俺の後輩は死にたがり 9話
※100日チャレンジ30日目
頂上に着くと、より景色が透き通って見える。
おそらく雲や空気などの見えないフィルターが少なくなるからだろう。
宇宙に近い景色は普段見えない星空まで見せてくれて、星とはこんなにも目を見張るものだと感じる。
「ねえ、先輩は光年って知ってますか?」
「いや、知ってるも何も小中学生で習う範囲だぞ。」
「私も知ってるけど、こうして見ると不思議ですね。」
「ああ、でもあの星たちはもう俺たちが生まれる何万年も前の光を見てることになる。」
「そこが不思議なんです。こうして何万年越しに過去の世界を見てるのだと、つまり……もしかしたら今は見えない星だってあるってことですか?」
「ああ、星だって生きてるんだ。産まれてくることもあれば死ぬことだってある。」
「そんな…。」
御坂は少し寂しそうな顔をしていた。
確かに終わりがあるというのはとても切ない。
星の輝きは綺麗だ。
だからこそ、星座なんてつくってしまうくらいには昔の人には美しく見え、意味をつけたくなったのだろう。
「あ〜でも、こういう考えもある。」
「考え…ですか?」
「星はな…爆発したあとはチリとなり、ガスになる。」
「地獄絵図じゃないですか。」
「まあ聞けって、その後はな…いくつも星がぶつかり合ってまた星が産まれてくるんだ。何度でもやり直せる、ぶつかると星は1時手的に壊れちまうけど、そうやって星は大きくなっていくんだぞ。」
「つまり…。」
「そう、世界はまた一巡するんだよ。またプランクトンみたいな生命ができて、またこの世界みたいなものは出来ちまう。実際、スーパーアースなんていうこの星に似た星もいくつも見つかってるんだってよ。だから無駄なことなんてひとつも無い。たとえ生きるのも死ぬのもな。」
「そっか……!なんか嬉しいです。」
あまりにもスケールのでかい話をしているので半分自分でも何言ってるか分からなかったけど、星空に照らされた御坂はまた一段と明るく輝いていた。
「星が…届きそう。でも遠い…だからこそ素敵です。」
月明かりに照らされながら天に手を伸ばし、空を仰ぐ御坂の姿は本当に天女のようだった。
そんな様子をパシャリのスマホのカメラに収める。
シャッター音に気がつくと御坂はにひひ、と微笑んでいた。
「ママー!天女がいる!」
すると、突然人の声が聞こえる。
どうやらこんな山を登る人間は俺たち以外にもいたようだ。
どうやら、娘と父親…そして母親がいる。
華族で夏休みに星を見に来たのだろう。
まるで絵に書いたような幸せだ。
ほんの少し…羨ましくさえ感じていた。
「しーっ!やめなさい。」
御坂を指さす少女は不思議なものと綺麗なものを見るような目が共存したような表情をしている。
きっと、まだアルビノの概念さえも知らないのだろう。
しかし、御坂は少女にしゃがんで笑顔で話しかける。
「こんばんは、天女です!」
そう、あまりにもフラットに接していた。
外で話す2番目の人間…それは名前も知らない少女だった。
「背が高くて…肌も髪も真っ白……天女さんほんと綺麗…!日本人なの?」
「うん、ちゃんと日本人だよ。」
「すごい…モデルさんみたい。私も天女さんみたいな美人さんになりたい!」
俺と御坂にとってその言葉は衝撃の一言だった。
そう、初めて俺以外の御坂の見る目が異形をみる差別ではなく美貌への羨望であり、彼女の容姿が美しいものだという何よりの証明になったのだった。
「あはは…私みたいは結構難しいかもだけど、お嬢ちゃんもきっとこの星のように綺麗になれるよ!だからお嬢ちゃんなりの光を探しなさい、天女さんからの宿題です。」
「うん、ありがとう!天女さん。」
俺たちは少女と別れてゆっくりと下山をする。
時刻はもう21時を回っていて、少し疲れと眠気が襲ってきた。
「…。」
少女と別れてから御坂はずっと黙っている。
嬉しい気持ちもあるのだけれど、初めて自分の容姿を他者に褒められたことにより恥ずかしい気持ちもあったのかもしれない。
「どうされましたか?天女様?」
「…先輩、怒りますよ。」
「す…すまんすまん。」
ゆっくりと歩幅を合わせる。
俺たちはそこそこ体力がある方なのでそこまでペースは落ちる様子はなかったが、やはり山道はアスファルト慣れした俺達には過酷な道だった。
「……初めて、見ず知らずの女の子に綺麗って言われました。」
「そりゃそうだろ、事実なんだから。鏡見ろ鏡。」
「いや、それは勘違いブスへの対応ですよ。」
「まあでも、それだけお前の容姿は美しいんだよ。写真…結構とったけどどれもムカつくくらい綺麗だ。」
エアドロップで御坂のスマホに送り付ける。
すると、御坂はスマホを触って何かをしだした。
「どうした?加工でもしてるのか?」
「まずは、写真を発信します。」
「おいおい、大胆だな。」
「やるって決めましたもん。あとは見切り発車です!」
すると、御坂は機嫌がいいうちに様々なSNSて自分の写真を世界に発信した。
どうやら嬉しい気持ちは人を前へ前へと進めてしまうらしい。
下山した俺たちはゆっくりと1400mのセンターハウスまで辿り着く。
「ふーっ!あとは…帰るだけだ。」
「先輩、これからもたくさんの景色……一緒に見に行きませんか?」
すると、珍しく御坂からの提案だった。
まったく、それを言うのは男のセリフだろうが。
「何言ってんだ、俺の役目はお前を死なさないようにする事だからな。これ終わったらまた次行くぞ。
あと、出来ればお前夏休みが終わったらたまには学校来いよ。」
「え?」
「今日歩いてわかったんだけど、アルビノだけどそこそこ肌強いぞ?対策さえすればお前はどこへでも行けることが証明されちまったんだ。吸血鬼じゃなくてただの人間なんだよ。」
「……そっか、無意識に太陽怖がってたけどちゃんと気をつければ大丈夫だったんですね。」
「それで、毎日俺に絡みに来い!そしたらまた次の景色に連れてってやっからよ!」
すると、御坂はクスリと笑い。
少し目線の低い俺に顔を合わせてきた。
「もちろんです、私から逃げないでくださいよ。先輩!」
俺たちはゆっくりと下っていく。
星空が少しづつ遠のいてくるけど、寂しくはない。
美しい景色はずっと見るのではなく、少しだけ見るから感動をする食後のデザートのようなものなのだから。
俺たちは夜空をロープウェイで散歩をする。
非日常が少しずつ見慣れた景色になっていく。
俺も御坂も…少しだけ眠気を感じていた、
夜の散歩はこれにて終わりを迎える。




