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僕のお母さんは△▽女優  作者: kyonkyon
第12章 学校のマドンナはおとこの娘
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学校のマドンナはおとこの娘 8話

※100日チャレンジ59日目

「それでは授業を終わりにする!気をつけて帰るように!」


ホームルームが終わり、夏休み明けというのもあってみんなも疲れを出していた。

俺もココ最近いろいろあったから、なんかくたびれたな……。

さーて、家帰って久々にたくさんゲームでも……。


「あ、天野は少し残ってくれ。」


パリーン……と心のガラスが割れるのを感じた。

え、なんか悪いことしたかな?


「マジかよ、すまん……俺は水泳部があるから。」

「私もバイトが……ごめんね、直輝くん。」


飯田も舞衣も用事があったみたいで先に帰ってしまった。

ここ最近みんなと一緒にいたから少し寂しく感じてしまう。


俺は先生と生徒指導室に向かい、席に座ることになった。


「じゃあ、座ってくれ。」

「失礼します。」


妙に居心地が悪い。

昔は虐められてたのに俺のせいにされてこうやって怒られることもあったトラウマがよりこの居心地の悪さを助長をしていた。

さーて、諏訪先生はいつも温和な方なだけに何考えてるかは分からないんだよな。


「先生、俺なんかしました?」

「んー、いい意味でな。」


いい意味?


「いや、先生から見て天野はすごく頑張ってるような気がしてな。去年から君はかなり見違えたように見える。点数はかなり伸びで成績トップに割り込みそうな勢いだ。」


まあ確かに、俺は万年最下位から突如点数を爆上げして。かなりの成績を残していた気がする。


「それに加え、君はクラスの人間関係もまとめあげている。佐倉は女子間でのいざこざも無くなったし、不良の虎ノ門だって、暴力沙汰が減りたまに休むけど学校に来る。」


言われてみれば、俺の周りも友達が出来てみんないい方向に行っている。

結論から言うとそれはみんなが頑張ってるだけであって俺はそんなに関与はしてないのだが。


「天野は、この学校でやりたいことあるのか?」

「んー、ハッキリとはないですね。母ちゃんに恩返しできるように、今は大学を目指しています。」

「ほう、学校は?学科とかも決まってるのか?」

「そこは……まだなんとも。」


いかん、言ったことに対して中身が無さすぎる。

先生もさぞ呆れてるだろう。

しかし、先生は俺から目を逸らさず、まっすぐ見ていた。


「天野、もし良ければなんだが生徒会役員をやってみないか?」


へ?生徒会役員?

なんだその俺から無縁を見事に体現したような言葉は。


「い……いやいや!俺には荷が重いですって!」

「ちなみに、飯田を生徒会長に推薦しようと思う。君は話をまとめたりするのが得意そうだから……議長なんでどうかな。」

「議長……。」


会長、副会長と続いて議長なので実質的なNo.3といったポジションだったな。

あれ?でも議長って普段何するんだ?

肩書きはかっこいいけど。


「でもまあ、今回はその前段階の話でな。そろそろ文化祭と近いから、まずは文化祭実行委員をやって欲しいんだよ。」

「いや、そこを先に話してくださいよ。めちゃくちゃテンパったじゃないですか。」

「あはは、すまん……先生もよく教頭から結論から言えって怒られるんだよ。」


諏訪先生が低い声であははと笑う。

筋肉質で肌が浅黒いけど、やっぱり目はすごく優しいんだよな……この人。


「……やってないか?もしかしたら、人生にとって良いキッカケになるかもしれない。先生もサポートする。」

「分かりました、やってみます。」


少しめんどくさいという気持ちもあったけど、

今まで底辺だった俺が学校を引っ張る立場になる。

きっと向いてないことも沢山あるのかもしれないけど、俺が己を知る良いきっかけになるかもしれない。



「話は以上だ、天野も相談事があったら気軽に俺にも話してくれよ。あ、トライアスロンのお誘いも大歓迎だぞ。」

「いや、体力ないんで死にますって。」


諏訪先生、歴代の担任の中でも話せるタイプだな。

今までの教師は頭ごなしに否定してきたのでほとんど嫌いだったけど、諏訪先生だけは例外になりそうだった。俺は少しだけ雑談を話してから、この部屋を後にした。


「失礼します。」


ガチャ。


秋になると少し日照時間が短くなるのか、まだ6時というのに少し薄暗くなっていた。

夜の学校って妙に音が反響していたり、長い通路が暗かったりと不気味な景色が続いていた。


ヤバい……なんか出ないよな……?

恐る恐るスマホのライトを照らすと、1人の女の子が立っていて、突如目の前に現れる。


「やあ。」

「ぎゃああああ!……って……渚?」


失礼、女の子じゃなかったみたい。

一瞬だけだとほんとわからないよな。


「どうしたんだよ、渚……お前部活とかも入ってないだろ。」

「あはは、今日も一緒に帰れるかなと思ったけど、先生に呼び出しくらったって聞いてさ……。もしかしたら昨日のボクのせいかなと思って心配して待ってた。」


なんというヒロインムーブだろう。

恐ろしく熱いアプローチ、俺でなきゃ惚れちゃうね。


「ああ、違う違う。別件だ、むしろ褒められたくらいだ。」

「そう!それなら良かった……!」


二人で昇降口を出ると、外はしとしとと雨が降っていた。

薄暗い空気に、アスファルトの匂いが湿って漂っている。


「やべえ……傘忘れた。」

「ああ、ボクのがあるよ。……相合い傘、してく?」


渚がほんの少し上目遣いでこちらを見た。

その黒髪は光を吸い込むように濡れ、瞳はガラス玉みたいに雨を映している。

言葉よりも、その視線に心臓が先に反応してしまう。


「……お、おう。」


傘の下に並んで歩き出す。

身長はほぼ同じなのに、渚はほんの少し自分の方を押しやって、肩を差し出していた。

結果、渚の肩口はじわじわと濡れていく。

すぐ耳元で、雨が傘を叩く小さな音が重なり、息遣いが近すぎて落ち着かない。


「そういえばさ、なんか先生から文化祭実行委員やら、生徒会役員をやって欲しいだの……そんな話が上がったな。少し悩んでるんだけど……どう思う?」

「え!凄いじゃん!やっぱり直輝くんって人望が厚いから、見てる人は見てるんだよ。」


渚の声は、雨のせいで少し柔らかく響いた。

ただの会話なのに、胸の奥をくすぐられる。


その時だった。

後ろから車が、水しぶきを巻き上げながら通り過ぎる。

次の瞬間、渚の体が全身で泥水を浴びた。


「おい!渚……!?大丈夫かよ!」


渚は一瞬目を丸くしたあと、困ったように笑って「やっちゃった」と呟いた。

シャツは肌に貼りつき、長い髪から滴がぽたぽたと落ちる。

その冷たさが見ているこっちまで伝わってくるようだった。


このまま電車に乗らせるわけにはいかない。

それに、ずっと助けてもらってばかりだ。

今くらい、俺が……。


「なあ、渚……今日、うちに来ない?」

「……え、いいの?」


少し震える声。

その表情は、雨粒のせいか、それとも別の感情のせいか、ほんのわずかに赤く見えた。


雨は強くなり、秋の風が冷たく頬を撫でる。

渚は嬉しそうに頷き、泥のついたスカートを気にしながら、俺の横にもう一度並んだ。

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