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僕のお母さんは△▽女優  作者: kyonkyon
第13章 メイド長と優男シェフの慰安旅行
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メイド長と優男シェフの慰安旅行 9話

※100日チャレンジ73日目

俺は尾崎。


意識が酒による若干の気持ち悪さと目の前の景色のカオスさで今見てる景色が夢だと気がつくのには、そう時間がかかることはなかった。


これは……そのなかの俺の記憶だ。


「おい、飯できたぞ。」


そう言って、若き頃の親父が俺に料理を差し出す。

じゃがいもがすり潰されていて、バターとチーズが混じった料理……これは親父が生前よく作ったロスティーという郷土料理だった。


親父は、地元でも評判の腕利きのシェフだった。


よく見るといつもどこかケガをしているのが親父だった。


「父さん、この怪我は?」

「ああ、これか?なんか俺の料理にケチをつける客がいてよ、ムカついたから喧嘩したんだよ。」


このように、俺の親父は昔ながらの料理人というタイプだった。

親父は現場ではシェフということで料理に責任を持ち、美味いものを作るのが彼にとっての誇りだった。


だからこそ、美味しくないと気軽に言うのなら生きて帰ることは出来なかった。


俺はロスティーを口にする。

じゃがいもを潰した料理なのに、芋のボロボロ感はなく、バターが混じってひとつの液体であるかのように滑らかかつ上品な味だった。


夢だとわかっていても、つい悔しがってしまう。

俺は、この料理に追いつくことがまだ出来てないのだから。


「あ?うまくないのか?」


親父が睨みつける。

俺は即座に過去に身につけられた判断力で言葉を返した。


「美味しい……これ以上の料理に触れたことがないくらいすごく美味しい。いつもおもうんだけどどうやって作るの?」

「あのな……小僧、企業秘密だ。それより、ほら行くぞ。」


そういうと、親父は突然身支度をしだした。

俺はいつも親父のそれに付き合わされていた。

親父は多分……いや、みんなが理想とする父親の逆張りのような人間だった。


俺は親父と一緒にパチンコ屋に行くと親父が台を一通り吟味して、俺を席に座らした。


「いいか、小僧。この角度でいけよ……ほら。」


親父は俺をパチンコのレバーに触れさせ、角度を強制した。

今は規制されてるのだが、昔はこうやって親父にパチンコを自動運転させられていた。


この時の俺の精神は無になっている。

違和感を感じず、ひたすら周りの音を無意識に遮断して、球を指定されてるところに入れ続けてるのだ。


親父は……一言で言うとクズ人間そのものだった。


他にも、親父は女にもだらしがなかった。

親父はシェフの姿はモテるのでウェイターや客を連れては帰ってこなかった。


「あれ、母さん……父さんは?」

「父さん……なにしてるんだろうね。それよりも……今日は宿題やった?」

「いや、まだ……。」

「やらないとダメじゃないの!」

「……ごめんなさい。すぐやります。」


この母さんと呼んでいる人物も、実際のところ血縁上は他人だった。

そう、この父親はバツイチなのだ。


俺の本当の母親とはパチ屋で知り合って、そこから離婚したらしい。

今の母さんもウェイターから、親父に一目惚れをして入籍してるのだ。

だが、物心ついた頃から離婚していたので、俺は本気で目の前の人物を母親だと思っていた。


母さんは、とにかく厳しかった。

今となっては血の繋がってない子どもをきちんと育てようとするプレッシャーによるものだったのだが、倫理観の壊れた父親との暮らしは……まるで明けない夜のように絶望だった。


そして、俺はやがて大人になる。

母親の厳しさの甲斐もあって、俺は地元の進学校に言ってはそこそこ広い選択肢を与えられることになり、いざ……俺は将来やりたいことを考えた。


父親は、店が繁盛して自分のお店を持つようになっていた。

あまりの美味しさに……評判店となっていたのだ。


しかし、彼の生活は変わることはなく、酒を浴びるように飲み、家の壁はタバコのヤニで真っ黄色になっていた。


だけど……だけどだった。

俺は進路希望にひとつだけ選択肢を記述した。


先生との面談でも驚かれたのだ。

目の前にいたのは、諏訪先生。

体を鍛えるのが好きでトライアスロンをする先生だ。

肌は浅黒く、懐の厚そうな包容力があり俺に向き合ってくれた人物だ。


「尾崎は……料理人になりたいのか。君みたいな優秀な人間は……有名大学という選択肢もあるのだけど、そこはいいのか?」

「はい、俺は父親のような料理人になりたいのです。親父の作ってくれたロスティーが……世界一美味しかったので、あれを超える料理が作れるようになりたいんです。」

「そうか、すまない……先生の都合を押しかけてしまった。」

「いえ、俺のことを見てくれてありがとうございます。」

「尾崎は成績も優秀だから、推薦も入れておくよ。厳しい道だけど……頑張ってな。」

「はい!」


☆☆


こうして、俺は専門学校を出ては……あるホテルで数年務めることになった。

とはいえ、一ツ星が付いている。

俺は必死に働いた。

12時から夜の1時まで働いて、そこから3時間寝てからまた14時まで働くスケジュールをして、死に物狂いで働いたのだった。


やがて、俺は少しづつできることが増えてきたので俺は遂に親父に料理を振る舞うことになった。

これで親父を感動させられる。

そう思ったのもつかの間だった。


俺は……親父にロスティーを作ってあげた。

なるべく味をちかづけたのだが、親父は1口食べると皿を割り付けてしまった。


「不味い。」

「な……な……。」


俺は、言葉を失ってしまった。

即座に隣にいた母親も叱り付けると、また夫婦喧嘩をして俺は目の前が真っ暗になった。



それからは、俺はフレンチではなくイタリアンの方に切り替えて、食材と向き合う日々だった。


しかし、その職場となかなか忙しく10じから23時まで働くのが当たり前で、それでも……俺は働き続けたのだが、それもある日終わりを向ける。


仕事中に……当然母親からの電話があった。


「もしもし、ねえ……父さんが……。」


親父は、タバコを吸っていたのもあって新型のウイルスに冒され、もはや彼の命は風前の灯とのことだった。


俺は職場を抜け出し、指定された病院にいった。

皿を割られてから数年親父の顔は見てなかった。

あの時のロスティーはまだ俺が食材に向き合えてないメッセージだとこの頃に気がついた。


最後に……せめて俺の料理を食べてもらいたい。

俺は指定の病室にいると、酷く痩せこけて白髪の生えたあの頃の面影がない父親と、目の前で泣き崩れ母親がいた。


俺は……喪失感でいっぱいで涙が出なかった。

一人で、あの頃と同じロスティーを食べてみる。

同じ味……とは思ったけど、やはり何かが足りなかった。

俺は、親父のようなシェフにはなれなかった。

必死に働いた、寝る間も惜しんで学んだのは……あの人の背中を追っていたからだ。


そんな父は……もう居ない。


そう思うと……俺は惨めに泣き崩した。

せめて、親父に俺の料理を食べてもらいたかったと。


そして、俺は親父の店を継いだのだが……俺は親父の代わりを出来たのだろうか?

そんな不安を持ちながら……嘘の笑顔を撒き散らしたのだった。


☆☆


それを最後に、俺の人生という悪夢は終わりを告げた。


俺はハッとすると、そこはホテルの一室だと気がつくのには少しだけ時間がかかっていた。

目の前にはことねさんがいた。


俺は……まだ一人前にもなれてないのにことねさんに甘えてばかりだった。

人として恥ずかしい、そんな羞恥心が舞い込んできた。


「尾崎さん……?」

「……起きてたんだ。」

「酷く、うなされたようでしたから。」

「夢を……見てた。昔から今に至る夢を。」

「幸せそう……ではありませんでしたね。」

「そうたまね、なんというか……何も成し遂げられてない自分に少しだけ……嫌悪感を抱く夢だったよ。僕は、父親には遠く及ばない。」


そうして彼女に背を向けると、ことねさんは後ろから俺を抱きしめた。


「そんなことはありません。私……尾崎さんの料理が世界で1番美味しいと思いますよ。」


そんな言葉に……俺はイラッとしてしまう。


「勝手なことを言わないでくれよ!俺は……あの人に一日たりとも認められなかった!頑張ったのに……追いつけなくて……あ。」


すると、ことねさんは少し悲しそうな……寂しそうな目をしてハッとしてしまう。

俺は……あの尊敬しつつ、憎んでいた父親が母親に当たり散らかしていたように……ことねさんにあたってしまったのだ。


「……ごめんなさい、ことねさんは僕に気を使ってくれたのに……。」

「大丈夫です、私も……無いはずの親子への気持ちで揺らぐことがあります。」


そうだ、ことねさんも家族のことを知らない。

愛されることを知らずに育った人だ。

俺の気持ちは……少し違うけど分かるのかもしれない。


朝だと言うのに……雰囲気を悪くしてしまった。

俺は……最低だなと自己嫌悪すると、ことねさんは言葉を続けた。


「尾崎さん……1つお願いしてもいいですか?」

「……いいよ、いってみて。」

「私、尾崎さんからはことねと下の名前で呼ばれてるのに、私は尾崎さんの事を苗字で呼んでいます。そろそろ下の名前で呼んでもいいですか?というか、そろそろ下の名前……教えてください。」


俺は怖かった。

俺の人生を振り返ると、俺は父親からは認められずいつも小僧と呼ばれていた。

大人になってからはみんなからは尾崎と呼ばれ下の名前で呼ばれることはなかった。


俺にとって下の名前で呼ばれることは、何か全てを変えるような……そんな重い感覚だった。


でも、彼女は……彼女だけは俺を違う景色から見ようとしていたのだった。

俺は、少しだけ唾を飲んで目を逸らして……俺の名前を伝える。


「晃、尾崎……晃って名前です。」

「あきら……晃さんって言うんですね!すごくいい名前です。あきらさん……あきらさん!」

「そんな……何回も言わなくても……。」

「いえ、私この名前好きですよ。」


初めて、人から呼ばれた俺の名前。

小僧でもなく、あなたでもなく、尾崎でも無い……俺の名称。

それを言われた時、少しだけ認められたような感覚があった。


お互い向き合うと、顕になった身体を互いに認識すると、恥ずかしくなりお互い身を隠してしまう。

昨晩はあんなことがあったとはいえ……まだまだ俺達には距離があった。


「……あきらさん、今日はどんな旅行にしますか?」

「そ……そうだね……トロッコ列車に乗って、後はホタルイカミュージアムとか行こうかなとか思ってるけど……。」


すると、ことねさんは俺を抱きしめて、再び体が密着した。

その行動に心拍数が大幅に上がってしまう。


少し乱れた髪、透き通るような白い肌、凛とした顔立ちにぷるんとした唇をみて、少しだけ目を逸らしてしまう。


ほんと……この人はいつみても綺麗すぎてこんな俺と一緒にいていいのかと感じてしまう。


表情は……少しだけ口角があがっていて自信ありげな表情だった。


「1個だけ……私のわがままで行き先増やしてもいいですか?」


そう言って、朝のセミの音と鈴虫の音が入り交じる自然の中、俺たちは朝の陽射しを浴びて1日はスタートを迎えた。


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