俺の後輩は死にたがり 1話
※100日チャレンジ21日目
夏だと言うのに体に寒気が感じる。
今何時だ、という明らかに狂った時間感覚に踊らされ、飢えと寒さが体を襲う。
俺は虎ノ門龍。
学校一の不良にして、学校一の優等生という背反する2つ名を持つ男だ。
なぜ俺がこんなにも勉強してるのかと言うと理由はひとつ。
ガンで亡くなった母ちゃんを目の前にしてから、命を救う名医になりたい。
そう決まってからは俺はひたすらに非行と勉強を繰り返していた。
非行をする理由は、特にない。
歩いていたらものがぶっ壊れるし、抗争が何故か起きてしまう。
明らかに俺に原因があるのだがそこを探るくらいなら勉強に当てた方が合理的だからだ。
そして、俺の心情は荒れに荒れていた。
俺は学校ではトップで99点の人間なのかもしない。
しかし、医学部を志望する奴らは平気で100点のその先にいるのだ。
全国模試を見ると、俺は井の中の蛙もいい所だった。
希望の千葉大医学部は…B判定。
そして、東大医学部は…C判定か。
医学部を受けるというプレッシャーが常に俺を襲う。
俺は少しでも結果を変えるように勉強をするが、それでも紛らわすことさえできなかった。
身の丈に合わない大きな目標とは恐ろしいものだ。
しかし、こういう時こそ孤独でいなければならない。
俺はみんなよりも1歩先を行かなきゃ行けないから。
そんな時、スマホの着信が流れる。
ちっ、電話かけてくるんじゃねえよと理不尽な怒りを覚えつつ相手を見る。
そんな時、スマホが鳴った。
電話の相手はエリカ。
ナンパして仲良くなった女。
たまに暇してる時に1時間ほど電話をかけてきたり、
会っては飯を食ったり、時には体を重ねる程度の中だった。
今回の電話もどうせ愚痴だろうと、少し気だるげに応答の所をタッチする。
「もしもし?」
「あ、龍?」
おっとりしてるようで、ちょっと軽いテンション。
今日も騙されてるか、それともおじさんでもふっかけて騙してるのか分からないテンションである。
電話をかけてる時は不機嫌で話を聞いてほしそうな時が大半であるのだが、今日の声は違った。
「私ね、今日をもって龍を卒業します!」
「は?」
「本当に好きな人ができたの。今度はちゃんとした人で、結婚も考えてるんだ。今までありがとう。」
「……そうか、元気でな。」
ツー、ツー。
……何も言えなかった。
どうでもいい女だと思ってたのに、なぜか心にぽっかり穴が空いた。
会ってから……3年が経ったのかな。
かけてきた月日に対して、あまりにもあっさりとした関係の終わりだった。
「あー、なおっちと遊びてえけど…今の俺じゃ遊んじゃ行けねえなわ。」
ちなみになおっちとは俺の友達の天野直輝のことだ。
あいつはメキメキ成長をしていて、今も夏期講習を受けているんだ。
そんな努力家なあいつには常に1歩先を言ってあげなきゃ可哀想だ。
あいつの師匠は俺なんだから…、あいつに聞かれても堂々とディスりながら教えられないと行けない。
だからこそ、俺は学び続ける。
「…しっかし…流石に16時間の勉強はやりすぎか。」
休憩のない努力は無謀にも程があるし、本当に結果がつかない。
これ以上は無駄だとおもったので少し休憩をすることにした。
☆☆
俺は近くのコンビニまで歩く。
時刻はもう18時をすぎていて、クーラーを浴びきった俺には夜の涼しさが妙に心地よく感じた。
いつもは親父の金でUber Eatsつかうけど、たまには下界に降りるのもいいもんだ。
そんな時、俺は目をうたがった。
歩道橋の上に女の子がいる。
180cmの高身長でショートカットの女子高生ぐらいの女の子だった。
歩道橋の真ん中から手すりにまたがっていた。
「あほか!あいつ!」
俺は彼女の元にダッシュをした。
走る度に彼女は手すりをまたがり終え、そして目を閉じてゆっくりと体を傾ける。
90°の直立から80…70°と地面に並行になる。
そして、重力に従って落ちようとしたところで、パシっ!と彼女の手を止めた。
「…え?」
「ばか…やろう!!!」
彼女は疑問顔だった。
そして俺に引っ張られ、何とか安全なところまでたどり着くことが出来た。
「……。」
彼女は目の前の状況が理解できないのか口をぽかんと空けて唖然としていた。
俺は、その様子に頭の血管が切れそうなくらい怒りが込み上げてきた。
「バカか、てめぇよ!めったなことするもんじゃねえよ!」
「……どうして、止めたの?」
「は?普通止めるだろうがよ!日本人に生まれてある程度の道徳を修めたら大体自殺を止めようとするだろうが!」
「…私、実験していたの。」
「…は?」
自殺が実験?何言ってんだ?こいつ。
妙に高い身長も際立って、不気味なことこの上なかった。
「…私は御坂千秋、ただの女子高生。死後の世界はあるのかの実験をしていたの。あなたは?」
「俺は…虎ノ門龍、将来の夢は医者だ俺の目の黒いうちは誰も死なせない。お前は俺の患者だ。」
そう、彼女は俺が人生で一番最初に救った患者だった。
彼女は顔立ちは大人びていて目鼻がくっきりしていて、これから死のうとしてるのに無駄に生き生きとした表情をしている。背も高く全体的にスラッとしていて銀色のショートヘアーが美しく、まるで秋の終わりに降りかかる小雪のようだった。
これは、死にたがりの彼女と誰も死なせたくない医学部希望の不良の物語。
季節はまだ夏、ひぐらしがほんのりと泣いていて。
夜だと言うのに地面から込み上げる熱と車の排気ガスが入り交じり……都会の夜は一段と俺の気持ちを悪くさせた。