俺の後輩は死にたがり 5話
※100日チャレンジ26日目
お昼が過ぎたあたりだろうか。
俺たちは東京駅に待ち合わせをしていた。
今日、俺たちは夜空を見に行く。
そのためにまずは新幹線で名古屋まで行かなきゃ行けないのだが……。
「あいつ大丈夫か?日光なんて浴びちゃダメだろうし。」
アイツはアルビノ、日光を浴びたらたちまち火傷をおってしまう。
医学部希望としてもかなり心配だった。
すると後ろならトントン、と肩を叩かれた。
後ろを振り向くと……黒いパーカーにフェイスカバーとサングラスを付けた身長180の人間が日傘を指していた。
「へ……変態だ。」
「……先輩、さすがに怒りますよ。」
「いや、絵面がどう見ても強盗かサバゲーしてる奴にしか見えねえんだよ。無駄にでけえし。」
「先輩〜お世辞やめてくださいよ。私Dカップしかない美乳ですし。」
「身長の話な!?」
相変わらず変態でも中身は御坂だ。
むしろ安心した。
周りの人間もまさかこの変態が闇の衣を外すと絶世の美女が出てくるとは思うまい。
「さて、新幹線乗るぞ〜!」
「はーい。」
俺たちは事前にとったチケットを使って新幹線に乗る。
新幹線は夏休みの真っ只中なのでそこそこ席は混んでいた。
「なあ、御坂?」
「はい、なんでしょう先輩。」
「フェイスカバー……新幹線の中じゃ外せないか?」
「先輩、それは私に死ねと言っているようなものですよ。死なせないのが先輩の目標じゃないんですか?」
「ああ、いやそうなんだけどな……。新幹線ならカーテンかけれるし、暑いだろ。」
「いえ?顔面にハッカ塗ってるんで涼しいですよ?」
「いや!それはそれで大丈夫なのか?」
え?マジでこいつ顔面にハッカ塗ってるの?
それ、冷感を感じるだけだぞ?
まあ、それはさておき周りの人間も御坂を見てはザワついてるのだ。
本人の名誉のためにもできる限りの配慮はしつつ、恥を晒すわけには行かない。
「じゃあ、私の顔みたいからって言ったら考えますよ。」
「だー!わかった、お前の綺麗な顔が見たいんだ。」
「えへへ、先輩可愛い。あとでチューしてあげます。」
すると、御坂はフェイスカバーを外すと純白の髪とまつ毛まで白くなっており、色素の薄い赤みがかった目をしていて化粧なんか必要ないくらいの絶世の美女が突如新幹線の中に舞い降りた。
「え、芸能人?」
「すごい綺麗な人。だから顔隠してたのかな?」
「外国人かしら。」
周りが御坂をみてざわつきだす。
「……先輩、視線が私を殺しにかかっています。」
「だー!すまんすまん!後で酢昆布奢ってやるから顔隠そう!」
「……ばか。」
彼女に責められても仕方がない。
俺は選択を誤った。
そして、周りを睨み出すと周りは目を逸らしたので何とか車内は落ち着きを始めた。
「……すまん、御坂。嫌だったよな?」
「もー怒ってないですよー。後で酢昆布奢ってくださいね。」
御坂は少し外の景色を見ながら顔を俯かせた。
よっぽど恥ずかしかったらしい。
久しぶりに言葉が出てこなかった。
「先輩、新幹線ってめっちゃ早いですね。」
「え?」
「もう、新横浜過ぎて……あ、あれ富士山じゃないですか?あんなにおっきいんですね!」
どうやら俺たちはたった数十分で神奈川県を超えて静岡県に入っていた。
恐ろしいスピードだ。
車ならここに着くだけで2時間かかるというのに……やはり文明の利器は恐ろしいものである。
「……怒ってないのか?」
「はい、先輩とじゃなきゃ一生見れない景色だったので!」
心無しか小さく鼻歌さえ歌っている。
彼女にとっては知らない世界を見ることの感動の方が大きかったようだ。
新幹線は鼓膜に圧をかけながらものすごいスピードで進んでいく。10数える頃には次の山を超えているくらいのスピードだ。
「先輩、そういえばどこに向かっているんですか?」
「ああ、今回は長野県の阿智村というところだよ。」
「アチ?」
「ああ、長野県の南端に位置するところだ。ここのヘブンズ園原っていうところに向かっている。」
「へー!ヘブン!天国って事ですか?」
「天国かどうかは知らんけど……日本一綺麗な夜警みたいだぞ。なんと1400mもあるみたいだ。」
「1400!えーっと……スカイツリーが634mだから……2倍以上ですと!?」
「……なんだその変な計算は。」
気がついたら、静岡市も超えて俺たちはなんと浜松まで来ていた。
ものすごい速さだ。
そういえば浜 浜松ってうなぎも美味いんだよな。
みると、巨大な浜名湖が静岡大地に波を煌めかせていた。
浜名湖もいつか行ってみたいものである。
「そういえば、御坂って家族と旅行とか行ったことないのか?」
「無いんですよ。家族は……結構過保護に近いところがあったんですよね。」
「そうなん。」
「妹が産まれるまでは私だけを愛してくれていたのですが……妹が産まれてからは変わってしまいました。家族は妹と行く旅行が好きになり、いつも私は家でお留守番をするのが当たり前になりました。」
俺は家族の団欒から外れ出す御坂を想像すると、少し胸が締め付けられそうだった。
「だから、家族で旅行の思い出話聞かされると、私ってこの家族のお荷物……いらない存在なのかなと思って苦しかったです。働くことも出来ないし、家族を喜ばすことすら出来ないんだって。」
御坂は……フェイスカバーとサングラスというシュールなスタイルで浜名湖を見つめていた。
1件ギャグに見えるけど……きっとその顔を外すと今にも泣き出しそうな顔をしてるに違いない。
「ねえ……せんぱ……あぎゃ!」
そんな御坂を俺はデコピンした。
でかいからだを間抜けにくねらせてもだえているあ。
「いった〜!!何するんですか!私Mですけど急にそういうのはキツイですよ!」
「うるせえ、過去は過去だ。それに今はそんな過去を塗り替えるほどの奇跡は起きてんだろ。お前は自分の足で未知の世界を歩いている。自分なりの感動を俺と分かち合えてんじゃねえか。」
「……もしかして、元気づけてます?」
「う……うるせえ。」
俺は不意に目を逸らす。
俺の悪い所だ。感情が先に出てたまに思考が遅れてしまう。医者になるんだったら真っ先に直さなきゃ行けないところだ。
そんな俺に……御坂の指が近づき。
バチンッ。
と、俺のおでこに衝撃が走り、デコピンされたことに気がつく。
「て……てんめぇ〜。」
「えへへ、お返しですよ〜。まったく、か弱い女の子にデコピンなんてどんな教育受けてるんですか?」
どこがか弱いんじゃ、さっき俺がやったデコピンの倍くらい音したぞ。この馬鹿力め……。
そんな事をしていたら、あっという間に名古屋駅に着いてしまった。
東京とは少し違ったビルの佇まいで、ビルも白く綺麗なものが多く東京とはまた違った中京の景色がそこにはあった。
「さ〜先輩!まだまだ旅は続きますよ〜。」
「ちょ、待て〜!」
「おーにさんこーちらー!手ーの鳴ーる方へー。」
もう高校生になるというのに、俺たちは駅のホームで大人気なく鬼ごっこをする。
恥ずかしさもあるのだが、フェイスカバー越しに御坂はきっと小学生の頃に出来なかった鬼ごっこをしている事が何より楽しそうなので……もう少し付き合ってあげることにした。
俺も久々に8時間以上勉強しない時間を過ごすことになった。
旅は道連れ、世は情け。
旅をするにはお互いの思いやりがあってからこそ成り立つもの。
俺たちの中には歪ながら確かに絆が存在していた。
さて、この先どんなことが待っているだろう。




