学校のマドンナはおとこの娘 2話
※100日チャレンジ53日目
ザワザワ……
気がつくと登校中の生徒で坂道は溢れかえっていた。
いつもの日常が帰ってきたことを強く実感する。
飯田は少し止まると部室棟の方へと走っていった。
「んじゃあ、直輝!俺ちょっと部活のスケジュールの資料まとめるから、またあとでなー!」
「おー!」
さて、ここまで来ると汗が吹き出す。
相変わらず東京の夏は殺人級だ。
人が住んでいいのか怪しい温度をしている。
一先ず俺はポカリでも飲むため自販へと向かっていった。
そんな時だった。
「ねえ!離してよ!」
「いいや、だめだ。」
「この……わからずや!」
2人の男女が朝っぱらからトラブっていた。
男が少し怒ってるのか威圧的で女の子は少し脅えてる様子だった。
あちゃー、めんどくさい。
これ……介入した方がいいんじゃないか?
「ふざけるな!お前のせいで俺の青春はめちゃくちゃだ!」
「そんな、誤解だよ!」
「うるせえ!」
ああ……いかん、ものすごい修羅場である。
女の子も腕を掴まれて痛そうにしていた。
「おいおい、そこまでにしとけよ。」
言ってしまった。どうにもトラブルには介入せざるを得ない性分らしい。
「あーん!?誰だてめえ!」
「あ、えっと……2年2組の天野直輝っていいます。」
「うるせえ!スっこんでろ!今取り込み中なんだよ!」
「あ、いやでもなんか殴りそうな雰囲気じゃないですか。」
「うるせえ!俺はこいつを許せねえんだ!畜生!」
男は聞く耳持たず激昂していてとても会話が成り立ちそうになかった。
まあ、男女のトラブルなんて何よりだよ。
しかし、女が目をきゅるんとして俺の後ろに回り込んできた。
腕をがっしりと組んでほぼゼロ距離になっていた。
「天野くん!助けに来てくれてありがとう。」
「あ?ああ……後で事情はゆっくり聞くからな。」
とにかく、トラブルを穏便に済まそうと考えていたが男は青筋が出るほどに怒っていった。
「おい……早乙女……貴様なんの真似だ!」
「ボク……天野くんと付き合うことにしたから!」
「なにぃ!?」
「え?え?」
唐突に早乙女さん?がそんなことを言い出す。
男はプルプルと震えてこちらへ駆け寄ってくる。
「貴様もグルだったとは!わからせてやる!」
男は拳を振り下ろす。
ちょっと怖いけど、俺の親友の虎ノ門龍よりは拳が遅かったので手首を掴んで180°拳の方向を変えたら男は体制を崩した。
「な……なにを……いだだだ!」
「あぶねぇって!急に殴りかかってくるなよ!」
「うるせえ!畜生!」
手首を捻られ男は体制を崩して攻撃はしてこなかった。
どうやら相手も怒って威圧的になってるだけで強くは無いらしい。
俺は哀れだと思って関節技を解くと男は覚えてろよ!って逃げてしまった。
なんと、絵に描いたような小悪党ぶりだろう。
名前も知らない彼はもう背中も見えなくなっていった。
「ありがとう!天野くん。」
早乙女さんは俺の手を掴んでマジマジと顔を見ると。
彼女は背が150cm後半くらいで少し小柄だ。
手と足が細く全体的に華奢な雰囲気がする。
セミロングの髪型はハーフアップにあげられていて、上品なお嬢様のようだった。
「どういたしまして……えっと……名前なんだっけ?」
「ああ、そうだったね。ボク……早乙女渚っていうの!よろしくね!」
しかし、どこか違和感を感じる。
あまりに華奢なのもあるが全体的に細すぎる。
しかも、一人称がボク?あー、今流行りの僕っ子だな。
「2年2組の天野直輝です。つーか、なんでトラブってたんだよ。」
「いや〜ね……あはは、彼はしつこくボクに言い寄ってくるんだよね。だから少し付き合って上げたんだけど、やっぱり合わなくて別れようっていったら怒っちゃった。」
「お陰で濡れ衣を着せられて殴りかかってきたんだけど。」
すると彼女は両手をパシン合わせてごめんと謝罪する。
「今度お礼をさせてもらうよ。助かったよ、天野くん。」
「あいよ、んじゃあ予鈴も流れたし……またなんかあったら言えよ〜。」
あまり深く関わらないようにと俺はその場を立ち去ろうとすると彼女は俺の手首を掴んだ。
まだ、何かありそうだった。
「あん?どうした?」
「あの……天野くん……良かったらボクとライン交換しない?その……助けてくれた時かっこよかったし。……また、話したいし。」
彼女の長いまつ毛と透き通るような肌、そして守って欲しいと言わんばかりのきゅるんとした目に深くにも心臓が心拍数を上げてしまう。
いかんいかん、こんなところ舞衣に見られたら殺されてしまう。
「わ、わかった、ラインはしてやる!でも無闇矢鱈に絡んでくるなよ!」
「きゃー!ありがとう!」
俺は諦めてスマホを取りだし、彼女と連絡先を交換する。
いかん、明らかに初っ端から選択肢ミスってる気がする。
俺たちはその後解散をして、朝礼前に暑さと疲れでくたびれていた。
しばらくすると、飯田が俺の前に座っていった。
「どうした?直輝弱ってないか?」
「……朝からトラブルに巻き込まれた。」
「なるほど、朝からカオスだな。」
俺はため息をついて、先程の出来事を話してみる。
まあ、舞衣だと浮気と起こりそうならこいつならまだ大丈夫だろう。
「そのトラブってたのが、早乙女渚っていう子だったんだけど。」
すると、飯田はダン!と席を立ち上がった。
え、なに!?どうしたのこわい。
「直輝……遥香さんや舞衣だけじゃ飽き足らず……学校一の美少女である早乙女渚にまで手を出したのか〜?」
あ、いかん……どうやら地雷だったらしい。
「違う違う!何もしてない!別の男とトラブってて巻き込まれたんだよ!つーか、母ちゃんも恋人にカウントするのやめろ。」
「お前は……なんでこう美人にばかり囲まれるんだよ。ラブコメの主人公かよ!」
どうやら飯田も色々あるらしい。
まあ、こいつは陽キャの仮面を被ったムッツリすけべだからな。
「まあ、きにすんな。トラブるのは怖いからあんまり関わらないようにしてるから。」
「そうか、それならいいんだ。」
すると、本鈴がなり引き戸が開く音がする。
諏訪先生が夏で日焼けしたのかいつもよりも浅黒くなって教室に入ってきた。
「みんな、おはよう。二学期もよろしくな!」
「「「はーい。」」」
情熱的な先生に対して俺たちは基本的に冷めていた。
これがタイパ優先の令和キッズのスタンスなのかもしれない。
「ちなみに、みんなに報告がある。突然だけどこのクラスに転校生が入ることになった。隣の女子校の生徒だと。」
すると、少しだけ男子生徒がおお!と反応を見せる。
どうやら女と言うだけで少しテンションが上がるらしい。
俺は平静を装っていた。
え、なんでかって?女子校の生徒って言った瞬間に舞衣が俺を1点に見つめてるからだよ。
あー、こわいこわい。
「それじゃあ、転校生を紹介する!ほら、入っておいで。」
その女の子は140cm台の小柄で……先日美容院に行ったのか大人びたセミショートをしていた。
というか、ものすごく見た事ある女の子だった。
「あ……あの!上原瑞希っていいます!」
そう、その転校生は……俺が夏期講習で一緒に勉強をした上原瑞希……俺と同じAV女優の母親を持つ女の子がなぜか転校してきたのだ。
俺は……余りのカオスさに暑さとは違う別の冷たい汗をかいていた。




