俺と母ちゃんの富士五湖修行 3話
※100日チャレンジ10日目
フードコートにて、俺たちはゆっくりと腰をかける。
ちなみにお互い車に乗っていると、食欲は湧くのだが妙にヘルシーというか素朴な料理を食べたくなる。
車酔いのせいだろうか、フードコートの食券のボタンを選ぶと俺たちは同じ食券機の前に立っていた。
しかも2人とも冷たいそばという渋いチョイスだった。
料理を出されると、見慣れたざる蕎麦と見慣れた色の麺つゆが出される。
俺たちは結構薬味が好きなのでしょうがとネギを聞かせて、麺つゆには七味唐辛子をほんのりと入れる。
そして、無言でツユに付けた麺を口に運んだ。
「うん!うまい、やっぱこれくらいがちょうどいいな。」
「ね!ラーメンとかスタミナ丼とか考えたんだけどね〜結構リバースしちゃいそうだったからやめた。」
実はちょっと母ちゃんの運転は荒い。
でも、母ちゃんも精一杯やってこれなので俺も咎めるつもりもなかった。
だって母ちゃん自信が少し車酔いしてるくらいなのだ。
軽く麺をすすると、あっさりとそばを平らげてしまった。やっぱお腹自体は空いてる。
母ちゃんはスマホを取りだし、ブログを淡々と書きはじめていた。
「さて!ちょっと何か書くわ!」
「分かった、30分後に合流しよう。」
「了解〜!じゃあまた後で!」
俺はトイレに行ってから少し当たりを散策する。
やはり談合坂は人気のサービスエリアと言われるだけあって施設の大きさがわかる。
ガソリンスタンドや、ドッグラン…はたまたベーカリーやカフェまで充実していて、ここで暮らせるんじゃないかと思うくらい快適だった。
その後もインフォメーションなども見てみると、周辺のスポットなどが書いてあったり、高速道路の情報も満載だった。
いつか、一人でここを運転する時に利用するかもしれないな。
それはそうと、この後はどうするか。
検索してみるとまずは旧1000円札に使われていた本栖湖が最初の目的地である。
青く澄んだ湖と、そこから映し出される富士山との景色が絶景とのこと。
あったかな、1000円札…。
財布を見てみると、北里柴三郎の中に野口英世が混ざっていた。
つい最近紙幣が変わったのだけれど、まだ野口英世が見慣れているので違和感を強く感じる。
裏面を見ると、富士山が湖にも綺麗に映し出されていて、いわゆる逆さ富士というものが見事に映し出されていた。
今日の天気は晴れ、期待値は高いかもしれないな。
そんなこんなで時間を潰していたら、時間が経ってしまった。
そろそろ合流しないと…
フードコートに戻ると、母ちゃんもちょうどブログの記事を書き終えたようで体を伸ばしていた。
「お疲れ、母ちゃん…コーヒーは甘くてミルク入ったのが好きだったね。はい。」
俺は、クーラーが効いて少し冷えたからだを温かいコーヒーで一息していた。
「ありがとう〜直輝!優しすぎ、結婚したいくらい!」
「きっしょ。」
「ちょ…そこはドライなのね。」
母ちゃんは美人なのだけれど、そういうのは体が拒否反応を起こしてしまう。まあ、これも愛あるコミュニケーションだよ。
「ブログはかけたの?」
「うん!バッチリ!じゃあ…そろそろ行きます?」
「そうだね、まずは旧千円札の裏面にある本栖湖からスタートだから、甲府南って所を降りて南下するルートでお願い。」
「りょーかい!母ちゃんに任せといて!」
俺たちは黒いCX5に乗ってエンジンをつける。
そして、高速道路の合流をして進んで行った。
車の中で流れる曲はいきものがかりの気まぐれロマンティック。
全体的に明るい曲調と冒険を感じる明るい歌詞。
少し母ちゃんの世代を感じつつもボーカルの優しい声がすんなりと入ってきて俺もついつい歌いたくなる程だった。
「それにしても、直輝最近ホント変わったよね。コーヒーを趣向を覚えた持ってきてくれるなんて。」
「まあ…母ちゃんとみんなのおかげじゃないかな?」
「そーねー!いつの間に彼女が出来たり…沢山の女の子を気をひいたりね〜。隅に置けないわ。」
「え…?そうなの…?」
俺としては違和感がある。
最近仲良くなった瑞希だって、友達というか妹のような距離感だし、彩奈だってオタ友だ。
「え?直輝……まさか、結構鈍い?」
「ん?どういうこと?」
「ああ!大丈夫…!聞かなかったことにしよ!よーし、今日は富士山堪能するゾー!」
母ちゃんが不自然にテンションを上げていることに違和感を覚えつつ、まあいいかの精神で確かに自身の成長を実感する。
「何がともあれ、最近は毎日が楽しいよ。なんでだろうね、始まりは母ちゃんのAV発覚がスタートだった気がしたのに。」
「そうね〜、でもいい意味で腹割って話せるようになったわけだし、いつかやりたいこともできるわよ。直輝は…やりたい事とかあるの?」
やりたい事…ね。
少し考えて簡単に伝える。
「やりたいことは…まだ明確じゃないよ。とにかく選択肢を増やすために勉強している。もしかしたら将来はサラリーマンしてるかもしれないし、フリーターなのかもしれない。でも、みんなの力を借りながら今はやるべき事をやって…何となく人の役に立てる仕事をしたいんだ。」
あまりにもぼんやりしている。
でも、それが今の高校生の俺なりの答えだった。
それに対して、母ちゃんはにんまりと笑う。
「そんなもんでいいのよ!人生なんて成り行きの連続よ、私だって最初は親に言われるまま医者になろうとしてたけど、まさかAV女優とシングルマザーやるとは思わなかったし。」
「確かにそれは予想外すぎるかもな。情報量多すぎかも。」
「でもね、今が幸せ!直輝もどんな形でもいいから健康と幸せでいてればOKよ!」
やっぱり母ちゃんは、人に勇気を与える力がある。
そんな言葉に俺の心は温まるようだった。
「……母ちゃん。」
「うん。」
「……甲府南……過ぎてる。」
「え?」
どうやら、俺たちは話に没頭していて、降りる予定のインターチェンジを超えてしまったようだった。
「え!?どうしよ!どうしよ!」
「とりあえず、この次のやつで降りてからルートを軌道修正しよう。」
「そ…そうね。」
母ちゃんはエネルギッシュで行動力がある最強の母ちゃんだ。
出来ないことは俺がフォローする。
きっとルートを間違えてもこの旅を無事に終えることができるだろう。




