか無かった。


「だからね、船を漕ぐのよ!向こう岸に何があるか分からないけど流されて素敵な景色に着くわけが無い。だってその川の下には滝があるもの。気がついたら不幸のそこに落ちて死んじゃうわ。」


私は、思いっきり笑った。

なんてユーモアな人なんだろう。

それから、私は少し変わった。看護士になりたいと強く思うようになったからだ。こうやって悩む患者さんに寄り添えるようになりたい、私は伊東さんが目標になった。

見知らぬ土地に進学を決めて勉強も頑張るようになった。少し……まだ少し馴染むのは難しかったけど中学ほど悲惨ではなかった。


私が退院すると、父親のクレジットカードだけがテーブルの上にあり、私はそれからほとんど父を見ることはなかった。


そして、もう1つ変化があった。


「おはよー!天野くん!」

「あら、佐倉さんじゃん。おはよー。」


この少年だけは……私を腫れ物扱いしなかった。

同じ学級員にされて、面倒くさそうだが私を頼っていた。


私は集団に対する対処法は知らないのだが、この少年といる時にはその苦しみから解放されてるようだった。

次第に……私は彼のことを意識するようになる。


時折薬が切れるとパニックになり、言葉が出なく昔のことを強く思い出してしまうのだけれど、それでも彼はしっかりと私の生涯を聞いてくれていた。


「ごめんね、こんな暗い話を聞かせちゃって。」


正直、私の物語はつまらない。きっと他の人が聞いたら反吐を吐いてしまいそうなくらい灰色の物語だった。


「まあでも、佐倉さんは弱い立場を知ってるからこそ……寄り添える看護士になれるんじゃないの?

沢山涙を流しただけ、強くなれたんじゃないのかな?」


天野くんは、正直目は死んでいるけど。

それでも前を向いているのが私にはかっこよく見えた。

「あ、そうだ。佐倉さんはカッコウを比喩した托卵女子っていったけど、俺にも一個面白い個性があるんだ。」

「なに?」


天野くんは、すうっと息を吸ってゆっくりと言葉を紡いだ。


「僕のお母さんは元AV女優。いまでも少し恥ずかしいけど、俺はそんな母ちゃんを尊敬してるんだ。」


女子に話すには少し過激な内容だが、天野くんはそれを誇らしく堂々と私に伝えた。

まるで野球選手の親を持つ子どものように自慢げに。

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