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僕のお母さんは△▽女優  作者: kyonkyon
第10章 俺の後輩は死にたがり
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俺の後輩は死にたがり 7話

※100日チャレンジ28日目

私は御坂千秋。

産まれた時からアルビノという身体的特徴を患った不登校の女子高生。


今は偶然自殺しようとしてる時に出会った不良の先輩と旅館に行って個室の温泉に入っているところだった。


お湯が流れる音が一定のリズムを刻んでいて心地が良い。少しぬるりとするアルカリ性の温泉が私の疲れごと溶かしていくようだった。

私は普段家から20歩も歩かないから今日ほど歩いた日は無かった。

あれだけ毛嫌いしていた外の世界もこうしていると心地がいい。


心做しか涼しい風が温泉でのぼせた頭を少し冷やしてくれて、いくらでも入りそうだった。


……知らない世界、目を見るものが全て新鮮だ。

アルビノのせいで景色は若干ぼやけているのだけれど、それでも緑が生い茂っていて、山があり川もあり自然と調和した風景なのが読み取れる。


「御坂ー、どうだ?きもちいいか?」


すると、先輩の声が聞こえてくる。

若干ハスキーさもありながら、柔らかい声をしている。


「なんですか〜?先輩、まだ身体を見せるには早いですよ!」

「うるっせえ!…………着替え用意しないでそのまま入ったろ、近くに置いておくな。」


ああ、そういえば着替えは全部入口に置いてきたので危うく先輩の前に全裸かバスタオル巻いた状態で部屋を歩くところだった。


「すみません、不注意でした。ありがとうございます。」

「おう。」

「あ、すみません。私自分の部屋にいる時は普段は服着ないんですけど、今日は服着た方がいいですか?」

「いや、いつも着てろよ!?宅配便とか来た時大変でしょうが。」

「あはは、冗談です。」

「なんだ、冗談か。」

「……はい、8割ほど。」

「残りの2割なんだよ!?」

「きゃー!先輩、私に興味津々〜!」


正直このやり取りはとても楽しい。

漫画とかみてやってみたかったやり取りなので、現実で通用するか分からないけど先輩は乗ってくれている。


少し、暗くなってきた。

私の肌が月明かりに照らされて、白く輝くので私自身も月のように見える。


日本一夜景が綺麗と聞いたけど……麓はそこまでみたいだ。

やはり、ヘブンス園原というところに行かないと夜景は見えないらしい。


私は体も火照った体がリラックスしてきたので温泉を出る。

シャワーとは比べ物にならないくらいの爽快感があった。


体の疲れごと抜けて新鮮な空気が体に入っていくような……そんな感覚だ。

それだけでも生きてることを強く実感させられる。


着替えてリビングに戻ると先輩がノートに問題を書いて解いていた。

怒りも悲しみも感じず、ただ没頭しているのを感じる。


「せんぱーい、出ましたよ。」

「……。(カキカキ)」


んー、私の声にも反応しないくらい集中している。

普段荒々しい言動とは打って変わって先輩のストイックさの本質が見えてくる。


そりゃあ16時間も勉強できるわな。

私もやりたい事見つけた方がいいのかな……。


でも、その前にちょっとやりたいことがある。

私は恐る恐る先輩の背後にたち、先輩の顔に近づいて耳元にふぅっと息をふきかけた。


「ぎゃああああ!?おま……ちょ、ふざ。」

「あはははは……せ、先輩……ぎゃああああ!だって!ぷ……ぷふっ!あはは!」

「び……びっくりした。」

「先輩……もしかして、耳弱い?可愛いところあるんですね。」


まだ数日しか経ってないのに、こんな事をしても先輩は許してくれると確信している。

いわゆる、愛情の裏返しだった。

こうしてる時がいちばん楽しい。


「……ったく、出てきたなら早く言ってくれよな。」

「いや、先輩810回くらい声掛けましたよ。」

「嘘つけ!……まあでも久々に勉強に没頭できたな。」

「なんで旅行なのに勉強捗るんですかね?」

「んー、知らないところに行くと新鮮な気持ちになるからかな。」

「あ、確かに!私も普段とは違うところにいるから先輩にセクハラしちゃいました!」

「ぶっ飛ばすぞ。」


とはいえ、本当に旅行は心身ともにいい影響をもたらすみたいだった。

先輩、最初にあった頃は本当に弱々しかったから少し嬉しい気持ちもある。


「ねえ、先輩は医者って夢があって羨ましいです。」

「あ?なんだよ急に。セクハラしたくなったり、夢を羨ましがったり忙しいヤツだな。」

「なんで、16時間も勉強できるんですか?私は夢がないから何かに没頭するって分からないんですよね。」

「……御坂は普段何してるんだ?」


「んー、本を読むかYouTubeで猫の動画見てるくらいですね。あ、でもたまにデカイカニがカブトムシを捕食する動画とか見てますよ!」

「最後以外はまともなものが好きそうで何よりだ。」

「んー、私……何ができるのかな?死ぬことしか考えてなかったから、何ができるか分かりません。」


そう考えてると、先輩が私のに向かってスマホのカメラを向けて、パシャリとシャッター音を掛けた。


「きゃあ!?先輩何するんですか?」

「なにするって……強みあんじゃん、アルビノ。」

「……は?」

「御坂、自分では気づいてないけどめちゃくちゃ美しいぜ。」

「え……うつく……!?」

「ああ、汚れなき純白の肌に頭髪……今日の日本一の夜景と混ざったら奇跡の一枚が、取れちゃうんじゃないか?」


先輩はいつもサラッと私のことを美しいだのキレイだの言ってしまう。

私はその言葉を聞くと全身がムズムズして体が火照るようだった。


私は人生で褒められたことがない。

それに、いつも褒められるのは妹で私には何も言葉がなかったのだ。

だから私を真っ直ぐみて褒められるのにはとても弱かったりする。


「ほれ、これをこうして……と。」


先輩はちゃちゃっと編集をして私の写真を見せる。

そういえば鏡でも私のことをちゃんと見てないのだけれど、確かに新雪のような絹糸のような純白の自分には絵画のような美しさが見えなくもなかった。


「な?」


先輩はみなまで言わなかったけど私にだってちゃんと武器や長所があるんだよと伝えてくれた。

それを聞いて私は決心をした。


「先輩、良かったら私をもっと撮ってくれませんか?」

「なんか見えたか?」

「私、世間にアルビノをさらけ出そうと思います。」

「そりゃまたセンシティブなことを。」

「それで……少し前に出てみようと思います。どうせ死ぬなら、惨めでももがいてみることにしました。撮った写真SNSで発信しようと思います。」


すると、先輩は静かに立ち上がり荷物をまとめだした。

そろそろ……ナイトツアーまで1時間を切っていた。


「そんじゃあ、探しに行くか!日本一の夜景で……月明かりの美女をよ!」


先輩はいつもの悪ガキのように含みのある笑顔を見せて私の手を静かに引いた。

まるで、夜の舞台へエスコートされるように。


夜への舞踏会に望む私は、あたかもシンデレラのようだった。景色は静まり返り、蝉の声に紛れてタクシーは車を走らせる。


さあ、何が待っているのだろう。


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