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僕のお母さんは△▽女優  作者: kyonkyon
第8章 うちのメイド長はヘビースモーカー
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うちのメイド長はヘビースモーカー15話

私がメイドをやめて2週間が経ちそうだった。


今日は、レンタルキッチンを使って私のお店が出されることになる。

私は、メイド喫茶としてメニューをある程度簡易的なまでにオペレーション化した。

SNSも「神宮寺ことね」というアカウントを作り、オープンを告知まではした。


フォロワーは徐々に伸びて、3日で100人になったが……やはり広告としては弱いものになって言った。


そんな準備が弱い中、当日を迎えることになった。


朝、夏の暑さがこの時間だけ引いていて、小鳥のさえずりとともに程よい涼しさを感じる。


ピンポーン……

インターホンが鳴り響いた。

誰が鳴らしたかは事前にわかっていた。


「ことねさーん!おはようございます!」

「(ガチャ)……おはよう。」


私はうねる様な低い声で挨拶をする。


「こ……ことねさん……!?体調不良ですか?」

「なんか……ずっとドキドキしてて……寝れなかった。」

「いや、遠足前の小学生ですか。」


そうか、これがその楽しみという概念なのか。

親に虐待され続けたから希望を抱くって概念がなかったので楽しみによる緊張も初めての経験だった。


「でも……やる気は……ある……。」

「説得力無いですよ~!ほら、顔洗ってください!」


わたしは身体の気だるさを振り絞り、水シャワーを浴びて全身に気合を入れる。

以前、舞衣ちゃんと水風呂に入ってからは実は習慣化していたりした。

20分後に本来の私に戻る。

メイクも準備してある、見慣れた「メイド人間」の私だった。


「ごめん、かなり待たせたわ」

「大丈夫です!調子も戻ってきたみたいですし……今日は頑張りましょ!」


私たちは都内の某キッチンを借りることになったので、身支度を済ませてその場所へ向かうことにした。


☆☆


夏の炎天下がピークを迎える前に電車に揺られながら私たちはそのキッチンにたどり着くことになった。


厨房とバーカウンターがある、綺麗なお店だった。


「ここ……?」

「はい!どうやら……今日は定休日みたいで定期的にこうやってレンタルサービスやってるみたいですよ。」

「面白いわね、農業の二毛作みたいだわ。米が育たない冬に麦を植える感じ……。」

「あはは!ことねさん……相変わらず面白いこと言いますね!」


そんな雑談をしていると、一人白衣の男が中からでてきた。

「こんにちは……予約していた佐倉さん?」

「は、はい!佐倉です!」

「オーナーの尾崎です。本日はどこ使ってもらっても大丈夫だからね。」

「ありがとうございます!」


この尾崎さんという男がオーナーをしているようだった。

年齢は同い年か……やや年下くらいだろうか?

大人しく、優しい印象を受ける。


「あの、定休日は毎週水曜日なんですか?」


突然、私はそんな事を聞いてしまった。

理由は無い、ちょっとした好奇心である。


「あはは……先代の父から受け継いだばかりなんだけど、みんな父の圧にやられちゃってみんな辞めちゃったんだよね。だから人手不足過ぎてやっていけてないんだよ。」


尾崎さんは少し恥ずかしそうだが全て話してくれた。

きっと素直でいいひとなのかもしれない。


私たちは3時間掛けてカレーと、オムライスの仕込みをした。

パフェも1日10食限定で準備をする。


しかし、こんなに包丁を触ったのは久しぶりだ。

中々動きがぎこちなく感じる。


「玉ねぎ……スライスするの難しいよね。」

「尾崎さん。」


玉ねぎをぎこちなくスライスする私に尾崎さんは優しく声をかけてくれる。


「ちょっと包丁触ってもいい?」

「どうぞ。」


すると、尾崎さんは包丁を持ち、玉ねぎに横に切れ込みを入れるとまるで太鼓の達人の連打を打つようにまな板からトントントン!と勢いよく音を立てスライスをしだした。


「……は、早い。」

「これはね、引き切りっていうの。包丁を後ろに引いてスライスする感じ、その後はミシンで布を合わせるように左手でゆっくりと玉ねぎを調節するんだ。」


すると、尾崎さんは包丁を私に返してわたしは見よう見まねで後ろに引いてみる。


トン……トン……。


「難しいですね。」

「包丁の手前から真ん中くらいまで使うイメージでやってみな?」

「はい。」


トントン……。


「うん、いい感じ!切り方の型は出来てるから後はリズムをイメージしてみて!あ、あと右足を半歩引くと腕の可動域ができるから綺麗に切れるよ。」

「はい。」


トントントントン!!!


わたしは、尾崎さんのアドバイスで物の見事に包丁の技術が着いたようだった。


「すごい!ことねさん……才能あるね!いい調子!」


優しく、すこし弱気だが優しく接してくれる尾崎さんに少し胸の奥がポカポカとする感覚があった。


私をメイドではなく……等身大で向き合ってくれたおかげで仕込みが予定よりも早く終わってしまった。


全身が暑く、背中に汗が蒸れているのを感じた。


「舞衣ちゃん、ありがとうね!これでだいたい終わったわ。」

「ことねさん、結構料理人向いてるかもしないですね。この数時間でめちゃくちゃ上達してたし。」

「そうかしら?普段冷蔵庫もない生活してるからあんまり料理しなかったけど、案外楽しいわね。」


わたしは、屋外でセブンスターを吸いながら舞衣ちゃんと話す。

やっぱり人並みに働いたあとのタバコは美味い。

仕事がない時のタバコは、ただの煙の味しかしなかったのに疲れてたり疲労を感じる時に幸せに感じるのだから、見事なニコチン中毒である。


「お疲れ様!これ……差し入れのパンナコッタです!」


すると……尾崎さんがにこやかな笑顔でパンナコッタを出してくれた。

上にはメロンを砂糖で煮込んだコンポートと柑橘系の皮を砂糖とレモンで煮込んだマーマレードが乗っていた。


「わー!めっちゃ美味しそう!尾崎さん、ありがとうございます。」

「ど……どうも。」


私は、何故か尾崎さんの顔が眩しくて顔を直視出来なかった。

不思議である。今まで男なんて野菜を見る感覚だったから特に興味がなかったはずなのに、今日だけ調子がおかしい。


「きゃー!めっちゃ美味しい!生クリームがすごく濃厚!」

「ありがとう!ことねさんは……お口に合うかな?」

「そ……その……まあまあです。」

「へ?」


言葉のチョイスミスに自分の顔をビンタする。

なぜ美味しいと素直に言わないのだろう。


「(バシンッ)……気にしないでください。ちょっと間違えました。」

「そ……そうなんだ……。疲れてる?ほっぺ腫れてるけど。」

「い……いえ、べべべべつにだだだだ。」

「あー!コーヒー!コーヒー零してるよ!?ことねさん!」


どうやら……私は少し可笑しくなってしまったみたいだ。

尾崎さんが近づくと心拍数が上がってしまう。

……そんな、ちょっと玉ねぎの切り方教えてもらったり優しくされただけなのに……どうしたのだろう。


「いや~それにしても、こうしてやりたい事をやってる2人に元気もらったよ!……今日、差し支えなければキッチン手伝ってもいいかな?別にお金はとったりしないよ。」

「え!いいんですか?尾崎さんめちゃくちゃ優しい~!ことねさん!お願いしちゃいましょ!」


……私は、舞衣ちゃんに押されて尾崎さんと面と向かう。

尾崎さんは肌が綺麗で、少し目鼻がキリッとしていて、目が優しそうで目は口ほどに物を言うとはよく言ったものたとおもった。


少し、首を傾げて言葉を待ってくれている。

私の歩幅に合わせるように。


「尾崎さん……今日はお願いします。」

「はい!任されました。間違ってたら気軽に言ってね!」

「は……はい。」


お店のオープンまであと1時間を切っていた。

いつものような調子が何故か出ない中、わたしは強くプレッシャーにおされていた。


お客さんが来なかったらどうしよう。

尾崎さんに迷惑をかけたらどうしよう

無駄に終わって……笑われたらどうしよう。


そんな不安がいつもの白一色の私を色を混ぜた絵の具のようにグチャグチャと混沌をつくりだしていた。


心拍数が上がり、汗ばむのを感じる。

うまく……行くのだろうか。


「だーれだ!!」


突然、私の目の前が手で押さえられる。

視界が暗くなり、わたしはパニックになってしまった。


「きゃあああ!?」


びっくりして、後ろを向くと舞衣ちゃんが後ろでぴょこぴょこと跳ねながら笑っていた。


「舞衣ちゃんでした~。」

「……怒るわよ。」

「あはは、でもさっきよりは元気出た気がします。いつも通りで行きましょ!ことねさんは凄いんですから。」


その言葉に、わたしは精神が急に波が凪いだ湖のように静止した。

そうだ、わたしは神宮寺ことね。

今までたくさんの苦難を乗り越えてきた。

それに比べたら、今の壁なんて手を伸ばせば乗り越えられるものだ。


気持ちで負けては行けない。

その瞬間から勝てるものも勝てなくなってしまう。

私は、一人でうわはは……と笑いが込み上げた。


「やりましょ、心配しないで!全て上手くいく。」


「メイド人間」の神宮寺ことねはもう誰にも舵を委ねなくなった自由の身だ。

きっと、今日も素敵な日になるだろう。


オープンまで……あと15分。

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