学校のマドンナはおとこの娘 5話
※100日チャレンジも56日目
「……!」
なぎさと俺は戦慄していた。
事故とはいえ押し倒してしまった。
俺は脳がバグりそうだった。
目の前にいるのは美少女なのに下半身には明らかに触りなれた触感がある。
「あ…あの…直輝くん。手を外してくれると…その…ありがたいんだけど…。」
「あ、ああ!すまんすまん!」
俺は急いで手をどけて一定の間合いまで離れる。
しばらく、俺と早乙女はベンチに腰かけては何も話せないでいた。
「その……触っちゃったよね。」
「ああ、なんか……触りなれたあの食感があった。」
「あはは、実は僕……男なんだ。男なのにこんな見た目で……気持ち……悪いよね。」
「んな事ねーよ。俺とお前は友達だよ。」
「あはは、なんかありがと。、」
でも、もう1つ違和感があった。
渚と触れた胸部についてだ。
他の女の子と遜色ないのである。
「ああ、ボクの胸……気になるよね。」
「い…いやいや!なんか、色々あるんだよね。」
すると、渚はジト目で俺を見たあとに俺の手首を掴んだ。
そして、彼女…いや彼?の胸に当てて触感をdirectに教えてくれた。
ふむ……やはり女性と変わらない大きさをしている。
肌もスベスベしている。
「あはは、直輝くん……なんかドキドキしてない?」
「もうワケワカメ。」
キレの悪いギャグで場を和ませるがその場の空気が冷める。
「ボクの事……話してもいいかな。」
☆☆
ボクは早乙女渚。
今いる学校だと……マドンナと呼ばれる存在。
でも実際は生物場は男性ということで産まれた。
「早乙女さん!頑張って……!」
「ハア…ひぐぅ!うううんん!」
「あとすこし!あと少しで生まれます!」
ボクは体重の大きい子だったので産むのは大変だったと聞く。
「私は……娘が産まれたら…たくさんかわいい服を着せるんです。それで二人でお洒落して……。」
ボクの母さんは妊娠しずらい身体だった。
だから不妊治療をしたり、体外受精をしたりととにかく子どもを作ることに困難したそうだった。
そして、約2年程の妊活を経てやっとの事で妊娠。
母親は、自分の子どもが最初女の子だと聞かされた。
彼女も願っていたことだった。
それは、男兄弟しか居なく仲も悪かったため、妹が欲しいという願いが娘が欲しいという願いに変わっていったとのことだった。
そして、間もなくボクは産まれる。
「頭出てきました!最後、いきますよ!せーの!」
「痛い…ああ…あああ!!!」
オギャー!
ボクは産声をあげる。
すぐに助産師はボクをタオルで巻いて母さんに抱かせた。
「おめでとうございます!元気な男の子です!よかったですね!」
「……は?」
「体も大きい!元気そうな子ですね!頑張りましたね!」
「……違う。違う違う違う!なんで女の子じゃないのよ!私は……子どもが産めない体なのに!!」
「「…え?」」
ママはその日怒り狂い、泣いてしまったそうな。
念願の子ども、そこにかけてた願いは全て打ち砕かれてしまった。
ベビーカーも全て女の子仕様にしているほど母さんは私を娘だと思っていたのだ。
それ以降、ボクは女の子として育てられた。
服も女もの。一人称は俺は禁止。
習い事もピアノとかバレーとかだった。
「渚ー!ママが髪結んであげるわね!」
「はーい!ママ!」
「……なあ彩子、渚は男の子だからそういうのはちょっと。」
「何言ってるの!あなた……出産の時も子育てが大変な時も出張だの、仕事だのいって助けてくれなかったじゃないの!何も口出ししてこないでよ!」
「す…すまん。」
パパはとある会社の本部長をしていて、常日頃仕事に追われていた。
そんな母さんは子育てに消極的だといい父親を除け者にしていた。
だから、常に父親は居心地が悪そうだったのを覚えている。
やがて、ボクは中学生になる。
ボクはその時はめちゃくちゃ虐められていた。
「おい!カマ野郎!お前男が好きなんだろ!気持ちわりいな!」
「…そんな、ボクはそんなことは。」
「うるせえ!あ〜男のくせに気持ち悪い。」
ボクは…泣くことしか出来なかった。
そろそろ声も低くなってきたし、髭も生えてきた。
こんなみっともないことをする必要が無いと思っていた。
「ママ……そ…そろそろさ…男の服も着てみたいなって。」
「何言ってるの?渚は女の子でしょ?」
「でも…チン。」
「それ以上は言わないで。病院で落としてもらう?そうすれば気にならないわよ。」
ボクはゾッとした。
ママはいつもなにかに囚われてるようだった。
ボクは幸い骨格は女の子に近いものを持っていたのだから、近所の人からするとボクは娘だった。
「でも…もう無理なんだ!みんなからオカマって言われるの…辛くて…辛くて。もう…普通に居させてくれ。」
「そう、わかったわ。」
それから、ボクは病院に連れていかれた。
やはり切り落とされるのかと思ったが、それだけは無理だと言ったらなにかを体に投与するようになった。
それからは、常に痛みや吐き気を感じるようになりボクは転校して中学校はほとんど保健室にいた。
何故か、体毛が薄くなり…胸が大きくなっていってボクはほぼ女の子になってしまった。
ボクはシャワーを浴びる時、異形な姿になった自分を見ては気が狂いそうになった。
「体調は大丈夫?渚。」
「先生。ボク……もう何も分からない。」
「お母さん…中々気が強い方だからね〜。」
「ボクは…母さんの言いなりになるしかないのかな?」
「ううん、今から考えるの。目の前にできることとかやってみたり、人前で自分なりに振舞ったりとか…行動してみるといいかも。そうすればきっとあなたの事をわかってくれる人が見つかるわよ。」
保健室の先生はそうやって相談に乗ってくれる。
きっと、こういった性別のことは言わないようにしてるんだけど、ボクを唯一否定しない存在だった。
静かに考えた、今のままじゃいけない。
変わらなきゃと考えた。
もう、ボクは普通の男に戻れないのだから。
「ねえ、先生。ボクに化粧を教えて!」
「……うん、いいわよ。」
先生は黒髪清楚な美人だったので、ボクは彼女を真似させてもらった。
それからはママはボクに対して苛立つことも少なくなり、物事は上手くいった。
ピアノのコンサートでもドレスを着た僕に拍手喝采が起こるようになり、バレエも先生に褒められるようになった。
ボクは間違ってるかもしれないけど、とにかく真っ直ぐ生きることにした。
そして、奇跡は起きる。
「好きだ!早乙女……付き合ってくれ。」
高校生になった頃、人間関係も変わりボクの事を好きだと言ってくれる人がいた。
若干複雑な気持ちもあるけど、初めてありのままのボクを好きだと言ってくれたような気がした。
「もちろん、ボクで良ければ。」
初めての彼氏とは1ヶ月でデートをして、2ヶ月目ではお家デートをするまでになった。
「早乙女……いいか。」
「うん、ボクで良ければ。」
彼に服を脱がされ、口…胸などを愛撫されボクは少しハスキーな声で喘ぐ。
そして、彼はボクのスカートと下着を脱がした時に固まってしまった。
「……え?」
彼は、ありのままのボクではなく。
女としてのボクが好きだったのだ。
彼は、服が半裸のまた一目散に逃げていった。
ボクの体には、彼の感触を全身に残っていたまま。
その後も、こんな事ばかりだった。
好きになった男とデートをする時は心が満たされていた。
でも、身体を交えかけた時に魔法が解けたように男は離れていく。
そんな私を…マドンナといわれたり、ビッチだと言われて女の子からは敬遠されていたりした。
ボクは…やっぱり居場所がなかった。
家に帰ると…またママに不思議な薬を投与されては髪を結ってもらえる。
たくさんのかわいい服やブランドを着させられ、ボクはママの着せ替え人形のようだった。
そして、夏に出来た彼氏もボクが男だと知ると激昂する。ボクもいい加減人との距離感を考えるべきだった。
幸い、学校内はまだ少数しかボクの正体を知らないからボクはマドンナとして生きるしか無かった。
そんな時に、直輝くんと出会ったのだ。
☆☆
「……これが、ボクこと早乙女渚というものだよ。やっぱり気持ち悪いかな。」
「渚、そんな事ねえよ。……辛かったよな。」
直輝くんは、ボクの話を聞いて泣いていた。
すすり泣いて悲しそうに聞いてくれていた。
「お前はすごいよ。俺だったらこんな状況…耐えられないよ。それでもさ、お前はまっすぐ自分なりに考えて努力して……めちゃくちゃ考えたよな。」
「え?」
「渚、俺はお前の彼氏にはなれないけど友達になりたい。努力家で、粘り強くて、一緒にいて楽しくて、そんなお前を非難する理由ってあるの?」
「それは…だって、ボク胸もアソコもあるから。」
「違う!そんなの成り行きの結果でしかない!俺は渚自身の心が素敵だって言ってるんだよ!」
「な…直輝くん…。」
ボクは……その場に崩れて泣いてしまった。
初めて、小さな居場所ができるようで。
ボクは彼に抱きしめて久しぶりに少し低く泣いた。
夏をすぎた東京は夜になると、少しビルのすきま風が少し寒くなるのを感じて秋が近づくようだった。
そして、ほんのり直輝くんがより一層暖かく感じた。




