学校のマドンナはおとこの娘 11話
※100日チャレンジ62日目
目が覚めると、人の気配を感じた。
普段ならびっくりするのだが、風邪のせいでそんな気力も内容だった。
「あ、起きたね。」
「おはよう、直輝くん。」
目が覚めると2人の美少女が目の前にいるではありませんか。
そう、舞衣と渚が俺の部屋にいるのだ。
あ、違う違う…渚は男だった。
「2人とも…来てたんだ。」
「もう〜びっくりしたよ、突然学校休むんだもん。それでお見舞いに行こうと思ったら佐倉さんも行くって言ってくれたから二人で行くことになったんだ。」
そうか、てっきり2人は犬猿の仲になりかねないかと思ったけど仲良さそうでよかった。
「いや〜、まさか昨日の直輝くんをさらにイケメンにしてくれたのが渚さんだと知ったら仲良くするしかないじゃないの!」
「あはは、まああれくらいなら朝飯前だよ。」
どうやら利害関係は存在してたみたいだった。
「お腹すいてる?良かったらリンゴ切ってあげようか。」
渚がコンビニ袋からリンゴを見せる。
ああ、なんて良い奴なんだろう。
見るからに美味しそうでお腹がつい鳴ってしまうほどだった。
「じゃあ、頼むわ。キッチンにある包丁とまな板…好きに使ってくれていいから。」
「うん、じゃあ切ってくるね。」
渚は立ち上がり、リンゴを切りに行く。
対する舞衣はただ一点に俺を心配そうにみていた。
「どう?直輝くん…風邪の方は…。」
舞衣が俺のおでこを触る。
いや、触りたいだけでしょ。
「うん、熱はそこまで酷くないわね。でも汗かいてるわ。汗拭いてあげようか?」
凄い…なんというか、今日会えなくて寂しくてたまらなかったのか距離の詰め方が少しおかしかった。
とはいえ、俺もひとりでは出来なさそうだったので汗を拭ってもらうことにした。
舞衣の前で半裸になり、背を向けるとひんやりと湿ったタオルで体を拭ってくれる。
少しだけだけど体がさっぱりしたのを感じた。
「次は前だね。」
「い…いや…恥ずかしいからいいよ。」
「いいからいいから!」
舞衣と向き合うと体を拭き上げられる。
背中よりも羞恥心を感じて恥ずかしさのあまりに頭から火を噴き出しそうになった。
「って…意外と手馴れてるんだな。」
「まあね〜、一応看護師志望してるからオープンキャンパスとかの実習とかでこういうのやったりするのよ。」
「へぇー、看護師ってこういったお世話もやるんだな。」
てっきり、手術の時に先生をサポートするとかそんなイメージだったけどどうやらかなり違うらしい。
ということは、結構激務になるんじゃないか?
「大丈夫よ!もし直輝くんが身体が動かなくなっても世話は全部してあげるからね。私無しで居られない直輝くん…ふふふ。」
いかん、なんか将来の延長でおぞましいこと考えてやがる。そして、俺を拭ったタオルはなぜかジップロックに入れてバッグに入れていた。
いや、なぜいつも俺を拭いたタオルを持ち帰るんだろうかと疑問をぶつけたけなったのだが、その先はパンドラの箱な気がしたので触れないでおいた。
「おまたせー!りんご切って…うおお!?」
りんごを切り終えた渚が俺の部屋に来たら、半裸の俺をみて驚く。
まあ、絵面はやばいよな…全然不健全なことはしてないけど。
「身体拭いてたの、直輝くん汗かいてたから拭きあげた方が良いと思って。」
「そっか〜!てっきり盛ってるのかと。」
やめなさい、そんな面と向かって盛ってるとか…どうして俺の周りは想像力がこうも豊かなのだろう。
「じゃあ…直輝くん…あーん。」
「ん…あーん。」
程よく切り分けられたりんごをかじる。
うん、このりんご甘みがあって、シャキシャキ感もあるので好みの味だった。
食べると元気の出るような酸味もあってめちゃくちゃ美味しかった。
「な!?ちょっと……渚さん?それ私の役目なんですけど…!」
「いいじゃん…切ったの僕なんだし。」
なんだろう…二人の間に妙なバチバチ感を感じる。
あれ、でも片方男なんだけどな。
せめて話題を逸らしてあげないとな。
「なあ、渚ってりんごとか詳しいのか?めちゃくちゃ美味すぎてびっくりしたんだけど。」
「あ…ああ、秋映っていうりんごを選んだんだ。僕が個人的に好きだったというのもあるんだけど。美味しいでしょ!シャキシャキしてて。」
なるほど、ふじしか種類しらなかったけどどうやら色々あるみたいだった。
やっぱり食べ物ってこういう発見があるからいいよな。
「はい!直輝くん、秋映あーん!」
渚に負けじと舞衣もアピールをしてくる。
愛されてて俺は幸せ者だな…。
ちょっと圧が強いけどね。
俺は素直に口に入れて笑顔で咀嚼する。
意外と風邪をひくと寂しくなるものだけどこうして看病に来てくれるだけでもなんかうれしかった。
そう安堵した時だった。
また、昨日と同じように渚のスマホがなり出す。
渚は少し憂鬱そうな顔でスマホの着信を受け取った。
「もしもし、ママ?うん…。」
昨日と同じようなヒステリックな怒鳴り声が聞こえた。
それを少し辛そうに対応をする渚を見て不思議と居心地の悪さを感じてしまう。
電話を終えると渚はまた深いため息を着いた。
「…母親か。」
「うん、また帰りが遅いって怒ってた。」
渚はどうすればいいのか分からない…そう言わんばかりの顔をしていて、俺もなんて声をかければいいのか分からなかった。
「…渚は、母親のことをどう思ってるんだ?」
「んー、怖いね。あと窮屈だ、性別もねじ曲げてきて…全てを縛ってくるから。自分は性自認は女だと思ってるけど、ちょっと違和感も感じる。」
どうやら、渚の中の男という気持ちも静かに葛藤してる証拠なのだろう。
渚は…変わりたいと思っているのかもしれない。
「なあ、渚?もし母親と本音で話したくて怖かったら…俺も一緒に話すぜ。」
「え…?でも…助けてばっかりで悪いよ。」
「ああ、いやいや…看病してりんご切ってもらった借りがあるしな。今のお前を見てるのも辛い。」
「で…でも。」
すると、渚の肩を舞衣がポンと叩いて笑う。
「大丈夫よ!私たち友達だもの、どんと来なさい!直輝くんはいつも勇気くれるんだから…頼っていいのよ。」
舞衣が誇らしげにそういうと、渚は静かに頷いて考えた。
考えた先で決心が着いたようで俺の目をしっかりと見た。
「僕、今の現状を変えるためにママ…いや、母さんと話し合いたい。」
100点の答えだ。
助けてなんて言わなくていい、本音が言えるだけで100点なのだ。
「わかった、じゃあ…。」
辺りではセミではなく、鈴虫の声が聞こえる。
日本人にとって風情のあるこの音が静かに秋の訪れを伝える。
俺たち3人は…静かに決心を新たにした。




