メイド長と優男シェフの慰安旅行 1話
※100日チャレンジ65日目
私は神宮寺ことね。
今はレンタルキッチンという形でメイド喫茶を独立してお店を営んでいる。
紆余曲折あり、私はメイド喫茶を立ち上げたのだが一緒に働く仲間に恵まれて最初こそコンビニバイトと併用していたが、今はこの仕事1本で生活もできている。
今はお盆最終日であり、お客さんは苛烈を極める程に殺到していた。
「もえもえきゅーん!」
「いや〜、最高ですな!」
……というのも、元人気AV女優の遥香さんがかなりお客さんを集めているのだ。
あとは前のメイド喫茶の同僚の舞衣、そしてわたしも多少なりとも集客ができるので人気とノウハウを駆使しつつ何とかやれている状態だった。
「ことねさん!お待たせ、クレソンのトマトのサラダときのことパンチェッタのクリームパスタだ!」
「ありがとうございます!尾崎さん!」
そして、厨房でアグレッシブに動いてワンオペをこなすこの青年こと尾崎さん。
彼はいつも目を見張るほど料理が早く、そして美味しそうに盛り付けていて彼の料理が何より評判だった。
流石は歴戦のシェフである。
しかも、もうかれこれ一人で100人分のオーダーをこなしているのに疲れてるところすら見せてなかった。
そんな感じで、私は小さな夢を叶えて前進していた。
☆☆
お盆最終日になると、客足がいつもより早く途絶えた。
きっとこれからみんな移動の時間なのだろう。
今日は連日忙しかったのもあり、早めに仕事を切りあげることにした。
私の後輩の舞衣は8/15の花火大会を彼氏さんと行ってから妙にご機嫌である。
なんというか……鼻歌を歌っていたり、スマホの待受にいる彼氏くんを永遠に眺めてたりしたのだ。
「お疲れ様、最近どう?」
「えー?聞いちゃいます?えへへへへ。」
「やっぱやめとくわ。」
「えー!聞いといてですか?」
なんというか、舞衣は大好きだ。
仕事やメンタルでも私の支えになってくれてるし、今の私には彼女は必要不可欠である。
しかし、距離が近くなって少し不可解なことを知った。
「見てください!これ、彼氏の使用済みタオルですよ!やっと手に入れたんです!」
なんというか、ストーカー気質のような危険な癖があるのだ。
まあいい、人にはそれぞれそういったところもあるんだけどね。
「あら〜舞衣ちゃん、直輝といい感じみたいね!」
「いや、ほんと……最近はめっちゃ幸せなんですよ〜。」
若いな……なんて思いつつ、どこか不愉快ささえ感じてしまう。
私はこうして男性とお付き合いをほとんどしたことないままアラサーになってしまった。
いや、決して羨ましいわけではない……断じて。
「もー!めっちゃラブラブさせていただきました!」
「ラブ!?」
「……どうしたんですか、ことねさん。」
「い……いえ……なにも……。ひゅーひゅー。」
「いや、口笛できてないですよ。」
まあでも、少し寂しさはある。
若さを持て余すし、帰り道に楽しそうに帰る男女をみるとどこか羨ましさというか、嫉妬に近い感情が湧いてくるのも事実だ。
「2人とも!そういった恋愛の話は程々にね、ことねさん困ってるでしょ。あ、これ今日のあまりのパンナコッタね!」
すると、この店のオーナーシェフの尾崎さんが余ったパンナコッタを出してくれた。
上にはメロンをに煮つめたソースとメロンの果肉が乗っている。
私たちはそれを口にするのだが、絶句するほど美味しかった。
「んー!美味しい!」
「そういえば、ことねちゃんは恋愛の話とか聞かないわね、好きな人とかはいるの?」
「んー、それが……お付き合いしたことなくて分からないんですよね。好きってどんな感覚なのか……。」
2人が首を傾げる。
私はやはり変わってるのかもしれない。
「えー、じゃあ……尾崎さんとかどうです?めっちゃかっこいいじゃないですか!」
「ええ!?お……尾崎さんですか?」
つい反応してしまった。
確かに尾崎さんとかいると不思議と安心する気持ちとどこか心臓いつもよりも早く動く気がするけど。、
「ねー!尾崎さんモテそうだもん、爽やかだし優しいし料理作ってる時はかっこいいし。」
「……あはは、なんか照れますね。」
「彼女とかいるの?」
遥香さんのストレートの質問に私は耳を立ててしまった。
え、なんか嫌だ……尾崎さんが女の子とイチャイチャしてるのとか。
「いえ、これが全く……いや〜、仕事ばかりだとほんと出会いないですよね。」
「え!?出会いないんですか?今とかマッチングアプリだってあるじゃないですか。」
「あはは、数年前にやって見たんですけど……使いこなせませんでした。あと、あのシステムは仕事とか年収とか書くものも多いからそれだけでも不利なんですよ。」
「「「せ……世知辛い。」」」
ついみんなでハモってしまった。
尾崎さんも私より少しだけ年下だけど婚礼適齢期……やっぱりそういうの意識するのかな。
「じゃあ、ことねさんはどうです?こんな綺麗な人……中々居ないですよ〜。」
「ちょ!?舞衣!?」
ちょっとデリカシー無さすぎないかしら。
やめて、これでナシとかいわれたら少し仕事行きたくなくなるじゃない。
「い……いや……その……あはは。」
何その反応!?コメントに困るみたいな。
妙に私は尾崎さんと顔を逸らしてしまった。
え、やっぱり私って魅力ないのかしら?
女って歳をとるほど価値が下がるってホントだったのね……。
しかし、尾崎さんはその後も続けた。
「なんというか、高嶺の花というか……僕には勿体ないくらい綺麗な方だとおもいますよ。話してて楽しいですし、仕事も出来るから尊敬してるくらいです。」
……………………。
「うわ!ことねさん顔トマトみたいに真っ赤になってる!?」
「あ…………ごめんなさい!困らせるつもりでは無かったんですけど。」
尾崎さんは慌てて私に近づく。
やめて!今尾崎さんの顔見れないから!
しかし、目線を外すと尾崎さんの腕が目に入った。
筋肉が着いており、血管が浮き出ていてそれでいて室内で仕事をしてるため肌が白かった。
いかん……鼻血出る。
「あ……あとはお金の計算とかしておくから、2人とも上がっていいですよ!お疲れ様でした!」
「え……でも、パンナコッタの器とか洗いますよ。」
「やっときます!2人とも疲れたでしょ。ほら……。」
「じゃあ、上がりますか……遥香さん。」
「そうね……お疲れ様でした!」
「お疲れ様でした!またお願いします、」
私は頭に血が上ってるのか2人を早めに帰らせてしまった。
そして、尾崎さんと無言で互いに逆方向を見てしまう。
……………………。
気まずい!どうしよ、変に恋バナとかするから意識してしまった。私のバカ……もう少し2人にいて欲しかったわ。
「尾崎さん……そ……その……。」
「はい。」
「今日は……いい天気ですね。」
「え、めっちゃ雨降ってますけど。」
違う、そうじゃない!というか、天気の話題するやつは話題ないやつだと思われるじゃない。
「あー!じゃなくて……その……お盆もお疲れ様でした。尾崎さんのおかげでお盆も乗り越えられましたね!」
「そうですね……ことねさんに出会って良かったです。この店もメイド喫茶もあるけど、結構おいしいって知ってもらうきっかけになって、感謝してもしきれないですよ。」
いけない、この人ナチュラルに人たらしのイケメンだった。
何言ってもかっこよく見えてしまう。
「疲れてませんか?ほぼワンオペで働いてたじゃないですか。」
「まあ、僕は前の職場で13時間働いてましたからね、慣れっこですよ。」
流石は尾崎さんである。
きっと若い頃に苦労したからこそ今があるのだろう。
これからもこの人と仕事をしたい。
でも……私の奥底にはまた別の欲求も並走していた。
「尾崎さんは、疲れた時何してるんですか?」
「んー……温泉かな。露天風呂に入って景色をぼんやり眺めるのが好きなんですよ。」
「温泉ですか!私ほとんど行ったことないです。」
「え、そうなんだ……疲れた時は何してるの?」
「んー、タバコ……ですかね。」
「ほかには?」
「いや……大学生の頃に吸ってからはタバコ以外は無かったです。」
「へ……へえ。」
いけない、タバコ臭い女と思われたかしら。
確かにセブンスターは臭い強いかもしれない。
そしたら、尾崎さんは少し考えてある提案をしてくれた。
「ことねさん、もし良かったら僕と旅行でも行ってみますか?」
「え?私でいいんですか?」
「もちろん、みんなに内緒の慰安旅行として……どうでしょう?」
そんなの、願ったり叶ったりである。
私も尾崎さんとかどこかお出かけとかしたかった。
私は、勇気を振り絞って答えを出した。
「……私でよければ。」
夏の仕事を終えたあとの厨房は、水の水滴がポツンと寂しく音を鳴らし、少しの金属臭さと湿気を出していた。
しかし、私の全身を湿らすのはこの湿気だけではない気がした。




