俺の後輩は死にたがり 12話
※100日チャレンジ33日目
「マジかよ。」
飯田駅に着いて俺たちは驚いた。
なんでかというと、田舎の電車は1時間に1本通るかどうかで、次の発車が1時間半後だったのだ。
「完全に計算外でしたね、先輩。」
「そうだな……もっと慎重に下調べしとけばよかったぜ。」
これから1時間以上待たなきゃ行けないのにどこか御坂は足取りが軽く楽しそうだった。
フェイスカバーから少し出た絹糸のような髪をクルクルといじっている。
「お前はなんか余裕そうだな。」
「はい!先輩と一緒ですからね!1時間もあるのならお昼ご飯でも食べましょうよ!」
「お……おう。」
阿智村の一件から俺たちの距離は確実に縮まっていた。
俺も御坂のおおらかな正確にのまれそうだったけど、案外それも悪くないと安心さえしていたのだ。
御坂は白いスマホを触って辺りのスポットを検索してくれている。
「お!先輩…みてください!近くに古民家カフェがありますよ。」
「いや、検索スキル高いな。」
ものの数秒で目的地は決まっていった。
古民家カフェなんていったことないけど、田舎独特の文化の一つだと思う。
駅から少し街並みを歩くとそこに古民家カフェがあった。
ドアもレトロに引き戸ときたもんだ。
「いらっしゃいませ!」
店を入ると、カウンターのようなところにメニューがあって若い男性の店員さんが立っていた。
「2人なんですけど……。」
「かしこまりました!そしたら席をお決めになってからご注文ください。」
どうやら、テーブルに案内してからメニューを出すスタイルとは違うらしい。
こういう独特なルールもローカルっぽくて少し心が踊るようで楽しい。
俺たちは窓が見える席に荷物を置いてから注文をしに行く。
「んじゃあ、カレープレートで。」
「はい。」
「私は……クリームパスタとパフェでお願いします!」
「パフェは食後に致しますか?」
「はい!」
御坂はパフェを食べるみたいだ。
どんなものかポップを見てみるとビールのジョッキくらいのでかいパフェだった。
「すげー食うな、御坂。」
「えへへ、甘いものは別腹ですよ!」
「よく聞くけどエビデンスあるのか?それ。」
「ちっちっち……先輩わかってないな〜。こういうのは気持ちですよ気持ち!」
御坂は涼しい顔をしているがカロリー表記を見ると2000kcal程あるので明らかに気持ちでどうにかなりそうになかった。
しばらくすると渡されたブザーがなったので料理を取りに行く。
俺の出されたカレーは五穀の米を使っていて、カレーは牛すじの目立つものになっている。
さらに米の上にはサラダが乗っていていかにもカフェプレートと言わんばかりの盛りつけだった。
味は……うん。
しっかりと煮込まれていてスパイシーで悪くない。
御坂もパスタを食べては美味しそうに頬に手を当てていた。
「いやー!美味しいですね!先輩。」
「おう、そうだな。」
「先輩……カレー美味しいですか?」
「まあまあだな。」
「えー!」
御坂は楽しそうにこちらを見ると妙に顔を寄せてきた。
ち……ちかい。こいつマナーをご存じでない!?
「……先輩、カレーひと口食べてもいいですか?」
「食ってもいいぞ、じゃあ店員さんにスプーンお願いし」
すると、パシンと御坂は大きな手で俺の手首を掴んでいた。表情を見ると妙に緊張している。
「あ……アーンして欲しいな〜。」
「恥ずかしいなら無理に言わなくていいぞ。」
「恥ずかしくなんかありません!純粋にカレーが食べたいのです。」
「じゃあ自分で食いな。」
「あーん!先輩のいじわる!」
別にやってもいいのだけれど、結構周りとかにお客さんがいたので俺も恥ずかしかった。
しかし、俺たちは名目上付き合っているので御坂はそういったことにも憧れてるようだった。
「……わかったよ。ほら……アーンしろ。」
「えへへ、先輩は優しいな〜。」
「うっさい。ほら……アーン。」
「アーン!」
俺は少し手を震わせて御坂の口にカレーを運ぶ。
御坂は口を閉じると美味しそうに「んーっ!」と唸っていた。
周りの主婦もその様子を見てあらあらと呟いてこっちを見ていた。
「ありがとうございます!じゃあ次は……パスタですね!先輩、アーンして。」
「しゃあないな……アーン。」
俺はクリームパスタを口に運ぶ。
パスタからはほんのりとキノコを炒めた香りと、ほんのりとトリュフの香りも感じてクリームの濃厚さと相まって美味しいと感じた。
まさにこのやり取りは新婚夫婦みたいで恥ずかしいのだけれどね。
「お前もそういうの好きだよな〜。」
「えー、だって人生で1度はやってみたくないですか?」
「思わんな、そういうものなのか?」
「そういうものですよ!先輩はもっと女の子の研究もしてくださいよ!わたしも先輩の研究をしますから。」
「わかった、善処するよ。」
「よろしい、私も先輩の研究をします!ちなみにSかMだとどっちで……。」
「おーい、白昼堂々と何言ってるんだ。そういう研究は後にしてくれ。」
「…………後でならいいんですか?」
「ごめん、俺が悪かったからその話題一旦やめよ?」
御坂は割と平気で下ネタを言うんだけど、たまに人前でも平気で言ってしまうので少しげんなりとしてしまう。
俺も御坂と出会う前は気ままに生きていたのだが気がついたらツッコミが板についてしまったみたいだ。
しばらくすると、テーブルに巨大なパフェが運ばれる。
みると桃などのフルーツもたんまりと使っていて見るだけで胃が持たれそうだった。
「先輩!みてください。めっちゃ可愛いパフェですよ!」
「いやでけえよ!パスタ食ったあとなのに食えるの!?」
「えへへ、先輩……見ていてくださいよ。女子高生は最強なんですから。」
……5分後。
「おい、御坂?」
「……。」
「手が止まってるぞ。」
「……。」
御坂は3分の1くらいを食べてから沈黙してしまった。
ふだんからカロリーを使わないから胃が思ってたより小さかったらしい。
心なしか少し涙目でこちらを見ていた。
「だーっ!もういい、俺が食うからよこせ!」
「……すみません。」
俺は満腹の腹に喝を入れて一気に口に運ぶ。
こういうものは最初水分からではなく油分とかから攻めるのがいい。
パフェのホイップは水と油だから味や満腹感は低めになりやすい。
なので最初はそこを責めてみた。
後はコーンフレーク、ブラウニーと少しずつ攻略していってなんとか食べ終わりそうだったのだが……。
最後の桃だけが口を通る気がしなかった。
まずい、俺も限界だ……。
しかし、そんな俺を御坂が代わりにスプーンに乗せて俺の口に運んでくれた。
「えへへ、あーんです。」
巨大パフェ……見事完食。
俺ははちきれんばかりの腹と今にもクリームがリバースしそうなくらいグロッキーになっていた。
「先輩、すみませんでした。」
「あ……ああ。いいんだ。」
多分御坂は自分の限界を知らなかっただけで好奇心で挑戦しただけなのだ。
1つ己を知るきっかけになったのならそれでいい。
「案外、女子高生は最強じゃないんですね。」
「世の中そんなもんだ。」
「でも、気合いで食べきってしまう先輩は最強でしたね!さっすが不良!」
御坂はバンバンと背中を叩く。
「御坂!やめてくれ、それリバースを促す動きなんだから!」
「あ、すみません……。」
お互いに少し沈黙がある中、ミンミンゼミの音だけがギターソロのごとく独り歩きして太陽の日差しがより暑く感じた。
そして、しばらく歩いて飯田駅に着くと岡谷行きの列車が停まっていた。
「さて、先輩……行きますか!残りの旅も頼りにしてますよ。」
「……出来れば次はフードファイターは無しで頼むな。」
「……善処します。」
「ちゃんと目を見て言ってくれ。」
汽笛を鳴らし、たった2両しかない列車が田園風景を駆け抜ける。
ガタンゴトン……と一定のリズムを刻みながら真っ直ぐ北上をしていた。
俺は食後に眠気が襲い、クーラーの快適さも相まって……ゆっくり、ゆっくりと瞼が閉じていくのを感じた。
隣で御坂が俺と手を重ね、ほんのちょっぴり温かさを感じながら俺は電車に身を委ねていった。




