僕とヤンデレ彼女と諏訪湖花火 6話
※100日チャレンジ42日目
ミンミンミンミン……
2日後、
夏の朝8時にここ東京に鳴り響くはミンミンゼミである。
セミの代表格のような力強く鳴くこのセミは夏のピークに鳴くことが多く、暑さも相まって季節を感じさせるが俺は鬱陶しささえ感じていた。
俺たちは今日、諏訪湖花火に行く。
毎年見るとしたら隅田川辺りが良いのだが、いつもと違う感覚に少し胸踊るような感覚もあった。
「本当に二人で大丈夫?」
「はい、直輝くんはお任せ下さい。ご飯やお召し物、全て面倒見ますから。」
いや、俺は預けられるペットかい!
そこまで見なくてもいいよ。
「そう?舞衣ちゃんが言うなら大丈夫だと思うけど。」
「いや母ちゃん、俺はまだ何も言ってないよ?ボケてるの?二人でボケてるの?」
「じゃあ、気をつけて行ってらっしゃい!直輝〜?孫が偶然産まれちゃっても大丈夫だからね?」
「ちきしょー!ここツッコミ不在じゃねえか!」
まるでここに俺がいないみたいなやり取りで、花火大会への旅がスタートした。
「にしても暑いな〜、もう汗だくだよ。」
「そう?」
とはいえ、舞衣も地味に暑そうな服をしている。
日傘と……Ank Rougeという若い女性向けのブランドのピンク色の服と黒いスカートのゴシックファッションを着こなし、暑いのに不気味にメイクは崩れる様子がなかった。
最近の新宿だとよく見る服装だけど、舞衣にはものすごくにあっていた。
そんな事を思ってると、舞衣は俺の手を握り出す。
瞬間、夏の暑さも相まってか心拍数が上がる。
「え、ちょ……。」
「どう?今日の私!」
「ま……まあまあかな。」
突然彼女の握力が強まる。
パワー系の舞衣の握力で俺の手は握り潰しそうだった。
「いだだだだ!可愛い!可愛いです!はい!」
「……どれくらい可愛い?」
「そうですね!神にこんなに可愛い彼女が居ることを感謝したいくらいですよ!あー!最高だなー!」
彼女と手を繋ぐというのはこんなにも心拍数が上がるんだな。
不思議と冷や汗もかくくらいだけど。
「……ありがと!今日はOKの日だから嬉しい。」
「なにが!?」
最近の女の子って進んでるな。
俺には少し意図が読めなかったけど、まだ読む必要は無いんじゃないかなと思った。
☆☆
夏の新宿駅は人々が所狭しとホームにぎっしりと立っている。
周りの炎天下と人々の体温で頭がどうにかなりそうだった。
えーっと、まずは9番ホームだったな。
「今回はどんなルートで行くの?」
「ああ、新宿から特急あずさで一気に行く。八王子、山梨でそっから上諏訪駅に降りるルートだな。」
「さっすが直輝くん!」
「そ……それほどでも。」
今回もルートのプランニングは俺がやる。
なんか最近旅行が得意になった気がする。
席は花火大会に行くのが決まった時点で指定席を取っておいた。
意外と自由席だと座れないことが多いらしいからな。
少しお金はかかるけど、旅は快適性が大事だ。
電車に座ると、全身をクーラーで少し冷えた車内が身体を癒してくれる。
暑いと身体が無意識に緊張感を覚え、汗を出していたので突然快適なところに行くとゆっくりと落ち着くものだ。
舞衣もポンポンと化粧を落とさないように気を配りながら汗を拭いていた。
「あ、直輝くん!このタオルつかって!汗拭いて快適になるわよ!」
「ああ、すまない。」
俺はタオルを受けとり、汗を拭っておく。
汗を吹くと更にジメッとした感覚がなくなってクーラーの冷風がより快適に感じた。
やっぱり昔からあるやり方って効果があるから続いてるんだな。
タオルをしまおうとすると舞衣が俺のタオルを掴んだ。
「ん?」
「タオル貰うわね!」
「いや、いいよ。汚いしなんか申し訳ない。洗って返すよ。」
「ううん!気にしないで!使……洗っておくから。」
……今使うって言いかけた?
まあいいや、最近の彼女というのはこうやってタオルを差し出しては閉まってくれるものなのか。
なんというか、健気というか献身的な感じもするけど。
「じゃあ、これしまっとくね!」
「ん?真空パックに入れるんだ。」
「あ、うん!!ほ……ほら、カバンとか汚れちゃうかもだし。」
「それならもらっ……。」
「大丈夫!もうこれ私のだから!」
すごい食い気味、というか所有?
少し理解に苦しんだけど、まあいいかと頭から働かすことにした。
……妙に悪寒がするのは気のせいかもしれないけど。
そんなことやり取りをしてたら、列車の扉が閉まり出す。
お、いよいよか……。
実は特急に乗るのが初めてだからどれくらい早いか気になっていたところである。
「舞衣は電車で旅行は初めて?」
「うん、初めてかも!なんだかんだ誰かと出かけるの直輝くんぐらいよ。」
「そっか……俺もだよ。お!もう四ツ谷過ぎちゃったか。」
「楽しみね〜、花火とか出店とか辺り一面の湖とか……何から何まで全部楽しみ!」
「そうだな!今回宿も取ったわけだし、祭りとかでチョコバナナとかあるといいな。」
「直輝くんも可愛いとこあるわね!」
「じゃあ、舞衣は何が食べたいのよ。」
「……りんご飴?」
「いや、舞衣もチョイス可愛いな。」
「……もっと言って。」
「チョイス可愛い……?」
電車の中なのに俺たちは新婚夫婦のようなやり取りをする。
普段俺はドライに話す分少し恥ずかしい。
公衆の面前くらいはもう少しドライに行きたいのだが、舞衣が夏休みほとんど接していないので欲求が抑えられないようで行動がヒートアップしていた。
そして、電車はもう少しで八王子と東京圏を抜けようとしていた。
景色は灰色のコンクリートジャングルから少しずつ山並みに近づき、木々がお生い茂る緑へと変わっていく。
少しずつ非日常が近づく感覚にも慣れてきたのだが、やはりいつ感じてもこの気持ちは心を躍らせていた。
列車は西へ西へと進んでいく。
夏の日差し、緑が増していく道並み、クーラーに冷やされながら俺たちはまた未知の世界へ行く。




