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僕のお母さんは△▽女優  作者: kyonkyon
第8章 うちのメイド長はヘビースモーカー
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うちのメイド長はヘビースモーカー 17話

※100日チャレンジ7日目

時刻は既に20時を超えていて、夜が更ける。


蝉だけじゃなくて、鈴虫のような虫の声が聞こえてきて、ほんのりと涼しい夜風が仕事で温まった私たちの体をゆっくりと冷ましていった。


まるで、少しづつ夏の終わりを示唆するかのように。


「いや〜本当に楽しかったですね!」

「そうね、最高の日だった。」


正直、挑戦するのは怖かったし、朝なんかは眠気が強すぎて最高のスタートダッシュを切れたかと言うと嘘になる。


それなのに、頑張って自分がやると決めたことを小さくやり切ったことに対する満足感は他のものに変え難い喜びがあった。


まるで他の人に従うのではなく、自分で歩んだ先に道ができたかのように。


「ことねさんの夢が少しずつ叶って良かったです!これからも沢山頼ってくださいね!」


その言葉に少し固まってしまう。

私は、与えられてばかりである。


相談に乗って貰ったり、ご飯誘ってくれたり、サウナに一緒に行ったり、お店の計画を立ててくれたりと、事実を並べるだけでも沢山のことをしてくれた。


彼女と接し始めたのは夏のはじまりだった。

そんな夏も、もう少しで終わろうとしている。


それなのに、私は彼女に与えられたものがあったのかと自問自答するが、何も思い浮かばない。


「ねえ、舞衣ちゃんは……夢はあるの?」


ふと、そう聞いてしまった。

彼女はまだ17歳、これからたくさんのものに触れてくるかけがえのない大切な年頃とである。


もし、夢があるのならこちらも助けてあげたい。

舞衣ちゃんは少し考えると楽しそうに夢を語ってくれた。


「私の夢は、辛い人を支えて行けるような看護師になる事です!」

「看護師!想定外だったからびっくりしたわ。でもどうして?」

「私が、沢山の嫌なことに打ちのめされてる時にある看護師さんに支えられてくれたんです。死にたくなっても背中を押してくれて、だからこそ私も看護師になってそんな人になりたいなって思ったんです!」


……なんたる与える精神。

まるで患者を愛するナイチンゲールが現世にいるようだった。

彼女は生まれとってのGiver、人に尽くすことに喜びを感じる子だったのだ。


全く、歳下とは思えないほどの成熟した精神に脱帽せざるを得なかった。


「私に負けない、最高の夢ね。」

「はい!あ、でもことねさんも私にたくさんのものをくれましたよ。」


その言葉に私は混乱してしまう。

そんなこと、ひとつも無いとおもったのだ。


「どんな事かしら?正直、自信が無いわ。」

「例えば、お客さんと話す時のことねさんや、仕事で混乱したり、嫌なことがあったらすぐに助けてくれました!」


私にとってのさり気ない行動だった。

それが、彼女にとっての尊敬や希望になっていたのだ。


「そして、こうして夢を追いかけることねさんを見ると、いつも勇気を貰えます。私もこの人のようになりたいなって……最初は憧れてました。でも接してみると等身大の悩みがあって、どこか切なくて、タバコ臭くて。」


少し棘のある言葉が、私を見事に表現していて彼女との距離や関係を再確認する。


「だからこそ、一緒にいたいんです!……だって、私にとってのことねさんは、かけがえのない希望なんですから。」


どーーーーん!!


そんな彼女を背景に、大輪の花火が打ち上がった。

ピンクや赤を背景に私に向かって微笑む舞衣ちゃんは、人々を一瞬照らす花火のようで美しかった。


「え!?花火じゃないですか!めっちゃ綺麗!」

「……花火なんて久しぶりね。」


私は数十年間、花火を夏になる度に見ていた。

その時は何も思わなかったのに、今日は初めて花火を見てそのあまりの美しさに感動をしてしまった。


「花火って、こんな風にみえるんだ。」


私は世の中がタバコの煙のように灰色に見えていた。

20数年間、心を開くことなくただ生きていて、私にとっては色は不必要な概念になっていた。


そのため、目の前の人の肌が白いのか黒いのか、はたまた黄色に見えるのかすらも分からない状態だった。


それを、この子が見えるようにしてくれた。


花火は夜空をたくさんの色で彩り、花火の音を奏でていて私の五臓六腑を鳴らして言った。

特に、真ん中の黄色い花火と青い花火は……まるでメイド喫茶でたくさんの人の夜を照らす私と彼女のようだった。


「夏も終わりね、寂しいわ。こんなに素敵なものだったのに、今まで気が付かなかった。」

「何言ってるんですか!まだまだ未来は明るいですよ!」

「え、でも花火はもう見れないわ。」

「秋には紅葉がありますし、冬には雪化粧が見れます!春には花吹雪が流れて、夏に巡って花火が出るのです!私たちには楽しみな事ばかりなんですよ。」


そうだ、その通りだ。

彼女の倍近く生きてるのに、そんな事さえも気が付かなかった。

幸せとは、待ち続けるのではなく案外目の前にたくさん転がっているのだ。


「ありがとう、これからも私の親友としてお願いね。」

「もちろんです!」


私たちは、あと少しで終わる夏と花火を背景に、ちょっとずつ歩んでいく。


たくさんの色に染められ、様々な形を彩って、閃光のように生きていく。

ほんのちょっぴり、タバコの灰色を交えながら。


それが、「メイド人間」の私の生き方なのだから。

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