僕とヤンデレ彼女と諏訪湖花火 7話
※100日チャレンジ43日目
ガタンゴトン……
都会の喧騒が無くなると特急あずさのレールと列車の音が等間隔で聞こえてくる。
それに対して眠気さえ感じている。
ふぁ……。
いかん、あくびまで出てきた。
クソ眠い。
今はこの列車に乗ってから1時間、山梨県にいる。
到着まであと1時間ほどなのだが、案外退屈なものだ。
舞衣はイヤホンをして一生懸命スマホを見ている。
何を見てるんだろうか?
「舞衣、何見てるの?」
「ん、TikTokだよ。」
「ほえー、TikTokか……俺インストールしてすらないな。使いこなせなくて。」
「え、直輝くんまだ10代よね。」
普段ドン引きする側の俺がドン引きされている。
いやいや、天下のYouTubeショートさんという者がいてですね?
同じようなものなら人気が高いものでいいと思うんですよ。
「てか、TikTokってどんなのがあるの?」
「んー、えっほえっほ……伝えなきゃ。」
「あ、それ知ってる。」
「……ルビィちゃん!はぁーい!何が好きー?」
「待って、めっちゃ知ってる!」
なんということだ、ここ最近のネットミームが一通り網羅されてるではないか。
というか、自分が好きで多用しているネタも多い。
「つまりね、直輝くんが好きなものが流行るきっかけになってるのがTikTokなのよ。多分見てるものもそう変わらないわ。あ、もしあれならカップル動画出してみる?フォロワー数万人いるけど。」
「いや、それは舞衣のファンに殺されないかな。」
「大丈夫よ!直輝くん以外は人間のオスとしか見てないから!……でもTikTokライブでそう言うとコメント欄が喜ぶのよ、不思議よね。」
いかん、舞衣の塩対応に喜んでる紳士が大量にいるみたいだ。
そう考えると俺の彼女って近くて遠い存在に見えてきた。
でもダメだ、俺も一応彼氏なんだから少しは合わせていかないとまた悲しませることになる。
「ねえ、俺もやり方教えてくれてもいいかな?」
「え!もちろん。」
舞衣はアカウントの作り方や見方、その他もろもろを丁寧に教えてくれた。
もちろん見方だけでなく作り方も教えてくれたのだ。
いや、動画は出さないけどな。
しかし、慣れないことをすると脳みそって大きく抵抗感を覚えるから難しい。
一通りの設定が終わる頃には山梨の西側に到着していた。
「こうして見るとあれみたいね。」
「ん?」
「直輝くんが私の庇護下出ないと生きられないみたいで母性愛のような感じがしてドキドキするわ。」
「そ……そうか。まあ、喜んでくれて何よりだよ。」
たまに彼女が何言ってるのか分からない。
そういう時は無理に考えないようにしている。
「逆に直輝くんはなにしてたの?」
「ん?ああ、ソシャゲだよ。夏だとイベントが多くてね。」
「へー!あ、ガチャが引きたくなったら言ってね!私のお金を使ってくれていいから!」
「やめなさい、俺がクズみたいでしょうが。」
「私、直輝くんの為なら手を汚しても大丈夫だから気にしないで沢山使っていいのよ!」
「舞衣……クズ男製造機っていつか呼ばれそうだよ。」
なんてこと言うんだ、この10代は。
まるでホストの彼女が貢ぐために風俗で働くみたいな覚悟してやがる。
人生2回目?2回目なのこの子?
こういう覚悟が決まりきってるスタイルは母ちゃんと通ずるところがあるんだよな。
そんなこんなで話してると、遂に上諏訪駅に着くことになった。
駅を降りて少し西側に歩くと、目を疑うような絶景だった。
辺り一面の湖、それらを山々が囲う様子はまるでゲームのオープンワールドのようだった。
湖にほんのりと街並みが入り交じる様子が観光地だということをより一層強めてくれている。
俺たちは上諏訪駅の近くのホテルに進んで行く。
こちらは三ツ星ホテルらしくて、入口には松の木が植えてあり歴史を感じさせた。
そして、入館してフロントに行く。
「いらっしゃいませ。ご予約ですか?」
「はい!予約した佐倉です!」
「佐倉様、お待ちしておりました。ツインルームですね、こちらは禁煙になりますのでご了承ください。」
「はーい!気をつけます!」
いや、どちらも未成年です。
まあそんなツッコミはさておき、諏訪湖は既に人々で賑わっている。
客層は東京圏の人も多いようだった。
まだ昼間だと言うのに既にビニールシートをしいて暑そうにしている人もいる。
「さて……まだ13時か、腹減らないか?」
「うん!お腹空いた。」
「なんか食べたいのある?」
「直輝くんが好きなものなら何でも。」
舞衣はこうして自分の押しつけをしない。
ちょっと過激じゃなければいい子なのだが、そこが心配になる。
少しは喜んでくれそうなところを探してみるか。
検索してみると、ちょうど近くに人気の商業施設があり、その中にレストランがあった。
「ねえ、こことかどうかな?湖の景観が綺麗だって評判らしいよ。」
「うん、いいわね!私もお腹すいたわ〜。」
舞衣が空腹アピールで肩を寄せる。
俺も空腹で体がどうにかなりそうだった。
俺たちは湖沿いを進んでいく。
ウォーキングロードになってるのか整備された道のりは今にも走りたくなるような爽快感があった。
未知の街並みで、俺たちは前へ前へと進んでいく。
夏の暑さは厳しさを増しながら、俺たちを日差しで照りつけていた。




