俺と母ちゃんの富士五湖修行 8話
※100日チャレンジ15日目
チュンチュンチュン……
いつもよりも鳥のさえずりが多く聞こえるのは、自宅よりもここが自然豊かな土地なのだろう。
ダブルベッドを見ると母ちゃんはシャワーを浴びていた。
いつも母ちゃんは俺より早起きだ。
俺よりも母ちゃんが遅く起きることなんて決してない。俺は惰性でスマホを見る。
すると、いつも通りみんなからラインが来ていた。
舞衣がデートに行こうといってくれていたり、飯田が笛吹さんのだらしなさに対する愚痴のLINEが来たりと中々賑やかになっている。
気がつけば夏休みももう少しで終わりだ、もっと色々できたことがあったかもしれないけど、バーベキューをしたり旅に出たりとたくさんのことが出来た。
夏休み明けにみんなに会うのが楽しみで仕方がない。
そんな中、1人だけ電話の着信をくれた人がいた。
医学部志望の不良でいつも勉強を教えてくれる虎ノ門龍だ。彼はバーベキューでもいなかったし、正直今何しているか気になっていた。
俺はその折り返しで電話をかける。
すると、すぐに電話がかかった。
「もしもし、龍君?」
「久しぶりだな、なおっち。」
「そうだね、夏休みほとんど会えなかったもんね。元気にしてた?」
「……なかなか勉強伸び悩んでいてな、昨日も徹夜で勉強していたんだ。でも、模試の点数は東大は厳しく、千葉大も微妙……ちょっとその愚痴の電話だったんだ。」
彼は医学部かつエリート大学志望である。
彼は不良らしく暴れるか、もしくは優等生らしく人一倍頑張りやな面がある。
受験は……点数があるものが勝ち残る競争だ。
ハードコースの彼にとっては今からでも受験の競走は始まっているのだ。
無理はしないで欲しい。
「また気軽に家においでよ、勉強の力になるか分からないけど……今の君は弱ってるよ。ちゃんと寝て、ちゃんとパフォーマンスが最大限発揮できるようにしよ!」
「そうだな……うん、お前に相談してよかったよ!ちょっと寝るわ。」
「うん、また。」
そういって、電話が途切れた。
久々に彼と話せて嬉しかった。
俺が勉強ができるようになった一番の功労者なのだから。
「あれ?直輝起きてる?」
バスルームから母ちゃんが出てくる。
髪が濡れていて、それでいてほとんど下着のような格好だった。
俺は即座に窓の方向を見つめる。
「服きて。」
「はいはい。」
母ちゃんは少し褐色のきれいな肌を服で隠し、濡れた少し色あせた金髪をドライヤーで乾かしていた。
俺は、ポットとインスタントコーヒーを口にして朝の贅沢を味わう。
やはり朝に飲むコーヒーは格別に美味い。
なんというか、頭にスッキリとした感覚があるので全身が軽くなるような感覚があるのだ。
「さて、今日はどんなルートで行くの?」
母ちゃんが俺に問う。
基本的に旅のプランナーは俺なので俺が決めることになっている。
「ここから東に行くルートだから……西湖、河口湖、最後に山中湖かな〜。」
「なるほど!」
「母ちゃん……絶対理解してないでしょ。目を見て言ってご覧?」
「あはは〜優秀な息子を持って母ちゃんは嬉しいな。」
やれやれ……と思いつつ時計をみる。
時刻は既に9時をすぎているのでそろそろチェックアウトだ。
「直輝も身支度して出るわよ。」
「あいよ。」
こうして、身支度を整えたあと、俺たちはホテルを後にした。
☆☆
時刻は10時近くになっている。
精進湖の子抱き富士の見納めをした後に、さらに俺たちは進む。
道は空いていて、車は快適に走っていた。
車で流れる曲は……sumikaの「フィクション」。
朝に聴きたくなるような爽やかなピアノの演奏とボーカルの優しい声が癖になるような素敵な曲である。
特に、ページをめくってストーリーを楽しもう。
破れていても空白だったとしてもといったメッセージに歌詞が、まさに俺たちの旅を小説やストーリーにしているようで好きな曲だった。
「母ちゃん……腹減ったな。」
「そうね、何かないかしら。」
俺たちは朝ごはんの無いプランを選んでしまった為空腹だった。
検索をしてみると、西湖の途中の道にカフェがあるようだった。
「母ちゃん、ここ真っ直ぐ行ったところにカフェがあるみたいだし……行ってみる?」
「お、カフェなんて朝みたいじゃん……いこいこ!」
俺たちは車を走らせると……遂に西湖が姿を現した。
本栖湖や精進湖のように開けてないのだが、小山が緑を彩っており、それを西湖が照らして緑の楽園のようだった。
その小山の端っこに……ほんのりと富士山を添えて。
「すげー!めっちゃ綺麗!」
「え!ほんとね!こりゃあ綺麗だわ!」
西湖も溶岩によって出来た湖だ。
そのえぐれた様子から当時の火山の力強さが垣間見える。
自然の前では俺たちは一溜りもない。
人が作った都会では決して感動することは出来ないだろう。
だってこれは神様が作った景色なのだから。
「あ、母ちゃん!あのカフェだ!」
俺たちは富士山を見ていると、例のカフェが目に入る。
「ここはどんなカフェなの?」
「なんか、ビーフカレーが美味しいらしい。」
「直輝……昨日も鹿カレー食べてなかった?」
「大丈夫だよ。俺カレー好きだし。」
「ほんと好きね〜カレーは食が細い時から2~3杯はおかわりしてたし。」
俺たちは、湖を傍らにゆっくりと車を停める。
体が程よい疲労感と空腹と……カレーに対する食欲が入り交じっていて店に入る足が早くなるのを感じた。
ビーフカレー……楽しみだ。




