僕のクラスメイトは托卵女子 6話
俺は佐倉に連れていかれ、我が家から15分くらい離れたマンションに着いた。おそらく建ってからそこまでの年月がかかっておらず、オートロックも丁寧に着いていたのでそれだけで家賃が高めの住宅だと一目でわかる。
入口には管理人さんもいるのでそれがさらにこの物件の視覚的価値をあげていた。
「すごいマンションだね〜なかなか綺麗じゃん。」
佐倉は…うんと簡単な相槌を打つだけでそこまで会話として成り立っておらず、それがさらに居心地の悪さを強めた。
一体…どうしたのだろう。いつもの勉強を教えてくれる佐倉さんはどこに行ったのだろう。
さっきまで明るく振る舞ってた佐倉さんはいついなくなったのだろうか。
いつ、どこで、どのように、なぜと5W1Hの疑問形を浮かべるものの、それが直結する答えを導き出すことは俺の脳みそではできなかった。
そして、沈黙のエレベーターを登り最上階から1階下の角部屋に到着をすると、彼女はそこでカードキーを付けて扉が空いた。
い…行きたくない。
佐倉さんは入って、と笑顔で一言添えるけど何か目が笑っていない。
俺は佐倉家のソファーで座っていた。
部屋はあまり片付いてはいなかった。選択した服は床に落ちていて、ペットボトルも飲みっぱなしで置いてあるし想像していた女子の部屋とは程遠い光景だった。
家に入ると佐倉さんはグラスに氷とシュワシュワとする飲み物を入れるとそれを俺に差し入れて同じソファーに同じ向きで座った。
「ねえ、佐倉さん一体どうしたの?いつもと様子が違うみたいだけど。」
「…。」
佐倉さんは何も喋らず隣に座り、身体を寄せる。
佐倉さんからは少しバニラの混じったような香りがすると俺の頭もとくんとした。
佐倉さんはなにも喋らず、手に持った俺と同じ飲み物を飲み干す。
俺も、ミラーリングという同じ行動をすると他人と同調するということを思い出し同じように飲み物を飲んだ。少し、苦い味がした。
「天野くん、天野くんにとって…私って何?」
突如佐倉さんが初めて言葉を話し出した。
どこか、声が弱々しかったのを強く感じた。
いきなりどうしたのだろう、確かに佐倉さんとは仲良くしてもらってるけど特に深い意味は見いだせなかった。
「何って…頼りになる友達だよ。」
「それだけ?」
「それだけって…、プライベートで会うのも今日が初めてだったし…。」
「ねえ、天野くん…私たち付き合わない?」
「え、どうしたの?どういうことなの?」
俺の頭の中が錯乱をし出したその瞬間だった。
俺は彼女に押し倒され、佐倉さんが俺に対して馬乗りに近いような体制になっていた。
「ねえ、天野くん…私を抱いてみない?男の子なんだから…こういうの好きだよね?」
彼女は俺の手を取ると手を胸に当て、柔らかく未知の感触が俺の思考を停止させた。
彼女は俺のワイシャツのボタンを空けると俺の胸も若干はだける。
でも、これ以上はダメじゃないかと俺の理性が制止をした。
「だ、だめだよ!佐倉さん、僕たち友達じゃないか…こんなこと…間違って、」
しかし、彼女の頭は俺の首の位置に止まるとヌメっとした感触が首の動脈に対して下から上へと這いずる感触がして俺は本能的に高い声を上げてしまった。
それに、なにやら俺の力もいつも以上に出なかった。
どうしちまったんだ…理性が…飛ぶ…。
俺の下半身も痛いほど血液が膨張してもどかしいような感触がした。
もう、どうにでもなれ…と思った瞬間だった。
ピロリロピロピロ…
LINEの着信音が流れると、本能的に俺の理性が戻った。
音は俺のズボンからだった。
その音に俺はハッとして佐倉さんを離れさせた。
「佐倉さん、こんなことをしてもお互い傷つけてしまうだけだよ。話し合おう、もしなにか悩みがあるなら話して欲しいな。大丈夫だよ僕は佐倉さんの味方だから。」
すると、佐倉さんは目をぱちくりとさせて制止すると突如泣き出してしまった。
「うわあああああああああああ!」
俺が想像する女の子の可愛い泣き方とは程遠い、少し獣の方向のような荒々しい泣き方だった。
幸いこのマンションは音が聞こえないのでしばらくすると彼女は泣きやみ…少し冷静になったようだった。
☆☆
俺と佐倉さんは同じ位置へと戻る。
佐倉さんは体育座りをしていて居心地が悪そうだった。
彼女は、後から聞くと適応障害だった。
どうやら突発的な行動も適応障害による行動の一部だった。
以前も少し情緒が不安定な所はあったのだが、薬が切れて自制心が乱れてしまっての行動だった。
「ごめん…。」
泣き出した彼女は俺に薬を飲ませるように言ってきたのでおれは言われるがまま薬を彼女に飲ませると、彼女は会話が成り立つまで回復をしていた。
彼女のポジティブな面をよくみているから、ここまで不安定になってしまうのかと恐怖感はあったのだが、それと同時に彼女の現状に至るまでの原因が気になって仕方がなかった。
「大丈夫だよ、いつも勉強を教えてくれたりするし、そんな事で佐倉さんを嫌いになったりはしないよ。それより…どうして適応障害になったのかな?僕でよければ話してみてもいいんじゃないかな?」
「実はね…、私学校で虐められてて…ものを隠されたり、グループラインを追放されたり、水をかけられたりされてるの。」
「なんて酷いやつらだ、なんでそんなことをするんだ。」
彼女は孤立をしているのは知ってはいたが、そこまでとは限らなかった。しかし、男子の俺と飯田に混じってご飯を食べるのも彼女にとっては守ってもらえるからだと合点がいった。
俺はタイミングがあれば犯人を洗って彼女を謝らせようも意気込んだのだが、要点は、そこだけではなかったようで佐倉さんは続けた。
「あとね、私…お父さんに虐待を受けてて、学校でも家でも本当に居場所がなくて、今はお父さんもどこかに居なくなったの。」
「どうしてそんなことを…。」
「お父さんと血が繋がってないの。」
「え?」
「私ね、お母さんと浮気相手のこどもでお母さんは私を産むなりいなくなったの。だからお父さんとは血の繋がってない全くの他人。お父さんはそれを知った時から私に冷たくなって、何かある事に私を殴るようになったの。おまえさえ居なければとか…そんな言葉を浴びるのが当たり前になっていったんだ。」
俺の頭は真っ白だった。
理解するのに時間がかかっていた。
彼女は歪んだ笑みを浮かべてすうっと息を吸った。
「私は…托卵された子どもなんだ。カッコウみたいに親から餌を貰って未来を奪うゴミクズなの。」
その笑みは、目が笑っておらず俺は彼女の運命を考えると…五臓六腑の中全体がゾッとした感じがした。




