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僕のお母さんは△▽女優  作者: kyonkyon
第8章 うちのメイド長はヘビースモーカー
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うちのメイド長はヘビースモーカー16話

※100日チャレンジ6日目

……オープンまであと5分を切っていた。


私は舞衣ちゃんに背中を押され、緊張よりも絶対成功させたいという気持ちが強くなってきた。


大丈夫、きっと上手くいく。

上手くいかなくても、私は1歩を踏んだんだ。

それだけでも100点、お客さんが来たら200点、喜んで貰えたら300点だ。


そのスタンスにしよう。


3....2.....1....。

ピピッ!


私の不定期のお店はスタートをした。

店の前には誰もいない。


「……お客さんいないわね。」

「仕方ないですよ!告知も以前に比べたら少ないですし。」

「そうね、始まったばかりだもの。気長に行きましょう。」

「はい!」


世の中は広告料というものに多大なお金をかけている。

それをするだけでお客さんに知ってもらえるかが大きく左右されてしまう。


あの大きなメイド喫茶も莫大な広告でお客さんを回収し、リピーターを作っていった。

私の力の小ささを思い知るのだが、まあ予測の範囲だった。


「ひとまず、掃除からはじめま______」

「すみません!2人……行けますか?」


突然、男性の声が聞こえた。


「あ……。」


振り向くと、小説家の笛吹さやかと同居人の高校生……飯田蓮くんが店の前に立っていた。


「蓮くん!久しぶりじゃない!どうしたの?」

「昨日、舞衣からお店スタートするからってきいて来ちゃいましたよ!」


とても嬉しい。最初の客が知り合いというのもどこか温かみを感じる。


「じゃあ、案内するわね。」

「ええ!」

「酒~!とりあえずウォッカとウイスキーを持ってこーい!」

「笛吹さんはちょ~っと黙っててください!!」


チリリン。


「ご主人様の……ご帰宅です!」

「おかえりなさいませ!ご主人様!」


そう……この感覚だ。

ここ数日失われてた感覚が蘇り、私に勇気と気力を与えてくれている。


「蓮くん。今日は来てくれてありがとうね。これ……メニューよ。」


「え、なんか……メイド喫茶なのに料理が本格的にパスタとかピザもあって……クオリティ高いっすね!?」

「ワインなんかもある!トスカーナ?ってやつの白ワイン欲しい!」


結局、私たちのメニューもあるのだけれど尾崎さんが店のメニューも使っていいと言ってくれたのだ。


「じゃあ……オムライスとボンゴレ・ビアンコ、ピザはクアトロフォルマッジあたりでお願いします。」

「あと、白ワインも!」

「承知しました!お作りしますのでお待ちください。」


私がキッチンに向かった瞬間、蓮君が私をとめた。


「ことねさん!」

「何かしら?」

「……その、メイド服のことねさんも……素敵ですね。」


相変わらず、オシャレで女たらしな所がある青年だった。

それでも私は嬉しく感じる。


「ありがとう、今日は楽しんでいってね!」

「もちろん……あだだ!」

「れんれん~!ここにも素敵な女性がいるんですけど~!」

「いだだだ!わかった!わかったからほっぺ引っ張らないで!」


そして、そんな女たらしの青年は然るべき制裁を受ける。

この2人はもはやちょっとした夫婦みたいで早く結婚すればいいのに、と心の中で小さなツッコミを入れる。


そして、私はキッチンに入った。


「尾崎さん、注文お願いします。」

「ありがとう!ふむふむ……。」


すると、尾崎さんは手際よく

まずはパスタを鍋に入れてニンニクととうがらし、そしてあさりを作ってソースを作った。


そして、パスタがゆであがる前にピザ窯の前に立ち、生地を手で伸ばし始めていた。


「ピザってこう作るんですね。」

「ああ、こういう薄いピザはナポリ形式っていうんだ!こうやって……ほれ!」


伸ばしたピザ生地を高く投げキャッチをして余分な粉を落とすテクニックを見せる尾崎さんは……27という若さとは思えない職人技をみせてくれた。


そして、リコッタチーズ、ブルーチーズ、モッツァレラチーズ、最後に粉チーズをかけてピザを焼いていく。


ピザに、均一に火が入るように少しずつ回しながら、均一に焦げ色が着くように焼いていく。


2分足らずでピザが焼けて、切っていく。


それが終わったらタイマーが鳴った。

「よし!次はパスタだ!」


すると、尾崎さんはパスタをソースと絡め、じっくりとアサリの旨味をパスタに含ませていく。


見るだけでヨダレが出そうだった。

何より、真剣に作る尾崎さんの表情が普段の優しい顔とは打って変わってクールな表情で私は見とれてしまっていた。


「ほれ、お願いします。」

「ありがとうございます!」


私は料理を手に取り、蓮くん達に運んで行った。


「お待たせしました。クアトロフォルマッジとボンゴレ・ビアンコでございます!それでは……愛こめをしますので私と一緒に萌え萌えきゅんって言いましょう!」


私は、少し息を吸う。

尾崎さんも凄いけど、私だってこの業界ではプロだ。


「せーの!」

「「「萌え萌えきゅん~!」」」


見事なまでに私のメイド喫茶は復活して言った。


「ヤバい……こんなうまいピザ初めて食った!」

「ね〜!ワインとも凄くあって美味しい!」


2人は大絶賛である。

本当は料理で勝負するつもりはなかったが、尾崎さんという最強の助っ人が2人を幸せにしてくれた。


良かった、お客さんが来てくれなくてもそうやって喜んでくれる人がいる。


しかし、私の想像とは裏腹にこの小さなプロジェクトは加速して言った。


チリリン!


「すみません!ことねちゃんいますか!?」

「うおお!すげ〜オシャレな店じゃん!」

「4人でお願いします!」


男性が4人で来る。

私はその顔にピンと来た。いつもの常連の人もきてくれた。


「みんな、久しぶり!来てくれたのね。」

「ああ!ことねちゃんがいるなら例え日の中水の中!」

「Xでことねちゃんのアカウントが見つかって拡散されてるんだよ!」


私は、Xのアカウントを見る。

なんとフォロワーが100人から一気に3000人ほど増えていて、今日お店をやることのポストがリポストで増えていった。


「え、まさか!」


私はお店の外を見る。

すると、かつて私に会いに来てくれていた人達が店の前でちらほらいて、私はおどろいていた。


そこには、いつの日か声をかけたPCを触っていた男性も、読書をしていた男性も、ホスト風の男性もいた。


「みんな!来てくれたのね。」

「おお!ココがことねちゃんが始めたお店?ことねちゃん辞めてから心にぽっかり穴が空いたみたいで……やっぱことねちゃんじゃないとダメだと思ったんだ。」


そんな、嬉しい事をいってくれた。

さっきまでの静寂が嘘みたいにお店の席が埋まっていく。


「すごいね!ことねちゃん!」

「尾崎さん!少し忙しくなりそうですけど……大丈夫ですか?」

「ああ、望むところさ!」

「舞衣ちゃんも!頼むわね!」

「もちろんです!」


お店はかなりの大盛況となった。

やっぱり、私が真摯に積み上げた信用というのは私を裏切ることはなかった。


みんなが美味しい、私と話せて嬉しいと満足してくれて。気がつくと、食材の在庫もかなり使ってしまって想像の数倍以上の売上を出してしまった。


そんな楽しい時間も……タイムリミットが近づいていく。


チリリン!


「ご主人様の出発です!」

「行ってらっしゃいませ!ご主人様!」


最後の客が……お店を出ようとしていた。


「やっちゃんありがとう、本当に嬉しかった。」

「……ことねちゃん、こちらこそありがとう。もっと素敵なお店を作ってくれて。またやってくれよ。何時でも営業のサボりのために行くからね!」

「そこは、ちゃんと仕事しよ!」


こんなボケとツッコミさえも愛おしく感じる。

私は生きているということを働くことで改めて実感した。


「みんな!お疲れ様~!」

「つ〜か~れ~ま~し~た~。」


舞衣がクタクタに机に突っ伏していた。

彼女も最後まで声を貼ってくれていた。


「こんなにお店が栄えたの……久しぶりだったな。」

「尾崎さんもありがとうございます。お客様全員が声を揃えて美味しいと言ってくれました。」

「あはは、これはちょっとしたお礼だよ。」


すると、尾崎さんはマルゲリータと……カルボナーラを私たちに用意してくれた。


これもまた、かなり絶品だった。

カルボナーラは温泉卵が乗っていて、クリーミーさと胡椒の絶妙な辛さが美味しさを引き立てるし、マルゲリータはバジルとモッツァレラチーズの旨味がマッチをしていてシンプルながら美味しく感じた。


「美味しい!疲れた体に最高の栄養ですよ!」

「あはは、佐倉さんいい食べっぷりだね!」


祭りのあとのような和気あいあいとした雰囲気が私たちを幸せな気持ちにしてくれていた。


そうして、ゆっくりと後片付けをして私たちの挑戦は幕を閉じようとしていた。


その時だった。


「ことねさん!」

「ふぇ!?お……尾崎さん!?」


突然、尾崎さんが私に駆け寄ってきた。

キリッとした顔が近くて私の心拍数をあげる。

少し、仕事が終わって汗があるのだがそこが妙に色っぽくさえ感じる。


「ことねさん……よかったら、お店一緒に作らないか?」

「え?それはどう言う。」


「君となら……なにか掴める気がするんだ。君との時間はとても楽しく、今までの私には無いものばかりだったから、今の僕には君が必要なのかもって思ったんだ。」


求められている。

その言葉だけで私は嬉しさのあまり思考が停止仕掛けていた。

頭からプシューとやかんのように煙が出ているのを感じる。


「頼む!僕とお店をやってくれ!レストランは今はほとんどゴーストレストランみたいな感じだし、メイド喫茶……やろう!」

「そ……その……ごにょごにょ。」

「へ?」


私は口ごもって自分でも何言ってるか分からなかった。

なんで、この男性を前にすると喋れなくなるのだろう。

今の自分をビンタしたい。


しかし、そんな時に舞衣ちゃんが私の前に立ってくれた。


「やりましょ!ことねさん……尾崎さんがかっこよすぎて喋れないんです。」

「え?かっこよすぎ……!?」

「ちょ!舞衣ちゃん!何言ってんの!」

「何言ってんのって……事実ですよ。」


舞衣ちゃんは少し呆れたように言う。

この子少し肝っ玉お母さんみたいなところあるのよね。


「やりましょう。この人、今のところニートでやることないんで仕事も探さなきゃだったから大歓迎です。」

「今の子って結構辛辣だな……あはは。……ことねさん、この回答で大丈夫なのかな?一応確認だけど。」


私はドキドキしながらゆっくりと首を縦にうなずいた。私も、この人と一緒にやってみたい。

今日初めて会ったけど、この人と働くのは本当に楽しかった。


私も、この人の力が必要なのだ。


私はこの人と手を組んでお店を盛り上げることにした。

メイド喫茶を少しオシャレにしたイタリアンメイド喫茶。少し斬新だけど、それはそれで楽しそうだった。


帰り道、私たちは都会の喧騒に揺られながらゆっくりと歩いていく。

見慣れた街を歩くという実感が不思議と眠気を誘っていた。


夏の夜は涼しい、そしてどこからか聞こえるひぐらしの声が夏が少しずつ終わりを告げているのを感じた。


でも、その終わりは……なにか新しい始まりをどこか告げるようにゆっくりと時間を刻んで行った。


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