学校のマドンナはおとこの娘 6話
※100日チャレンジ57日目
俺たちはその場で解散をして、俺は帰宅することになった。
昼間は鬼のように暑かったのに、夜になるとビルのすきま風が身体を冷やし、徐々に秋から冬になるのを感じる。
とにかく、この件は誰に相談するべきか悩んだ。
んー、誰と話すのがいいんだろ。
「まあ、母ちゃん一択か。」
悩むほどでもなかった。
他のみんなにはこの件は衝撃がでかいし、情報が広まったら渚が学校に居ずらくなってしまう。
俺は、急いで家に駆け出した。
少しだけ、小雨が体に降り注いだが目にとめず傘を刺さずに駆け出した。
☆☆
「おかえりー直輝ー!」
「母ちゃん…話がある。」
「は…話…?」
俺たちは帰宅し、テーブルに座る。
母ちゃんはビール、俺はコーラ。
真ん中にはイカそうめんとマヨネーズ、醤油、七味が入った小皿を添えて。
「いや、飲み会ちゃうから!」
「えー、いいじゃん、美味いよ?イカそうめん。」
俺はイカそうめんをつまみながら口に入れる。
マヨネーズの酸味と醤油の塩っけさ、七味の辛さがイカそうめんの味を引き立て、コーラを飲む。
「「ぷはっ!」」
お互いに飲んでいるものの炭酸を噛み締める。
いや、久しぶりに食べたけどうまいな、これ。
「で、話って何?悩み事?」
「ああ、今日友達が出来たんだ。」
「へー!いいことじゃない!男の子?女の子?」
「んー、性別が分からない。」
「え?どゆこと?」
あ…ありのまま今日起こった事を話すぜ!
なんて、某スタンドで戦う漫画なりに俺は気が動転していた。
「その、学校で一番可愛い女の子がトラブってたんだよ。」
「うん。」
「助けたんだよ、そんで仲良くなってカラオケに行ったのよ。」
「舞衣ちゃんがいるのに、節操ないなぁ。」
しれっと母ちゃん酷いこと言うなぁ。
まあでも確かに今の言い方は語弊があったか。
「向こうがね、あまりにも友達になってくれって言うから友達になったらカラオケに誘われたんだよ。
そんで……帰り道にふとね、分かっちゃったんだよ。胸もタマもあってさ。」
「胸も…タマも…。」
母ちゃんは少しフリーズしていた。
そりゃあそうだな。
俺も何を言ってるのか分からない。
「そいつ、親が女の子になってほしいってタイプの親でさ……髪を伸ばさせたり、女物の服とか着させたり、女性ホルモンも定期的に投与させられてるんだよ。そのせいでさ、友達もいなくて……でも親の事も絡んでるから、どうしていいのか分からんのよ。」
言った。
全部言った。
母ちゃんはやっと納得したのか顎に手を添えて考えていた。
そして、イカそうめんをつまみ、ビールを飲み干すと更に缶ビールを開けた。
「直輝、例えばさ?私もAV女優やってたじゃない?それを飯田くんにお願いしてやめてもらうってなったらどう思う?」
「んー、なんか違うと思う。当事者じゃないし、それは俺と母ちゃんの問題だからね。」
「じゃあ、飯田くんはもしできることがあったらなんだと思う?」
なんだなんだ?なぞなぞか?
「そうだな……そんなの気にしないで友達としてソッと寄り添って……あ。」
俺は、気がついた。
何かしてあげたいと思っていたけど、どうやら必要無いみたいだ。
「無理にその子の力になろうと思わなくていい、抱え込まなくてもいいの。友達として暖かく見守ってあげるのが今回の直輝の役割だと思うな。それに、直輝は今現在少なからずその子の希望になってると思うよ?」
「そう……なのか…。」
「きっとその子も自分なりにその現状を受け入れて頑張ってるんじゃない?」
「ああ、頑張ってる。ピアノとかバレエとか……化粧だってそんじょそこらの女子とは比べ物にならないくらい上手だし、努力家なんだ!」
「なら、尚更直輝は見守ってあげなさい!」
そう言い切ると、母ちゃんはビールをごくごくと飲み干しぷはぁっ!っておっさん並みの声を出した。
「はい!この話はおしまいね!」
「ああ、ありがとうな。やっぱり母ちゃんと話すとどこか整理が着くよ。」
「うん、じゃあ私は酔っ払ったので寝まーす。」
「いや、ソファーで寝るなし。」
妙にペースをあげるからだよ。
確かに母ちゃんの足取りは不安定だったので俺は母ちゃんを寝室までおぶっていくことにした。
「……直輝、背中大きくなったなぁ。」
「うるせえ、酔っぱらいはさっさと寝てな。」
「酷いな〜。……ねえ直輝?私は直輝がどんな直輝でも大切にするからね。」
それを聞いて少し鼻がこそばゆい感じがする。
俺も、母ちゃんが母ちゃんでよかったなと思う。
恥ずかしいから、言わないけど。
俺は母ちゃんをベッドに下ろすと母ちゃんは俺に思いっきり抱きついた。
「直輝〜!」
「……酒臭い。」
「もう!たまにはスキンシップくらいさせてよ!」
「はいはい。」
まったく、この親は子離れとかできるのか?
いや、今だからこそ母ちゃんはこうやってスキンシップをしたいのかもしれない。
俺はしばらくしたら、母ちゃんと離れ自室へ向かった。
「おやすみ、今日はありがとうな…母ちゃん。」
「おやすみ〜、直輝!」
俺はスマホで渚へ電話をかけた。
すると、3コールで渚は応答する。
「もしもし、渚?」
「直輝くん……どうしたの?」
少しだけ声が震えていた。
やっぱり嫌われるんじゃないかと怯えてるようだった。
「ああ、いや……なんて事ないんだけど、今日色々話してくれてありがとうな。ちょっと混乱したけど…渚は大事な友人として接していきたい。」
「直輝くん……よかった。」
「それでさ……ちょっと提案があるんだけど。」
俺は、思い切って渚の為にある提案を彼に伝えることにした。
彼は少し頷いて、考えてるようだった。
根本的な解決はしなくていい、それは本人の問題だ。
だけど俺はやれるべき事をやって行くと決めたのだ。
「直輝くんがそう言うなら。」
彼はそう言って俺の案を承諾する。
そして、俺たちは明日に臨むことになった。




