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僕のお母さんは△▽女優  作者: kyonkyon
第13章 メイド長と優男シェフの慰安旅行
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メイド長と優男シェフの慰安旅行 6話

※100日チャレンジ70日目

ついに県境を超える。

ここは富山県、北陸地方にある県のひとつであり富山湾にはホタルイカや白えびなどの豊かな資源があることでも評判の土地である。


私はここに来るのが初めてだ。

東京から出発して寄り道もあったけど6時間、私たちはようやく到着したのだった。


とはいえ、ここは富山県の海辺にあたるところ、ここから南に進んで山に向かい、宇奈月駅の近くに向かうことになる。


それにしても、運転してる時の尾崎さんは本当に生き生きとしている。

楽しそうにギアのレバーを変えたりするところがあったりと、実は子供っぽいところがあるのだなと感じる。


大して私は……海を見ては黄昏ていた。

たまに東京湾を見ることはあるど、それとは比べ物にならないくらい美しくてうっとりとしていた。


そんな時だった。


ぐぅ〜っ!


私のお腹が鳴りだす。

そういえばこの度は適当にサービスエリアに止まり缶コーヒーを何度か買い足したくらいでお互いお腹が空いたと気づいたのはかなり後だった。


私は、少し恥ずかしさを覚え…赤面していた。


「あれ?なんか今音が……。」

「き……気のせいじゃないですか??」


ちょっと誤魔化してしまう。

あまりお得意のポーカーフェイスが働いてくれなくて、尾崎さんは何かを察したのか苦笑していた。


「あはは……長旅で何も食ってなかったね。少し遅めのお昼にするか。」

「いやだから……お腹すいてないですって。」


ぐぅ〜〜ぐぎゅるるるるっ!


そんな言い訳を裏切るかのように私の胃袋は食料を求めて悲鳴をあげていた。


「お腹……空いてるでしょ?」

「……はい。」


私はそっぽを向くと尾崎さんは高速を降りてバイパスに進んでいた。

どこかお店でも決めてあるのかな?


「ことねさん、寿司好き?」

「寿司……私、人生で数回しか言ってたことないんですよ。それも、施設から引き取ってくれた里親の人に連れてってもらったくらい。」

「そうなんだ、自分からはあんまり行かないの?」

「なんというか……メイド喫茶で働いてる時は所得が低くて、贅沢できなかったというか。」

「うん!わかった、いこう!いくらでも好きなの食べていいから!」


少し悲しそうな顔をしている尾崎さんはどこか私の境遇を哀れんでいるようだった。

やっぱり私って他の人からみたら変わっていたりしてるのかな?


10分かけて私たちは富山の寿司チェーン店にたどり着く。

聞いた事ない名前のお店なので一目でそうなのだとわかった。


「いらっしゃいませ!」

「二人でお願いします。」


そういって、私たちはカウンターに並んで座った。

あ、ちょっと近い。

テーブルじゃないんだと思ったけど、これはこれでいいかもしれない。


そして、尾崎さんはメニューを見ては興奮していた。


「お!色々あるじゃん……カワハギに、ホウボウ?黒鯛まであるな〜くぅ〜!やっぱりこういう所だと漁港特有の地魚とかそそるよな〜!」


まるで呪文のように魚の名前を述べる。

いけない、私マグロかサーモンしかわからない。

ちょっとだけ話が着いていけなくて居心地が悪い感じがした。

しかも、1皿300~400円以上もしている。

なんということだろう。畳、座布団、ちゃぶ台のボロアパート暮らしの私にとっては贅沢もいいところだった。


「あ…あの……私ちょっと食べるだけでいいですからね?」

「え、何言ってるの!今回は僕の奢りさ!沢山食べてよ!知らないものを、沢山食べていい経験にしてよ。」


すると、尾崎さんは1万円札をテーブルにポンっと置いた。


「あの……これは?」

「この1回の食事で1万円使い切るまで帰れません!」

「え……えー。」

「僕知ってるよ〜、たまに賄いことねさん食べてるところ見るけど1回の食事でパスタ200g以上食べてるんだもん。実は結構食べるほうでしょ。」


いけない、バレてる。

この人にカッコつけや嘘は通用しないようだった。


「でも、1万円って大金ですよ?」

「大丈夫!!……実家暮らしの独身貴族はお金が貯まるんだ。使い道なくて。だからこういう時しかお金使い道ないんだよ。」


ちょっとだけ尾崎さんから哀愁が漂っていた。

あれ、そう考えたらちょっと前まで私所得めっちゃ低かったのかな?

まあでも……アラサーで手取り13万円だったからそうかもしれない。


「……尾崎さん、私食べます。」

「お!その意気だ!何食べる?」

「私、マグロかサーモンしか分かりません。」

「仕方ないよ!じゃあどんどん適当に頼むね!」


それからはたくさんの寿司が流れてきて私は色々試してみた。

脂身がジューシーなブリ、とろみがあり旨みが染み込んだホウボウ、プリっとした食感のカワハギ、身に甘みのあるシイラ。


あまりのうまさに……私はビールを注文する。

尾崎さんはいいね!と喜んでいた。

私が美味しそうに食べる姿を尾崎さんは嬉しそうに見ていた。


この人……人に与える幸せを自分の幸せにするタイプなのだと感じる。

そう思いながら……ビールののどごしを堪能しては、また食べたことない魚を食べた。


……あっという間に私たちは1万円分の食事を済ませてしまった。

2000円オーバーをして。


はしたない姿を見せてしまったかと少しだけ恥じらいを感じていた。


「ふーっ!食ったね!いい食べっぷりだったよ!」

「すみません、ご馳走様でした。人生で最高にいい体験でした。」

「あはは、まだ最高と言うには早いよ!」


再び私たちはロードスターに乗り込み、エンジンを鳴らす。

食欲が満たされ、少しだけアルコールで全身に快感が走るようだった。


「それにしても……尾崎さんって本当に魚に詳しいんですね。漁師もできそうな雰囲気でしたよ。」


すると、少しだけ尾崎さんは悲しそうな顔をしていた。

あれ、さっきまで幸せそうな顔をしていたのに、どうしたのだろうか。


「……思い出だったんだよ、喧嘩ばかりだった親父と唯一話せた魚の話。俺は親父に褒めてもらうために魚の図鑑とか覚えてたんだ。だからこの知識はオヤジとの絆なんだよ。」


なぜこの人はいつも必死に食材と向き合ってるか……少しだけわかる気がした。

私は、彼の手の甲に私の手を重ねる。


「おいおい、マニュアル車だからガチャガチャ動くよ。」

「……私は、親との思い出をほとんど知りません。母は病死し、父は私に虐待をしてから自殺しました。私は……親の愛を知りません。でも、きっと尾崎さんにとってそれはものすごく大事なものですよね。分からないですけど、多分そんな気がします。」


ちょっと自分でも何言ってるか分からないけど、精一杯の言葉を紡ぐと。尾崎さんは少しだけ嬉しそうだった。


「ことねさん、ガチャガチャするけど……もう少しだけ手を重ねてくれる?なんか心地よくって。」

「ええ、もちろんです。」


景色は少しずつ海の景色から木々に囲まれた山々の景色に変わっていく。

気がついたら景色はどんどん夕日が差し込んでいった。

セミの声が不思議と聞こえないかと思ったら鈴虫の声が聞こえてきた。

季節は、秋に近づき木々の紅葉を促す。


その寂しさを埋めるように私たちの手は体温を交わし……温めていた。

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