俺の後輩は死にたがり 3話
100日チャレンジ23日目
俺は御坂に言われるがまま彼女の部屋に行くことになった。
彼女は両親がいるのだが、今は別居中との事。
理由は自殺や危険行為が多いため、半分見捨てられてるみたいだった。
「はいって、どうぞ!」
「へいへい。」
ドアを開けると、そこにはおびただしい数の本があった。
部屋一面が書斎のようになっており、床やテーブルにも本が積み木のように積まれていた。
そして、部屋はシャッターで締められていて今が何時なのかも感知できないほど外界から隔離されていた。
「んー、予想通りのような……そうでも無いような。」
「コメントに困ってるんですね。私は変人です、先輩。」
「知ってる。」
俺は部屋の中央で目が止まった。
油絵で何かを書いていたのだ。
俺たちより少ししたの年齢の……若い女性のようだった。
彼女は油絵が好きみたいで、肌色から書くのではなく、まずは背景の色を下地で塗って形どっていていたので彼女は絵の才能があるみたいだった。
「さて、先輩……何しますか。あの、私こう言う感じで振舞ってるけど初めてなので優しくしてもらえると。」
「うるせえ、とにかく寝る。」
「まあ、ドライなこと。」
御坂は病人で……自殺願望すらもっているのにこんなに明るい。
実はこういうケースは多かったりする。
病気になったとて、人の幸福度は長い目で見て変わらない。
日々の幸福度によって人の精神は形成されてるからこいつはきっと人生が楽しいのだろう。
その延長で死ぬことに対しても好奇心があるだけなのだ。
気になるのは、あの絵だ。
なぜあの絵を書いているのだろう。
自画像としてはあまりに表情が幼い。
少なくとも180cmもある御坂にしては子供っぽすぎるのだ。
「御坂、あれ……お前の家族か?」
「……流石先輩ですね、洞察力は抜群のようです。はい……あれは妹ですよ。」
「妹なんかいたのか、仲良いのか?」
「いえ、憎悪の対象です。」
さらっと怖いこと言いやがる。
「なんでだよ。絵を描くくらい好きなんじゃないのか?」
「私の妹は普通でした。私のように日光に怯える必要もなく、私よりも愛嬌があってちっちゃくて可愛いのです。すると、いつしか両親は私ではなく妹だけを愛するようになったのです。私は家に居場所が無くなると思って焦りだし、急に柱に頭をぶつけて血を流したりするようになりました。」
断片的なピースが重なり、繋がって1つの結論が頭に浮かびだした。
「つまり、お前の奇行の根元は……。」
「構って欲しいだけなのです。そして、無条件に両親から愛される妹が妬ましいのです。だから離れて暮らすようになりました。」
「めんどくさいやつだなお前。」
すると、御坂は嬉しそうに微笑んだ。
まるで、めんどくさいを褒め言葉に捉えているように。
「はい、私はめんどくさいんです。」
しかし、そう笑う御坂の整った顔立ちは純白であまりにも美しかった。まるで1つの完成されたギリシャの絵画のように。
そんな時、俺はふとある提案を思いついた。
アルビノゆえの彼女の美しすぎる見た目と、このクソみたいな承認欲求モンスターを掛け合わせた方法だ。
「御坂、お前モデルやったら?」
「はい?」
御坂はマヌケな顔をする。
黒い色素が抜けた若干赤みがかった目を歪ませている。
「モデル……?いやいや、何をおっしゃる先輩。私は社会に必要とされないくらいがちょうどいいんですよ。無能なので生活保護を受けるくらいにしときます。」
「いや、お前は綺麗だ。まるで白く煌めくプラチナのように美しい。多分お前が前に出ることで勇気を貰える人だっているんじゃないか?」
すると、さっきまで胸を見せようとしたり体をくねらせて遊んでいた御坂は顔を抑え、少し赤面をしていた。
多分面と向かって綺麗とか言われたことないな、こいつ。
「そ……その……その……あー!もう!何言うんですか!先輩!私の事好きなんですか!?妊娠しちゃいますよ!」
「いや、褒めただけだと妊娠はしねえよ。」
180cmの体を顔を隠してクルクルと回るから、案外その実態は普通の女の子なのかもしれない。
やれやれ、と安堵すると俺はソファーに押し倒され……御坂に馬乗りにされて御坂の顔がアップされる。
相変わらず力が強い。
「ほんとに……私……綺麗ですか……?こんなに歪な遺伝子してるのに……?」
「だから、そう言ってんだろ。頼むからその捕食しそうな体勢やめてくれ。ちょっと怖い。」
「……すみません、人に褒められたこと無かったから興奮してしまいました。」
「いいよ、つうか……なんか腹減ったな。なんかある?」
「一応、親からの仕送りでうどんはありますけど。」
「OK、ちょっとキッチン借りるな〜。」
少し慣れてきた。
御坂は多分人生で誰かに褒められたことがないし、きっとアルビノのせいで差別的な扱いを受けてきたんだ。
そのせいで過激な行動をとるようになり、両親から手がつけられなくなった。
そんなところだろう。
きっと、愛されなかったら家もこのように仕送りもくれないだろう。
よく見ると、うどんだけじゃなくレトルトのパスタやカレーなどもあるので彼女が料理ができないことを汲んだものがある。
しかし、頭が良すぎるが故にそんなシンプルな事すら気づけていないようだった。
俺は麺つゆと肉、野菜があったので焼きうどんを作って、お皿に盛り付けて御坂の分も用意してあげた。
「すまん、簡易的なやつしか作れなくて。」
「い……いえ……頂きます。」
彼女はうどんをすすると、美味しかったのかむせ返った。
「お……おいしい……人が作った料理……3年振り。」
「いや、中学から1人だったのかよ。」
「先輩、なんでこんな今日あった私に優しくしてくれたんですか?普通こんな女嫌になりませんか?」
「助けてって……顔に書いてあるからだよ。」
彼女は鏡で自分の顔を確認した。
「書いてないですよ。」
「いや、比喩!比喩表現な!……きっとお前は誰かと関わりたかったんだよ。そんな顔してた。」
こいつは接すれば接するほどに面白い。
そして、きっとこいつの認知は歪めば歪むほど本当に死んでしまうだろう。
それは見過ごせない。
俺は、医者になる男だからこいつを守る義理がある。
俺はある決意をした。
「御坂……、お前俺と付き合え。」
「はい?」
「だーかーらー!お前が奇行しないように彼氏になって診断してやるっつってんだ!OK?」
「え……そ……その……(ボソボソ……)。」
彼女は口ごもる。
きっと戸惑っているのだろう。
しかし、ここまで彼女の全貌をみると見捨てることも出来なかった。
だから、名目上の交際だ。その方が年頃の男女の関係を言語化するには健全だ。
「よ……よろしく……お願いしましゅ。」
口ごもり、噛みながら彼女は承諾した。
こうして、外界の音もしないシャッターで閉鎖された部屋の中、俺たちの奇妙な関係は始まった。




